第13話 図書館にて 7

 図書館の閲覧室は静寂に包まれていた。

 悠斗が資料を広げながら、ノートにメモを取っている。

 視線を上げるとカウンターで彩乃が働いているのが見えたが、特に声をかける様子もなく再びメモに集中した。


 そのとき、明るい声が図書館の静寂を破った。


「やっほー、彩乃! 元気にしてる?」


 その声に彩乃が振り向くと、そこには叔母の亜沙美が立っていた。


「亜沙美さん、また突然来るんだから……何か用事?」


 彩乃は軽くため息をついたが、亜沙美はまったく気にした様子もなく笑顔を浮かべた。


「いやあ、暇だから遊びに来ただけ。それより、ここのコーヒーは飲めないの?」

「ここはカフェじゃないの。図書館なんだから」


 彩乃が眉をひそめると、亜沙美はカウンター越しに悠斗の方をちらりと見た。


「あの男の子、塾講師の悠斗くんだよね?」

「うん、そうだけど」


 亜沙美はにやりと笑い、彩乃に顔を近づける。


「あの子、あんたに気があるんじゃないの?」

「ないない! 絶対にそんなことないから!」


 彩乃は慌てて手を振るが、その仕草がかえって怪しく見えたのか、亜沙美は肩をすくめた。


「へえ~、随分焦るじゃん。まあ、あんたがそう思ってるならいいけどさ」


 亜沙美はふらりとカウンターを離れ、書庫の方へと向かっていった。

 彩乃は赤くなった頬を押さえながら、つい悠斗の方をちらりと見てしまった。



 休憩室では彩乃が湯気の立ち上るコーヒーを淹れていた。

 亜沙美は椅子に腰掛け、何気ない調子で話を振る。


「ねえ、彩乃。悠斗くんって、どう思う?」

「な、なにそれ! なんでいきなりそんな話になるの?」


 彩乃は驚いてカップをこぼしそうになり、慌てて姿勢を正す。


「いやあ、真面目そうだし、いい子じゃない? あんたにお似合いかなーって」


 亜沙美はニヤニヤしながら言う。

 彩乃は顔を赤らめ、目をそらした。


「私は別に……そういうのじゃないし」

「そう?」


 亜沙美は肩をすくめ、からかうような口調で続けた。


「まあ、私が選ぶとしたら涼介くんってとこかな。真面目でちょっとシャイそうなところがいいわね」

「えっ、シャイ……?」


 彩乃は思わず聞き返す。

 亜沙美は急に真剣な顔つきになり、遠くを見つめるように言った。


「うん。でも、涼介くんってああ見えてきっと芯が強い子だと思うよ。あの手のタイプは意外と頑張り屋なんだよ」


 彩乃はその言葉に考え込むような表情を浮かべた。


「……そうかな」

「逃げないって、大事なことだよ。私の経験から言ってね」


 亜沙美の声にはどこか重みがあった。


「……亜沙美さんは、涼介君みたいな人がいいんだ」


 彩乃が静かに言うと、亜沙美は微笑みを浮かべて応えた。


「まあ、私はあんたとは違うからね。でも、彩乃がどっちを選ぶにしても、後悔しないようにね」


 そう言いながら、亜沙美は立ち上がり、軽く手を振って去っていった。

 彩乃はその場に残り、湯気の立ち上るコーヒーを見つめながら、小さく息をついた。


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