デートに出かけてそれから
デートの日……そうは言っても、螢川くんはデートと思っていないような気がする。悲しいけれど、それでも夏休みに一緒に遊びに行けるのは素直に嬉しいと思っておこう。
私は東雲先輩の助言を思い返しながら、早朝に起きて丁寧に下地作りをしていた。
汗に負けない肌にしないといけないけれど、汗を塞き止め過ぎても肌によろしくないから、本当に時間をかけながらも丁寧にだ。毛穴を引き締めるように化粧水はあらかじめ冷蔵庫で冷やしておき、顔を洗ったらそれですぐに肌を締める。美容液、乳液の順番で肌の水分を行き渡らせてから、下地兼日焼け止めクリームを塗っておく。
『化粧はねえ、結局どこかで直さないといけないから。ウォータープルーフのを使えばいいってもんじゃないの。直しやすさを優先するの』
校内でも学校の先生に見張られずに、なおかつ混雑しないトイレの時間と場所を確認しておき、そこで化粧を見つからない内に直すというのが基本だと知ると、目から鱗だった。そうだよなあ、学校の中になんかパウダリールームなんかある訳ないし。高校生で先生たちに怒られないのなんて、せいぜい汗拭きに使える油取り紙か、リップクリームだから、ゆっくり化粧直しできる場所の確保は重要なんだなあ。
上からパウダーをはたいて、チークもビタミンカラーのものを載せる。リップもビタミンカラーのものを選んでから、キープミストを上から振りかけてできる限り汗で化粧が流れるのを防いだ。
最後に首筋や脇に、きっちりと制汗剤を振りかけておくことにした。レモンの香り。
服はどうしようと迷ったけれど、化粧が今回は比較的くっきりしたものだから、それと真逆に白い清楚なカットソーに、青いフレアスカートを選んだ。今日はきちんとレザーサンダルを選んだから、これで大丈夫だろう。上から日焼け避けの白いシースルーのカーディガンを羽織り、白い日傘を差して出かけることとした。
まだ日差しはそこまで高くないのに、アスファルトからもうもうと熱が立ち込めているような気がする。いつもよりも素足が近いせいか、サンダル越しにじりじりと焼けたアスファルトの熱を感じる。それでも蝉が鳴いているのは、まだ真昼よりも涼しいせいなのか。
今日は螢川くん、どんな格好で来るんだろうなあ。さすがに特撮の限定ジャケットとかだったら暑いだろうし。私がぼんやりと待っていたら、「朝霧さん!」と元気に声をかけられた。
それで振り返って、私は思わず顔がブワァーと熱くなるのを感じた。これで化粧が流れ落ちても後悔しないだろうと。
今日の螢川くんは、黒いTシャツにカーゴパンツ、スニーカーと、比較的ストリート系のファッションだったけれど。似合う人が着たら本当になにを着ても似合うんだよなあ。そもそも明るい好青年って印象の人が、シンプルな格好をしても似合うんだよねえ。
「おはよう、なんだか朝霧さん。お嬢様みたいな格好だな?」
そう螢川くんが言うので、思わずボッと頬が熱くなる。
多分これは褒めてるとかじゃなくって、螢川くんの語彙の問題だと思う!
「そっ、そうかなあ!? 全然お嬢様ではありませんが!」
「いや可愛い。似合う。可愛い」
どうして二回言ったの。どうして二回言ったの。
二回目の私服で喜んでいたところで、二回も可愛いと素直に褒められて、私は既にキャパシティーオーバーよ。
私がプルプル震えている中、螢川くんはキョトンとしている。
「朝霧さん?」
「う、ううん。なんでもない! 螢川くんも格好いいねえ」
「そうか、ありがとう! 全然わからないから、特撮出身俳優が買い物してたっていうブランドの店に行ってマネキン買いしてきた!」
「マッマネキン……」
たしか、特撮でデビューした俳優さんは、そのあとも活躍している人が多いらしいけど、お小遣い的に大丈夫だったのかな。
私がフルフルしている中、螢川くんはあっけらかんと続ける。
「だってさ、せっかく一緒に映画行くことになったんだから、もうちょっといい服で行きたかったんだ。朝霧さんが可愛い服着てるのに、俺が恥掻かせちゃいけないし」
「ほ、螢川くん……」
私はキュンッ……と胸を高鳴らせながらも、怖々と聞いた。
「ええっと……どちら様からの助言……とかでしょうか?」
「うん? 夜風さんとたまたま出会ったときの世間話で」
「な、奈美子ちゃんかあ……」
奈美子ちゃん、ありがとう。奈美子ちゃんなりに無茶苦茶心配してくれたんだね。でも大丈夫だよ、螢川くん、思っているよりもずっと気遣いだから。
親友が心配してくれたのに感謝し、今度は奈美子ちゃんにもソフトクリームをおごらないとと誓う。
私が拳を握って頷いていると、それを螢川くんは不思議そうな顔で眺めていた。
「朝霧さん?」
「な、なんでもない! それじゃ行こうか」
「おう。映画楽しみだなあ」
「そうだねえ」
なんだかんだ言って、私も楽しみにしながらふたりで映画館へと向かっていった。
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