デート帰りで少しだけ進展
コーヒーカップまでふたりでしゃべっていたら、小さい子が泣いているのが目に留まった。それに螢川くんは「ちょっと着いてきて」と言ってから、小さい子に屈み込んだ。
「どうしたんだい?」
「しらないひととおはなししてはいけませんって、おかあさんいってました」
「うーん、しっかりしたご家庭だあ」
螢川くんは困った顔で頬を引っ掻くと、私が隣から口を挟んでみる。
「どうしたの? 迷子かな?」
私が声をかけても、小さい子はちっとも警戒を緩めてくれない。
小さい子は、泣きながら首にかけている防犯ブザーを鳴らした。途端に警備員さんが飛んでくる。
「どうしましたか!?」
「しらないひとにこえかけられたあ……!!」
ただでさえ泣いていた小さい子は、そりゃもうガン泣きだった。
それに私と螢川くんが平謝りする。
「すみません、すみません。この子迷子のようなんですが!」
「私たちが泣いてるのに声をかけたら、防犯ブザー鳴らされちゃって!」
私たちに平謝りされたのには、どうも警備員さんは慣れっこのようで、小さい子に替わって小さく頭を下げてくれた。
「あー……最近小さい子の誘拐事件多いですから、どうしてもどこのご家庭も防犯対策で過剰なくらいに躾でおっしゃってるんですよね。警備服着ている人以外には着いていかないとか、子連れの主婦以外に声をかけられても無視しなさいとか。もし迷子さん見かけましたら、誰かひとりは迷子さんを見ておいて、誰かひとりはスタッフに声かけてくださいね」
そう言って警備員さんは迷子センターに連れて行ってくれることとなった。あの子はちゃんと親御さんと会えるといいんだけど。
それにはさっきはヒーローらしい活躍ができて喜んでいた螢川くんはぺしゃんとへこむ。
「うーん、これは悪かったな!」
「そんなことないよ。だって、最近は小さい子に声をかけたらその時点で警戒されること多いから、迷子さんを見かけてもすぐに声をかけられないから。すぐに声をかけられた螢川くんは偉いよ。でも今度からは係員さんに相談しようね」
「そうだよなあ、うん。ありがとう」
螢川くんは立ち直りも早く、へこんだと思ったらもう復活していた。その中、彼は続ける。
「いやあ、朝霧さんは本当にすごいなあ」
「へえ?」
「朝霧さんは本当に人の長所を見るのが上手く、人の短所をオブラートに包むのが上手いな」
「……ええ、そんなことないと思うけどなあ」
私は思ってもなかった褒められ方で、わたわたしながら手を振る。でも螢川くんは握りこぶしをつくりながら力説し続ける。
「いやいや、そんなことはない。だって、朝霧さんは人の話をよく聞く。人の話を聞くっていうのは、才能だ。そして人の話をよく聞いて一番優しい言葉を選ぶのは、もっとすごいことだ。君は本当にいい人だ」
「…………っ!!」
キュンッと胸が高鳴った。今まで以上に。
ここまで褒めてもらったことなんて、今までない。そもそも、私のそういうところは、いつだって「ストーカー」「なんかキモい」「余計なお世話」と一蹴されてしまったせいで、そこは悪いところなのかと思っていた。
ここまで真っ向から肯定されたこと、今までなかった。
「……私、嬉しい。そこまで……褒められたことがなかったから」
「そうなのか? それは……うーん、よかった」
「えっ?」
「俺が朝霧さんのいいところを一番よく知ってるんだなと思ったから」
「…………っ!!」
この人、私にどれだけストレート打ち込めば気が済むの!
好き! 本当に好き! でも、なあ……。
普段だったら、「好きです!」と告白してしまうところなのに、今回だけは何故か躊躇った。今一緒に仲良くしている。それでもう幸せで、それを崩すのが怖くなってしまったんだ。
「朝霧さん?」
キョトンとした螢川くんに、私は首を振った。
「なんでもない! コーヒーカップ乗りに行こう!」
「ああ! あれ、回してみたかったんだよなあ」
「あんまりぐるぐる回すと酔っちゃうよ。さっき食べたばっかりなんだからさ」
こうして、私と螢川くんは、ふたりで仲良く遊園地を満喫することになったのだ。
コーヒーカップ、ミラーハウス、ジェットコースター、急流滑り……。
傍から見て、デートに見えているといいなあと少し思う。今回は初めて告白するのが怖いって思ってしまった気持ちも、今はなかったことにした。それはデートが終わってから考えればいい。
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