セッション2〜小さな小瓶〜

次の勤務日。

真司しんじくんは真帆まほの想像どおり、こころの教室にきてくれた。

相変わらずうつむいて下を向いたままではあっが、前回よりは少し足取りの重さがなくなったように感じる。


「真司くん、きてくれて嬉しいわ。さぁ、中に入って。」

真司くんは黙ったまま教室に入り、古びた椅子に腰掛けた。


「どう?箱庭はこにわ、やってみたくなった?」

「……」


真司くんは黙ったまま、ポケットからなにかを取り出した。


小さな小瓶の中に、キラキラした白い砂と、小さな小さな貝殻がたくさん詰まっている。


「あら、綺麗ね。大切なものなの?」

「……」

真司くんは黙ったままだ。


「先生も、小さい頃にこういうの、たくさん集めていたわ。傾けると砂がキラキラと動くのが、見ていて癒されるのよね。」

そう言って真帆は砂の入った箱庭を机の上においた。


ゆっくりと左右に傾けると


ザザーッ

ザザーッ


と、波打ち際を思わせるような音が鳴る。


真帆が手を置くと、真司くんは真帆がしたのと同じように、木箱を持ち上げ、左右に傾けた。

そしてその波打ち際のような音をゆっくりとゆっくりと、静かに楽しんだ。

窓の外からは、セキレイのさえずりが聞こえてくる。


真司くんは、木箱を机に置くと、棚から小さな子どものミニチュアを1つ持ってきた。


そして、箱庭の真ん中にそのミニチュアを置いた。


「できた。完成。」

真司くんは、そう言った。


「ありがとう。じゃあ、この作品にタイトルをつけてもらおうかしら。」


「僕。」


「ありがとう。どういう気持ちで、この作品を作ったのかしら。」


「別に…特に意味とかはない。」


そういうと真司くんは、【ぼく】のミニチュアを左手でつまみ、右手でその下に大きな穴を掘った。

そして、その穴の中に【ぼく】を入れた。


「どうして、ぼくは穴の中に入ってしまったのかしら。」


「…何にも聞こえないように。」


「そう…何か聞きたくないものが、あるのね。」

真司くんは黙っている。



「真司くん、さっきの箱庭の砂の音、素敵だったわね。外からは、鳥の声がするわ。その音は、どうかしら?」


「それは、別に聞こえてもいい。」


そう言って真司くんは「ぼく」を穴から出して、木箱の隅に置き直した。

そして、棚から木を一本持ってきて、「ぼく」の横に置いた。


「その木は、どんな木なのかしら。」


「小鳥がとまってる木。鳥の声なら、聞こえてもいいから。」


「他にも、聞こえても大丈夫な音はある?」


真司くんは立ち上がると、木や、鳥、小動物のミニチュアを持ってきて自分のまわりに並べた。


「動物が好きなのね。」

「‥うん。ハムスターと、鳥飼ってる。」

真司くんの顔が、少しだけほころんだ後、また暗い表情に戻った。


そのあとすぐ、真司くんは、自分の周りと、最初に開けた穴の間の砂を深く掘って、分断した。箱の底は水色なので、掘った部分は川のように見える。


「川を作ったのかしら?」

「違う、島を作った。僕と動物の島。」


そういいながら、真司くんは自分の島の動物達を動かしてレイアウトを作り替えた。

動物達が、真司くんをかこむように配置されている。



セッションの終わりの時間が近づいた。



「真司くん、可愛い動物達の島を見せてくれてありがとう。この作品の写真を撮らせてもらってもいいかしら。また次回も、素敵な作品を作って、見せてちょうだい。」

真司くんは、うつむいたまま、こくりと頷いた。



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