見学会と訪問
その日、螢川くんとコロッケパンを食べていた。単純に私が揚げてきたコロッケをふたりで購買部で買ったコッペパンに挟んで食べているだけだ。
そろそろ揚げ物シーズンも梅雨が近付いたら終わらないといけない。いくら揚げ物だからって、湿気が少しあると腐りやすいもんな。
ふたりでもごもご食べていたら、「そういえば朝霧さん」と螢川くんに声をかけられる。
「なに?」
「今度、うちのレッスン場に来ないか?」
「ふえ?」
たしか螢川くんはスタントマンになるために、放課後はアクション教習所に行ってアクションのレッスンを受けている。運動はあれこれやっていると聞いていたけれど、それを間近で見られるのかと思うと、そわそわする。
「あの、私が見に行って、邪魔にならないのかな」
「いやあ……元々一般開放日というか、うちの教習所の見学会の日だから。客寄せって訳じゃないんだけど、見学者が来てくれたほうが嬉しいから」
「そういうものなの?」
「特撮やアクション映画が好きな人が、結構観に来るんだ」
「なるほど……」
この間見に行ったヒーローショーでも、あれだけピタッとしたスーツを着ていてもキレのある動きをしていたから、かなり練習していたんだろうなとわかる。それを見に行くのはなかなか面白そうだ。
前に螢川くんに薦められた特撮ヒーローもの、動画サイトで見始めたらなかなか面白かったし、話もかなり複雑に入り組んでいるのにするっと飲み込めるようになっててすごかったもんなあ。
「いいよ。私でよかったら」
「ああ! ありがとう!」
そのまま手をぎゅっと掴まれたのに、私は内心「ギャッ!」となった。
螢川くんはどうにも、私のことは「特撮を語り合える友達」みたいな風に思っているところがある。私が珍しく彼に告白するのを躊躇してしまったというのがあるけれど。
いいのかなあ、これで。このままで。
未だに答えが出ていない。
****
螢川くんのレッスン風景を見に行くのに、浮かれた格好してていいのかな。
でも本当にアクション俳優やスタントマンを目指している人たちの失礼な格好はしちゃ駄目だし。考えた末、キャミソールに薄手のカーディガン、デニムのミニスカートにレギンスを合わせた格好になった。暑いような気がするけれど、派手過ぎず地味過ぎずを考えたらそんな格好になったんだ。
差し入れとか持っていったほうがいいのかなと思ってネットを確認したものの、夏期の差し入れは駄目的なことを書いているサイトが多かったから、今回はやめておいた。今度会ったら感想を伝えよう。
アクションスクールは開放日と言っているだけあり、警備員さんに挨拶をしたら、すぐに入れた。入口ではパンフレットを配っていて、それを見ながら見学できるようになっていた。
「ここから先は見学は自由ですが、カメラ撮影は禁止ですから。スマホの使用の際もカメラアプリはご遠慮ください」
「わかりました」
注意事項を聞きながら、私は中を歩いて行く。
「そういえば、今日はどこでレッスンしているとか、聞かなかったなあ」
今、螢川くんはなにをやっているのかな。
そう思いながら入ってみると、陸上コートみたいな場所が広がっていて、そこで走っている生徒さんたちが見られた。そうだよなあ、アクション俳優だったら、まずは走らないと駄目だし、そうでなくっても持久力が必要だ。
続いて建物の中に入ると、スポーツジムみたいに器具が並んでいるところに出会う。そこには特撮ヒーローの描かれたTシャツを着ている男性が多い。なんだろうなあと思ってみていたら、話を立ち聞きした限り「あの特撮のレジェンドが、今日はコーチ!」と騒いでいた。どうも特撮の好きが行き過ぎると、スーツアクターをしている人がスーツを着ていてもわかるらしい。そんなこと、たしか螢川くんも言っていたなあ。
そうこう思っている間に、今度は柔道場みたいな場所に出た。そこでは胴着を着た人たちが立ち会いの下で手合わせをしているのが見えた。
「はあっ!」
「やっ!」
大きな声の元、足がありえないくらいに高く蹴り上げられ、それを腕で受け流している姿。迫力満点過ぎて、しばし目が釘付けになっていると、その受け流しているのは、胴着姿の螢川くんだったのに気付いた。
普段快活でさわやかな人が。すごく鋭い瞳で神経磨り減らしながら手合わせをしている。すごい。
私はしばらくそれを外から見守っていたら、「いかがですか?」とにこにこした男性が出てきた。アクションスクールの人にしては、あまりに優しげだったことに、私はビクンと肩を跳ねさせた。
「いや、すごいなあと思いました」
「はい。スタントマンにスーツアクター、どうしても影に埋もれがちな人々ですが、彼らは切磋琢磨して技術を磨き、ドラマや映画、様々な場面で活躍していますよ」
その人はすごく嬉しそうに言っていた。
螢川くんが好きなものに触れ、私も今、そのすごさをひしひしと感じている。
「はい、すごいと感動しています」
そう素直に伝えた。
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