どうにかこうにかデートに持ち込む
次の日。その日はメンチカツを揚げて持ってきていた。とんかつは冷めてもおいしく揚げるの難しいから、冷めてもおいしいメンチカツにしたけれど、比較的喜んでくれてよかったよかった。
メンチカツに付け合わせの大根の漬け物、コーンのサラダももりもりと食べてくれたので、本当に食べさせがいがあるけれど。
その中、螢川くんがニコニコしつつも、こちらをちらちら見ていることに気が付いた。
「あのう……」
「はい? どうかした? 今日のメンチカツおいしくなかった?」
「い、いや! むしろ毎日毎日弁当をおごってもらっていて、申し訳なさが勝つというか。それで考えたんだが……うーん……」
「ええ……」
いつもいつも、好きでお弁当を持ってきていたから、そんなことを言われたのは初めてだった。螢川くん、しゃべっているとやたらとヒーロー然としたキャラづくりだけれど、いちいち常識人みたいなところが見え隠れするんだ。
私がドギマギしていたら、螢川くんが続けた。
「お礼と言ってはなんだけれど、お金を支払ったほうが……」
「おっ、お金は結構ですから、どこか遊びに行けばいいんじゃないですかねえ!?」
思わず思いっきり声が裏返ったことを言い、私は「しまった」と思う。
こんな売り文句に買い文句でデートに誘う奴があるかあ!
でもでも、そんなの全然螢川くんには通用してないよなあ……そう思ったら。
ますますもって彼は目を輝かせているじゃないか。
「そうか、そうだな! 俺、ずっと行きたい場所があったんだが……ひとりだと勇気がなくって行けたことがない場所があって……一緒に付き合ってくれないだろうか!?」
そう言われて、目の端に星が散る。
えっ? ひとりだと勇気がないけど、ふたりだと大丈夫な場所? カップル限定の場所? カップル限定割引、カップルシート、いろいろあるけど、なに?
「ええっと……いいよ。螢川くんが行きたいところで……」
「本当か!? 本当に行きたくっても、ひとりだと邪魔にならないかと不安になって、なかなか行けたことがなくってな……」
「うん?」
なんか様子がおかしいなと思っていたら。
「ヒーローショー! 行ったことがなかったから行ってみたかったんだ!」
「……ふあい?」
「遊園地にわざわざ出かけて、ヒーローショーだけ見て帰るのもなと躊躇って、なかなか行ったことがなくってなあ……幼少期に行けていたらよかったんだが、その頃は俺も入退院を繰り返していたから、そういう経験もないし。でも最近のヒーローショーはクオリティーがテレビ版と変わらずとも劣らないと評判だから、一度は行ってみたくってなあ……」
「いっ、いいよっ! 行こうよ! いくらでも行くよ!」
そりゃ卑怯だ。小さい頃行ってみたかったけど行ったことのない場所として指定されてしまったら、ヒーローショーが初デート? とか言えないよ。いいよ。それで螢川くんが喜んでくれるんだったら、なんだっていいよ。
ところでヒーローショーってなにを着ていけばいいんですかね? 遊園地に行く格好でいいのかなと考え込む羽目になってしまった。
****
「すごいじゃない、遊園地デートだなんて!」
「う、うん……」
私と螢川くんが遊びに行けることになったと報告したら、奈美子ちゃんは手をパンッと叩いて喜んでくれた。
まさか目的が遊園地内で行われるヒーローショーだなんて言えないし。
それにはさすがにこちらを遠巻きに眺めていた男子も口笛を吹いてきた。
「マジか、全然陥落しない螢川と遊びに行けるようになったか」
「君たちは私にフラれてほしいのか、フラれてほしくないのかどっちなのかね!?」
「いやあ、賭けは負けるほうにベットするより勝ったほうにベットしたほうが楽しいだろ。という訳で、俺はひと月後にフラれるほうに賭けてるんだから、それまでフラれるなよ!」
「ウギイイイイイイイイ!」
こいつら本当に人の失恋を娯楽にしやがって、ちっとも人の恋路を応援しやがらねえ!
私がムカムカしていたら、奈美子ちゃんはしみじみと言う。
「でもねえ……私は未亜ちゃんのそういうところ、すごくすごいと思うよ」
「はれ、奈美子ちゃん?」
「告白するって勇気いるもんね。それで失恋したらぺちゃんこになってへこんじゃうのに、未亜ちゃんは何度だって立ち上がるしさ」
「奈美子ちゃん……」
「ただときどき過程がとてつもなく気持ち悪いだけで」
「上げたあとに落としてくるのはやめていただけます??」
「でも、私は未亜ちゃんの恋、上手くいくといいなと思ってるから、本当だよ!?」
そう言って、奈美子ちゃんは私の手を取った。
うーん。私はそこにむずがゆさを感じつつも、なんとも言えなくなった。
奈美子ちゃん、きっと告白するのが難しい相手に恋してるんだなあと気付いてしまったんだ。
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