ヒーローショーの一幕

 一応螢川くんから聞いた話によると、ヤングキングは王道ヒーローで、異世界からの侵略者のダークボーダーと戦う戦士として、異世界の穏健派から世界を守るための力を与えられた高校生が、高校生活を満喫しつつもダークボーダーと戦う姿を描く友情努力勝利の話だとか。

 一方ナイト仮面は地下世界アンダーグラウンドに無理矢理拉致監禁された末に改造手術をされてしまった主人公がアンダーグラウンドから逃走、アンダーグラウンドに人間を誘拐しようとするアンダーヒューマンと戦う改造された故に人間社会に戻れないヒーローの悲哀を描いた話らしい。

 だいぶ入り組んだ話だなあ、これ子供たちわかっているのかなあと思っていたけれど、子供たちは目をキラキラ輝かせてショーを見ているから、どうもヒーローの格好よさは理解しているみたい。


「あのさあ、ヒーロー同士が戦う話なの、これって」


 私が小さい声で螢川くんに聞くと、螢川くんは「違う違う」と手を振った。


「最初はよくわからないまま互いのことを知らないから敵対するけど、どうもどちらも正義の味方らしいと気付いてから共闘するっていうのが、今の王道展開なんだよ」

「なるほど? なんかそんな映画とかもあるような気がする」

「アメリカのヒーロー映画とかって、そういうの多いんだよなあ。アメコミはアメコミで話が入り組んでいるのが多いんだけどさ」


 少しだけしゃべっていたら、話がはじまったから、私の口元は抑えられて、螢川くんにも「しっ」とされた。

 とりあえず私はステージのほうを見ていたら、ヒーローが出てきた。

 たしかスーツアクター……ああいうスーツを着込んでいる人になるのが螢川くんの目標だって聞いてたけど。ヒーローが悪役が出てきたのをバシバシ戦う姿は、スーツを着て動いているとは思えないくらいにすごい身のこなしで動くから、思わずマジマジと見てしまう。

 なるほどぉ、ああいうすごい人に螢川くんはなりたいんだなあ。反射神経すごいし、適役の人たちと戦っているけど、その人たちを怪我させない立ち振る舞いだもんなあ。ある程度ちゃんと体の動きができてなかったら無理だよなあ。

 そう素直に感心していたら、「おのれ、ヤングキング! おのれ、ナイト仮面! 我々をここまで愚弄するとはあ~!」と敵のボスっぽい人が言い出した。

 私は「あの人は?」と観劇している人たちの邪魔にならないように聞くと、螢川くんは「このショー限定の敵じゃないかな」と答えてくれた。すごいな、ヒーローショー限定の敵っていうのもいるんだ。

 やがてそのボスは「ここにいる子供たちの中から、誰かをヒーローを誘き出すための人質にしてやる~! 人質になりたいのはだーれーだー!!」と言い出した。

 ええ、人質になりたい子っているの? そう思っていたら、子供たちはキャーキャー言いながら手を挙げはじめた。


「あれって……」

「あれはヒーローショー定番の子供たちをステージに呼ぶためのサービスらしいよ。俺も初めて見たけど、あんな風にするんだなあ」


 なるほど。人質に取られていたら、一番ヒーローの近くに行けるから、結果的にサービスになるのか。螢川くんは子供たちを心底羨ましそうに見ながらも手を挙げないのは、子供ファーストだからだろうなあ。

 私はそうキュンとしながら見ていたら、やがてちょうど螢川くんの近くにいた男の子がボスに指を差された。


「お前かあ。お前をヒーローたちの人質にしてやるー」


 そう言いながらその子は存外ボスに優しくステージに上げられるものの、様子がおかしい。男の子はステージに上げられた途端にプルプル震え出したんだ。


「あれ? あの子……様子おかしくない?」


 今にも泣き出しそうな顔で固まってしまい、ボスの人も慌てているっぽい。

 あれかな。ステージは存外視界が開けている。学校でやる劇とか、合唱コンクールとかに出ると、ひとりで段下を見るのは存外怖い。あの男の子もそれでパニック起こしちゃったのかな。大丈夫かなあ。

 私はオロオロとした顔で螢川くんを見ていたら、螢川くんは手をきゅっと握ると、手を挙げた。


「すみません! 人質交換です! あの子は脅えててヒーローが来る前に倒れてしまうかもしれません! 俺があの子の代わりになります!」


 そう言い出したとき、私は思わずギョッとした。

 ええっと、人質交換って、こういうのはヒーローショーとしてありなの? しかも螢川くんの格好なんて、ヒーロー好き過ぎるのが目に見えるでしょうに。真っ赤なライダージャケットなんて、市販では滅多に売ってないんだもの。

 私は普通に「駄目では?」と思ったものの。ボスさんは存外話のわかる人だった。


「ほほう、面白い。ヒーローが来る前に人質の価値がなくなってしまっては困るからなあ! よかろう、子供は解放してお前を人質にしてやろうかあ!!」


 そう言って男の子は本当に解放されて、螢川くんがステージに上げられていった。

 男の子の親御さんは心底頭を下げていた。


「すみません、この子本当にナイト仮面大好きで楽しみにしてたんですけど……」

「ステージの上って存外怖いですよね、行ってきます」


 小さいやり取りをしてから、親御さんに抱き締められている男の子とすれ違っていった。私はそれを見守っていた。

 ヒーローショーは滞りなく進み、ヤングキングもナイト仮面も途中は互いを敵と勘違いして攻撃したものの、最後は共闘の末にボスを討ち果たして、めでたくハッピーエンドで終わった。螢川くんも戻ってきたとき、ものすごくホクホクした顔をしていた。


「いやあ、すごかった! ヒーローの熱演を間近で見られたし! なによりもボス役の人に礼を言われた!」

「お礼言われたんだあ……」

「ああ、ショーを続行するには、小さい子が泣き過ぎてたからなあ。あれじゃヒーローたちが来て解放されるまで放置されてたら脅えてただろう。『替わってくれてありがとう』ってさ」

「そっかあ、なるほど」

「ああ……でもごめん。俺のワガママで着いてきてもらったのに、俺ばっかり楽しんでて。朝霧さん放置してて」

「ううん。小さい子を助ける螢川くん、ヒーローみたいで格好よかった」


 素直にそう伝えた途端に、螢川くんがドッと顔を真っ赤にすると、そっぽを向いた。


「ヒーロー、かあ……俺はまだまだだけど、そう見えていたんだったら嬉しい。うん、ありがとう!」


 そう屈託なく言う螢川くんに、私はまたしてもキュンキュンとした。

 遊びに行くのがヒーローショーだからどうなるかと思っていたけれど。螢川くんのいいところが見られて私は嬉しかった。そう伝えたら、喜んでくれるのかな。私は螢川くんがずっと照れているのをキュンキュンしながら眺めていた。

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