体育祭とフォークダンス
今日も太陽光が燦々と降り注いでいる。
体育祭だからと、張り切り過ぎて脱水症にならないよう、救護テントには補水液やらスポーツドリンクやらが完備されている。
体育祭で、運動部の子たちがやたらめったら張り切っているけれど、運動神経がない人間からしてみると、早く終わってほしい以外がない。でも今年は違う。
結局夕哉くんはあれもこれもと頼まれて、四つも競技を回すことになってしまったから、応援しないとと思っている。さすがに大変だろうと、お弁当をクラスの皆にも配ろうと、唐揚げをたくさん揚げてきた。
その中、私たちは救護テントの下で待っていたら、いよいよ競技がはじまった。最初は綱引き、その次は玉入れで、私みたいに運動神経がない人間が参加する種目だ。その中、入場門に並んでいる夕哉くんを見かけた。玉入れの次は……障害物リレーだ。障害物リレーはネットを抜けたり、布被ったまま走らないといけなかったりで、運動神経だけでなく、そのときの運までかかってくるから、最初からある程度走れる子じゃなかったら参加できない。おかげで本当にギリギリまで参加者が決まらなかったんだ。
私がオロオロとしながら入場門を見ていたら、夕哉くんとバチンと目が合った。途端こちらに笑顔で手を振ってくる。それに私が手を振っていたら、「あれ、ヒーロー」と先輩たちが言う。
「ヒーロー?」
「SNSに載ってたよ、小さい子を助けたイケメンがいるって。うちの学校の子だって騒いでたけど、保健委員の子の彼氏だったか」
彼氏……そうなんだけど、そうかあ。
まだSNSの話が忘れられてなかったんだなあと、むずむずしていたら、「あれ、朝霧」と声をかけられた。
そこに仁王立ちしていたのは、東雲先輩だった。こんなに炎天下だっていうのに、相変わらずきつい匂いがするほどの制汗剤を施しているとはいえど、化粧崩れゼロの上手い化粧だ。私は「保健委員押しつけられたので、二学期から保健委員です」と自己紹介すると、「ふん」と鼻息を立てられた。
「あなた、余計なことしたでしょ?」
「余計なことって」
「黄昏くん、後輩と付き合いだしたとか言ってたんだけど」
「えー、付き合いはじめたんですか?」
「あなた、これ嘘ついてるんじゃないでしょうね?」
睨む顔も美しいなあと思いながら、私は「うーんと」と声を上げる。
「黄昏先輩はちゃんと人間扱いしてくれた人を好きになっただけだと思いますし、私はそれにいちいち関与しませんよ」
「もう! あなた本当に余計なことばっかり!」
「してません、してませんって」
「……まあ、いいわ」
東雲先輩はキリッと立つ。
この人も失恋したとは言えど、強いなあ。
私はいつも玉砕して恋が終わるけれど、東雲先輩の場合は告白するタイミングすらなく終わっちゃったんだもんな。それで泣けないから、こうやってキリッと立っている。
「私、同じ学年だもの。同じクラスだもの。フォークダンス踊るんだから。後輩に言っておきなさい。せいぜい指くわえて見てろって」
「……私、東雲先輩のその仁王立ちして、負けん気強いところ結構好きですよ。多分、そういうのを格好いいって思う人だっていますから。あんまり気を落とさないでくださいよ」
私の言葉に、ますますもって東雲先輩は怒ってしまった。
「お節介! おべんちゃら! あなたのそういうところほんっとうに嫌い!」
「いや、ビッチでも尻軽でもないのに、ビッチとか尻軽とか言われるよりは痛くもなんともないですが。先輩、やっぱり調子悪いですね? 悪口にキレがありません」
「きいっ! 脱水症気味だから、ちょっと水もらいに来たの! 経口補水液ちょうだい!」
「あ、はい。どうぞ」
全然曇る気配もないし、太陽は強気だ。
脱水症気味の人たちが風の吹いている救護テントにやってきて、たびたび経口補水液をもらいに来て涼んでいたので、保健委員は講習まで受けた怪我の手入れよりも、経口補水液配る仕事のほうが増えてしまったんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます