捨てた者と拾う者
「冷静に考えて凄いですわよね、このくっそ寒いなか川に入るとか流石の精鋭ですわ」
この時期に川を渡り、そのまま戦闘できるのは凄まじい気合だ。
「慣れてるからねぇ。こっちの子、成人するまでは冬でも膝上だし」
「狂った伝統ですこと……」
地面にしゃがんで雪だるまを作りながらため息をつく。
鉛玉で目を、棒手裏剣で手を付ける。後はこの結晶を埋め込んで完成だ。
手のりサイズの雪だるまがぴょこんと跳ね、私の肩の上に乗った。
「うぇっ!? そうちゃんそれって……」
「マリン様が旅のお供にと貸してくださいましたの。雪山の雪だるまの子供ですわ」
「いや、うん、この辺にも居る魔物だから知ってるけど、うん」
「結構賢くてかわいいですわよ? ああ、マリン様というのはガチ聖人未亡人系シスターでして、その清いお心は魔物すらも癒してメルヘンにしますの。ですからこの子も人を襲ったりしませんわ」
「へぇ……魔物を従順に……それもフェイタルスノーマンを……」
利家は目をぱちくりさせていた。
普段はじっくり見る機会ありませんものね、結構かわいいですわよね。
「さて。戦線を押し上げ、火器を供与し、笄斬りも復活。わたくしがこの場でできる助力は一通り終わりましたわね」
「うん。ありがとうね、そうちゃん。おかげでこの人数差でも攻め上がれるよ」
「けれど、それでも間に合いませんわね」
こちらの優勢まで持ち込めたが、進軍の速度が足りないのだ。
このままでは救援が間に合わない。
であれば、別の作戦が必要だ。
「救援について、一つ策があります。正直言って外れそうな策ですので、期待しないで待っていてくださいな」
「ううん、頼りにしてる。頼りにしてるけど――」
利家はちらちらと私の背後に視線を向ける。
なんだろう、槍と野営の荷物を背負ってるだけなんだが。
「それ、背負っていかなきゃだめなの?」
「インベントリが使えませんから。クリムゾンちゃんは背負うしかないですわね」
「槍じゃなくてそっちの、その、私の絵の枕のことなんだけどなぁ!?」
「安眠のためには欠かせませんわね」
私の肩から竹お姉ちゃんの美麗なイラストが顔をのぞかせていた。
普段ならその日の気分に合わせ三種類から選んでいたが、さすがにインベントリが使えないなら1つに絞る他はない。
「ううん……まあ、他の人のを持って行かれるよりはいいかぁ。それじゃあ気を付けてね、そうちゃん。捨丸ちゃんも一緒かな?」
「ええ。捨丸さんと、雪だるまさんと、竹お姉ちゃん抱き枕さんが旅のお供ですわ!」
「……ほんとーにその枕、持ってくの???」
■ ■ ■ ■
「大してもてなせないすけど、ごしゅん家と思ってくつろいでくれていいんで!」
「いや……捨丸さん、もしかして結構なお嬢様ですの?」
とりあえず策の準備のため捨丸の地元に向かったら、町一番の名士っぽい規模の家に通された。
家の人がみんな頭下げてたし、この子が当主なんだろう。メイドさんがメイド姿の捨丸に傅いてるのは奇妙な光景だった。
「なぜ利家のところでガチ戦闘ビルドの戦闘員を……?」
「姉が二人居たんで就職したんすよ」
「あー……戦国あるあるですわね、失礼しました」
「あるあるなんで気にしないでほしいっす。とりま、フルーツでもどぞどぞ」
ガラスの器には柿と梨とブドウが美しく盛り付けられていた。冷静に考えると冬に手に入るものではないが、きっとこれもあるあるだから気にしたら負けなのだろう。
「ん〜、おいしいですわね。ジュレい柿は大好きですわ」
「おっ、ごしゅもイケる口っすか。結構好み分かれるんすよねー」
種周りがジェル状になっている柔らかくて甘い柿だった。うんうん、この食感が好きなのだ。
「それで、策ってなんなんです? 地元に連れてけって言うから案内したっすけど、ただの宿場町っすよ。こっちは戦線から南、フォレストエンドとは逆側っす」
「ええ、少し人探しをしたく」
ダメもとの策とは何か。それは私の知る地元の伝承の再現である。なんか地元で銅像になってた地元の偉人を探し出して、助けてもらうのだ。
「この町の名前を教えてくださるかしら。例えば宝だ……ええと、
「
「そんな名前だった気もしますわね。ふむ、砂地だったからそうかなと思いましたが、奇しくも目的地でしたか……」
「こんな田舎の土地事情までよく知ってるっすね、流石ごしゅ。凄い……を通り越して地元民としてはちょっと怖い。もしかして、攻め込むつもりだったっす?」
「ブドウ好きが高じただけですわ。ブドウって砂地で作るでしょう? おいしいブドウの産地は覚えていましたの」
というか単に前世の地元なだけだ。
地形は全く違うが、奇妙なことに植生や気候、文化の方向性は前世の世界に近似している。
そして地名もなんとなくエセ英語のような変換なのだ。全く以て変な世界である。
「う~ん、怪しげっす、ミステリアスごしゅっす。それで、こんな町でどんな人を探すっすかね」
「
地元の偉人は、闇夜に紛れて成政の警備の薄い道を抜け、利家を末森城まで導いたらしい。
まあ、いくら前世の歴史に沿った奇妙な世界とはいえ、流石に超ローカルな偉人本人は居ないと思う。けれど同じことをできる人さえいればこのやり口は使えるはずだと考えた。
(油断はできません、知識チートは火縄銃3000丁という大失敗の実績もありますが……)
史実の攻略法がどこまで役に立つかは分からない。火縄銃の件で学んだことは、結果は史実に沿うが過程まで史実通りに行くとは限らないこと。
けれどもあの時とは、この世界への理解度が違う。今回の方法は地理と用兵の物理的な制約の話だ。スキルや解魂の存在を踏まえても、うまくいく可能性はありそうなのだ。
「念の為確認しますが、
「そうっすね。山を越えたらすぐ
敵は一万を超える兵を率いて山越えし強襲している。強行軍で山越えをした直後だ、海側の警備まで手が回っていない可能性は高かった。
海沿いにフォレストエンドまで案内できる人が居ればいい。
「地理に詳しい人っすか。まあ、町の人ならみんな詳しいと言えば詳しいっすけど……」
まあ、それはそうだよな。だったらダメ元で本人居ないか聞いてみるか。
「苗字名前名前みたいな人居ます? 桜井右衛門左衛門とかそんな名前だったと思うのですけれど」
「…………???」
捨丸はぱちくりと目を見開いて私を見る。
まあ流石にどローカル偉人なんて居ないよな……或いは謎英語名でチェリー・ジョン・ドゥとかそういう名前なのか。
「すみません忘れてください、居ないですわよね、居なくても大丈夫ですわ。地理に明るい人ならどなたでもおっけーですから」
「いや、ええと、もしかして『桜井三郎左衛門』っすか?」
「そう! そんな名前でしたわ! どちらにいらっしゃって?」
「どちらと言うか、こちらと言うか……」
捨丸は両手の平を頬に当て目を見開いたかと思うと、なんだかぐねぐねし始めた。
「え、いつからっすかね、出会ってからはずっと一緒だったんだから当然出会う前からっすよね。いや、なーんか話が合うなぁって思ってたっすけど掌の上? 合わせてもらってたっていうか合うように調べられちゃってたってことっすよね?」
座る私の前に捨丸は跪く。頬には朱が差し、目は僅かに潤んでいるように見えた。
「その前提で振り返ると戦線を離れてすぐ言えばいいのに話がちょっと回りくどかったっす。それは敢えてウチに来たってことで、つまりここで当主として誓えってことっすよね?」
捨丸は上目遣いで私を見つめ、ごくりと喉を鳴らした。
どうしたんだろう、紹介し難い人なんだろうか。
「捨丸さん、どうかされました? 無理に紹介しろとは言いませんが……」
「なるほど分かったっす。あーしから言えってことっすよね。分かるっすよ」
捨丸は私の手を取り、その甲に口づけをした。
「名を捨て、家を捨て、栄達を捨て。戦い以外の全てを捨てたのが、この捨丸だったっす――けれどごしゅは、名を拾い、当主としてのあーしを拾い、そしてフォレストエンド救援の栄達を拾えと言ってくださるんすね」
捨丸は三つ指を立て平伏する。
「この桜井三郎左衛門、全てを賭けて貴女に仕えさせていただきます――ただの一兵卒で終わらぬと、貴女に並び立つと誓いましょう」
「……ええ、期待していますわ」
……
…………???
地元の偉人が部下になってしまいましたわ???
というかクロスバックから部下でしたわ???
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