夏休みが長過ぎる
私と螢川くんの図書室通いも、七月末には終わってしまった。
宿題が全部片付いてしまったのだ。普段だったら困ってしまう自由研究も読書感想文も終わってしまうとは思ってもおらず、私は螢川くんに「すごいねえ」とだけ答えた。
螢川くんはあっけらかんとしている。
「特撮で元ネタになっているような本とかよく読むからなあ。ハードボイルド小説とか、探偵小説、あと神話系統は」
「特撮って元ネタにそこまでいろいろ使われてたんだねえ」
「子供向けって、本気でつくらないと子供にだってバレるからなあ。いっつもすごいんだ」
私は映画化もされていた青春小説でお茶を濁し、自由研究も七月の間朝ご飯をつくってそれの写真を撮り続け、レシピと一緒に書いたら終わった。世の中何故かエプロンやら服やらつくってくる女子が多過ぎるし、手芸方面はからっきしだから、料理レシピを綴ることで終わらせたんだ。
螢川くんは、どうもアクションスクールのことを自由研究にまとめるらしく、まだできてないとのことだった。
蝉はまだ泣かない。汗でゆだりそうになりながら、私たちはアスファルトの道を歩く。
「それじゃあ、俺は登校日まで合宿行ってくるから。朝霧さんも体調に気を付けて」
「ありがとう。螢川くんも、今日みたいな日はほっとくと死んじゃうから、本当に熱中症と脱水に気を付けてね!」
「うん。それじゃあ!」
「行ってらっしゃい!!」
私はブンブンと手を振りながらも、しょんぼりとしていた。
どうしてだろうなあ。友達とこういうことするもんなのかなあ。でも螢川くんは友達だって言い張るんだ。
螢川くんは、私のことをビッチとも尻軽とも思ってない。私が惚れっぽいって知っているのに、それでもなお、私のことを「ガッツがある」と肯定してくれるような本当に優しい人。でもなあ……。
友達だったら、友達のままなんだよ。友達とはデートしないし、付き合うこともない。
でもな。普段だったら今だったら好きになってもらえそうってタイミングで告白しているのに、今はそれが怖い。なんでそんなに怖いんだろうなあ。
多分螢川くんは私をフッたとしても、友達として傍に置いてくれると思う。多分ずっと友達でいられると思う。ずっと友達……。
「なんか、ヤダアアアアア」
思わずグスンと泣いてしまった。
なにがそこまで気に食わないのか自分でもよくわかっていない。
自分から友達だと主張して隣に貼り付いているのと、フラれてもなお友達のままで傍にいるの。やっている図々しさは同じはずなのに、後者はいつものことのはずなのに、今はとってもみじめなことに思えてしまう。
やだよう、螢川くんから離れたくないよ。それならもう友達もままでいいよ。でもそれなら。螢川くんが好きな人ができたら、どうなってしまうんだろう。
やだよう。どうすりゃいいんだろう。私はただただ、泣きながら家に帰った。
私は図書室で出会った先輩みたいに完璧な化粧はできず、汗と涙で流れた日焼け止めのせいで、顔はありえないほどぐしょぐしょになってしまっていた。
本当にみじめ。
****
夏休みは学校に行かなくていい。宿題も終わったから勉強もしなくていい。体育だってしなくっていい。
普段だったら予定をめいいっぱい詰め込んでエンジョイしているというのに、八月は螢川くんに会えないというだけで、私は無気力になってしまっていた。
ただクーラーと扇風機の風を受けながら、自堕落に「あー……」と声を上げつつ、アイスバーを貪る。自堕落の極みだった。
「未亜、さすがにそれはないでしょ。せめて美容院にでも行きなさい」
「えー……今は可愛くする必要ないし……」
家に引きこもっていたら、髪をセットすることもなく、ただシュシュでまとめてポニーテールにしただけのラフさ。服も全然気を遣う必要がないから中学時代のジャージを穿いて着崩れて外には着ていけないTシャツを着ていた。
それにパートに出かけるお母さんは呆れて言う。
「隙だらけなのは、いつか絶対に恥ずかしい目に遭うの! お母さんパートに行ってくるから、留守番お願いね」
「あいあーい、行ってらっしゃーい」
「もう!」
お母さんはプリプリ怒りながらパートに出かけていったのを尻目に、私はアイスバーを食べ終え、ぼんやりとする。
八月に入ってから、本当に螢川くんに会えない。一応アプリのIDを交換しているから、連絡はできるけれど、そんなずっと連絡し続けるのも重い気がして、なにもしていない。
私、ここまで臆病な人間でもなかったはずなのにおかしいな。
自堕落を極めに極めている中、ふとスマホにピコンとアプリの着信音が鳴った。
見てみたら奈美子ちゃんだった。
【今度神社の巫女さんのアルバイトあるけど、暇ならする?】
たしか、近所に大きな神社があったなと思い至った。そこでバイトは本当にときどきだけ募集がかかるけど。
あれかな、夏祭り用かな。どうしようと考えた結果、螢川くんに次に会うときのメイクセットが欲しいなあと、【したいしたい】と返事をすることにした。
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