第14話「新たな運命『青の月』へ」
夜で輝きを得た私は鬼への変貌していく彼に背伸びをして手を伸ばす。
「緋月っ……!」
だが彼はそれを受け入れない。
彼は切なげに微笑むと、傷つけないようにやさしく私を突き飛ばした。
「申し訳ございません。またお会い出来て、俺は幸せでした」
「ひ……」
――バキ……バキバキバキッ!!
彼が彼でなくなっていく。
何度、この光景を見ただろう。
卯月の二十九日、赤い満月の下、彼は必ず”鬼”と化した。
赤い満月の下、彼の面影を残したまま残虐な鬼が目の前に現れる。
赤黒い手を空に伸ばし、赤い月を握りしめてイタズラっぽく目の奥を光らせた。
夜半の嵐、白銀の髪が空にあがって背中に落ちる。
交差した鬼の目から先にそらしてたまるかと、顎をぐっと引いて首を動かさないようにした。
『今宵は赤い満月。この身体はオレのものとなった』
彼の身体を乗っ取った鬼は舌なめずりをし、目を三日月に歪ませて嗤った。
『健気だな。一か月、あやかしとして目覚めるお前と過ごしたいと』
最初に告げられた約束の一か月。
『長い間、緋月は身体の主導権を渡そうとしなかった。耐えきれないとわかり、オレに一か月の条件を突きつけてきた』
その言葉に私は胸を締めつけられる想いで、鬼に飲まれた彼を見据えた。
『すでに国を滅ぼした身だというのにな。結局また身体を受け渡すバカな男だ』
「ふざけないで!!」
彼を侮辱する鬼に私はカッとなって走りだし、彼の頬に手のひらを横に振った。
スパッ、と手に切り傷が刻まれる。
「うあっ!?」
とげとげしいのは身体だけでなく、硬化した皮膚が私の手を切りつけた。
ゲラゲラと赤い月に向かって高笑いをする鬼に、私は血染めの手を握りしめる。
『さぁ、どうする? お前のいとしい緋月はもういない』
いつもそうだった。
何度繰り返しても彼を救えないことに絶望してきた。
それが悔しくて、私は青い満月に希望を託す。
ツクヨミとの契約。
記憶と時間を代償に、私は”タイムリープ”の力を得た。
絶望しては運命を変えたいと願い、彼を助けるためにタイムリープを繰り返した。
タイムリープの代償として、記憶をなくすのは二回。
一回目はタイムリープをして過去に戻った時。
二回目はツクヨミと契約し、長い眠りについたあと、あやかしとなって青い満月の下で再会する時だ。
「私が選ぶのは”運命を変える”道! 今度こそ、彼と想いをかわすために!」
タイムリープを繰り返すことで時間の歪みを発生させる。
徐々に時間の歪みが大きくなり、本来の月の周期にズレをうみだした。
【月の満ち欠けは29.5日の周期で巡る】
たった【0.5日】のズレ、それらが噛みあって運命の歯車は動き出す。
何度も何度もループを繰り返し、時間の歪みを広げ、”あと一回”で時が動くところまできた。
(次が最後。これで私は後戻りが出来なくなる)
タイムリープが終わり、青い満月となれば彼を救うチャンスが出来る。
長い時間をかけて得たズレで一度きりの奇跡に手を伸ばす。
(私は鬼となる彼の運命を変えたい)
(もう一度、時を越えて彼との未来を手にしたいんだ!!)
「これが最後のタイムリープよ!」
私は彼を助けるために、時間を繰り返した。
彼からの”愛してる”を聞くために。
”愛してる”と伝えるために。
「時を巻き戻して! ツクヨミーーッ!!」
月に向かって叫び、歯車が逆回転して時間が巻き戻る。
タイムリープの代償に、私は記憶を失い、また彼と巡り会う。
卯月の二十九日を末日に伸ばすため。
赤い月を”青い月”に変え、彼との未来を切り開くために。
――最後のタイムリープを行ない、過去に戻ると記憶はなくなった。
タイムリープをして記憶をなくした私の、青い月となる時系列がはじまろうとしていた。
【これは彼を裏切った私の”運命を変える”物語】
【何度も繰り返した時の中で、少しずつ時間を歪ませて”青い月の夜”を目指すお話】
<変わらなかった『赤い月』 時間を歪ませ新たな運命『青い月』のために再び過去へ>
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます