竹お姉ちゃんの餞別
打ち合えたのは4合。そこで私は膝をついた。
「制御魔術ですか。しかしそれは精度を確保できるだけ。紅月の軌道は割り出せないはずですが」
「優しくて強引なおねえちゃんが居てね。素振りと称してずっと振らせてたんだよ」
すっとぼける
そう、この軌道は私がずっと竹槍で素振りさせられていたものだ。
「全く、一子相伝の奥義を勝手にその辺の小娘に教えるだなんて。近衛失格の武者が居たものですわね」
「んー、どうかな。私はそういう人の方が好きだけど」
ただ強いだけでなく、譲れない何かを通せる人。
そういう人になりたいと、私はこの時強く思った。
「紅月の要点は技量と速度。技量は制御魔術で補ったとして、この戦闘中に速度を補う方法は武器を軽くするしかありません――まったく、無茶をするものです」
1.2リットル、総血液量の1/3。倒れ伏している間に私が紅槍に吸わせた血液だ。
限界まで力を引き出した紅槍はその重さを羽より軽くし、与える衝撃を巨槌の如く増幅する。
又左の持った竹槍が、ぼろぼろと崩れ去った。
「私の負けですね」
「竹槍の素材はいくらでもあるのに?」
「小娘に奥義まで使わされ、それが破られたのです。負け以外にないでしょう」
やれやれとため息をつきながら又左さんはそう言って、竹お姉ちゃんの顔でにっこりと笑った。
「紅月、免許皆伝だねっ! いや~、やっぱり教えた人が教え上手なんだよねぇ」
「ぜったいもっとマシな教え方あったと思うよ」
私は呆れた声でそう言った。しかし、実際は他に方法はなかったのだろう。
出奔する私の身を案じ奥義を教えようと考えたが、人前で教える訳にもいかない。だから基礎の動きを素振りに混ぜさせ、このタイミングで実際に放つことで伝えた。
少々、いやだいぶ、むろんかなりスパルタだが、そういう経緯なのだろう。
「免許皆伝のお祝いに師匠としてなにかあげなくちゃだけど、あいにく何も持ってきてないんだよね。だから、その槍でもいいかな?」
「いいの? 家宝の紅い槍があるとか言ってたけど、この槍のことだよね」
「天下に轟くんでしょ? だったらその子も喜ぶよ」
だめだったらその時返してねと、竹お姉ちゃんは笑う。
「どこ行くかは決めてる? もし北に行くのなら、
そんなふうにこの辺りの地理や情勢を一通り話し、竹お姉ちゃんは滝川の集落へと向かった。
「じゃあね、そうちゃん。天下でまた会いましょう」
■ ■ ■ ■
走馬灯とは、死を悟った脳が打開策を探す作用だと聞く。
過去の記憶を探索することで打開策を見つけ出そうとする現象。であれば、走馬灯に打開策を見つけ出たならば、死を超克できるということだ。
私の意識が現在へと舞い戻る。ああ、敵手が構えるは見覚えのある型だった。であれば打つべき手もまた同じ。
あの時より磨かれた技量で、あの時より鍛えられた身体能力で、あの時と同じ紅槍で。
今回こそは正しく奥義を破るのだ。
「「――紅月!」」
合戦場に、二つの声が重なった。
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