トレーディングカードゲーム『モンスタートランプ』―最強への道―
佐藤ゆう
VS関東チャンピオン伊集院 前編
『 新東京バトルカードスタジアム 』
トレーディングカードゲーム『モンスタートランプ』を対戦するためだけに建造された、超巨大スタジアム。
そこでは今日、モンスタートランプ世界大会 決勝戦が行われていた。
ワアアアアアアアアアアアアッ!
会場の客席では、数万人の観客が熱狂し、スタジアム中央にある闘技場の上に立つ、2人の選手に注目がそそがれていた。
1人は、金髪のアメリカ人の青年。
もう1人は、黒い仮面をつけた謎の少年。
上空には、2人が召喚した、ホログラム映像によって創り出された、二体の巨大なドラゴンが優雅に飛んでいた。
漆黒のドラゴンはアメリカ人の青年を主とし。
純白のドラゴンは謎の仮面少年を主としていた。
純白のドラゴンが大きく息を吸い込み、ブレスを吐き出す体勢になった。
同じように漆黒のドラゴンも大きく息を吸い込んだ。
二匹のドラゴンが放った極大ブレスがぶつかり合い、白と黒のまばゆい光が乱反射し、スタジアムを飲み込んだ。
◆
――3年後。 新東京。戦之守中学校――。
学校の休み時間、三階の廊下に2人の生徒がいた。
大柄の生徒が、小柄の生徒を壁際に追い込み――ドンッと、顔の横に手をついた。
「ひっ!」
怯える小柄な生徒に、大柄な生徒は嫌らしく笑いつける。
「よう、真琴」
「ま、勝君……な、なにか用かな?」
ビクビクと震える小柄な生徒は、戦之守中学校2年生『上多 真琴(うえだまこと)』。
そして大柄な生徒の名は、『前田 マサル』。
3年生で、いま壁にもたれかかる上多 真琴の因縁の相手だ。
マサルはニヤリと笑い。
「俺と、『モンスタートランプ』やろうぜ」
『モンスタートランプ』とは、子供から大人まで、世界中に8000万人以上のプレイヤーが存在するカードゲームのことである。トランプのように老若男女、誰でも楽しく簡単にプレイできることをコンセプトにして作られた。 ルールはシンプルだが奥深く、数年後にはプレイヤー数は1億人を突破するだろう。
「い、嫌だよぉ……」
震えながら真琴は断った。
「あん。なんでだよ?」
「だ、だって……マサル君は……負けたらカードを取るじゃないか……」
「くくくっ。弱いヤツから奪って、より強くなるためだよ」
「そ、そんな……」
顔面蒼白の真琴に、マサルは手を伸ばす。
「ごちゃごちゃ言ってねーで、とっととヤるぞ」
「ひっ!」
真琴をつかもうとする手が触れる直前――
「じゃあ、オレとやろうぜ」
「!」
廊下の窓の外から 声が聞こえ振り向くと、外側から少年の顔がぴょこんと飛び出た。
「――ッ!」
三階の窓の外側からという、ありえない場所からの出現に、前田 マサルは驚きのあまり後ろに倒れ込んだ。
ガン! 壁に後頭部をぶつけてのたうち回っている。
少年が外側から廊下に降り立つと、マサルは傷んだ箇所を押さえてよろよろと立ち上がる。
「て、テメェーはいったい、何者だ……?」
睨みつけるマサルに、乱入者の少年は無邪気な笑顔でつげる。
「|大空 空(おおぞら そら)。 今日からの転校生だ、よろしく」
◆
学校の帰り道を、上多真琴と転校生 大空 空は並んで歩いていた。
「もうしわけありません!」
真琴は深く頭を下げる。
「ん? なんで?」
キョトンとする空に、真琴は暗い顔で。
「だ、だって……」
――――――。
三階の窓の外から現れた大空 空を、前田 マサルは鋭く睨む。
「きょ、今日からの……転校生だと……?」
「オレとやろうぜ、モンスタートランプ」
笑顔で空がつげると、マサルは怒りに震え――
「お、おもしれぇ……」
そしてビシっと指差した。
「放課後、バトルドームまで来な、転校生ェ! そこでやってやるよ! テメェのカードを全部奪ってやるから覚悟しな!」
マサルは2人に背中を向け――
「逃げるなよ、転校生。あはははははっ!」
高笑いして去っていった。
――――――。
真琴は休み時間の出来事を思い出し、暗く落ち込んでいた。
「す、すいません……。ボクをかばったせいで、巻き込んでしまって……」
「そんなことよりさ」
「えっ?」
「あそこが『バトルドーム』か?」
指を差したその先には、巨大な『丸型のドーム』があった。
通称『バトルドーム』モンスタートランプ対戦用の施設である。
◆
空と真琴がドーム内に入ると、中には 円形の闘技場が9つあり、その上ではモンスタートランプのによる対戦が行われていた。
ホログラム映像で創り出されたモンスターたちが激しい戦いをくり広げていた。
「おおー! ひさしぶりだな! モンスターカードバトル!」
瞳を輝かせて大空 空は、楽しそうに対戦を観戦していた。
「えっ? ひさしぶり?」
真琴が疑問を口にすると。
「ああ、3年間 海外に行っている間、親父にモンスタートランプを辞めさせられていたんだ」
「………えっ?」(3年間もブランクがあるのに、あのマサル君に勝負を挑むなんて。空くん、昔からすごく強いとか? そういえば、3年前の世界大会で優勝した、仮面をつけた謎の少年に雰囲気がなんとなく似ている気がするけど……まさかね……)
ありえない思考を、頭を振って打ち消した。
「 ぎやああああああああああああああああああああッ! 」
「「!」」
突然、闘技場の1つから悲鳴が響いた。
「な、なんですか?」
「あそこからだ、行ってみよう」
真琴と空が駆け寄ると、闘技場の周りに人だかりができている。
前に出ると――
「あ、アレは!」
真琴は、闘技場の上で『四つん這い』で泣き崩れる者の姿に衝撃を受ける。
「ううぅ……」
「ま、マサル君……?」
四つん這いで泣き崩れていたのは、これから大空 空と対戦する予定だった『前田 マサル』であった。
闘技場の上にいるもう1人、マサルと対戦していたと思われる白スーツの少年は、四つん這いのマサルを冷たい瞳で見下ろした。
「君の負けだね、番長くん。 君のデッキは僕がもらうよ」
「えっ! ええええええええッ!」
真琴は驚きのあまり大声をあげた。
「で、デッキ全部をありえない……! 普通 賭けるのは、1試合1枚のはず……。す、すべてのカードを賭けるなんてありえない!」
【デッキ】とは、カードバトルに必要なカードの束のことである。 モンスタートランプに存在する、数千種類のカードの中から自由に選び組むことができる。
うんうんっと空は納得したようにうなづいた。
「あいつ、すべてのカードを奪ってやるって言ってたけど、こういう意味だったのか……」
「い、いえ、絶対に違いますよ。でもいったい、なんでこんなことに?」
戸惑う真琴の後ろから誰かが近づいてくる。
「それは、僕が説明するよ」
「て、店長!」
振り返ると、このバトルドームで雇われて働く 御堂 剣矢(みどう けんや)が暗い顔で立っていた。
「やあ、真琴くん。じつはね……」
店長は、15分程前の出来事を話し始める。
―――――――――。
バトルドームの事務所の一室には、4人の人物がいた。
1人は、このバトルドームの雇われ店長の御堂 剣矢。
そして白いスーツを着た高校生の少年。その後ろには、黒いスーツとサングラスをつけたボディーガードと思われる男が2人。
白スーツの少年は不遜な態度でつげる。
「このバトルドームは、僕のパパが『買収』しました。ですから今日から僕の物です。 店長、いままで働いてくれて ありがとうございます。今からは僕のために働いてください」
伝えられた内容に衝撃を受ける。
「い、伊集院くん……。君はいったい、このバトルドームをどうするつもりなんだい?」
伊集院と呼ばれた少年はフっと笑い。
「1人で使わせてもらいますよ。 コンピューター対戦が自由にできるバトルドームがほしいと、パパに頼んでここを買い取ってもらったんです。 ですから今日からここは、関東チャンピオンである『僕専用』のバトルドームです」
そのとき――バン――と、事務所のドアが勢いよく開き、聞き耳を立てていた少年が怒鳴りつける。
「 ふざけんじゃねェ――ッ! この成り金野郎ォォ! 」
ズカズカと事務所に入り、不機嫌にしている伊集院の前に立った。
「誰だい、君は?」
「このバトルドームの番町 前田 マサル様だァ! ここが欲しかったら、この俺に勝ってからにしやがれッ!」
―――――――――。
「そしてマサル君は、勝ったら みんなでここを使わせることを条件に、自分のデッキを賭けて、あの関東チャンピオンの『伊集院 一郎』君に戦いを挑んだんだ」
店長はここで起きたいきさつを語り、闘技場の上の前田 マサルに哀れむ瞳を向ける。
「ううぅ……」
泣き崩れるマサルが差し出したデッキを、伊集院 一郎は手に取った。
「これで奪ったデッキは99個目……」
そして、うなだれて涙するマサルに見下した瞳を送る。
「それにしても、ウザいなァ、キミ。いつまで泣いているつもりだい? この みっともない、『負け犬のクズ』がァ」
「うっ……ううぅ」
悔しさと惨めさで涙がポロポロとこぼれ落ちる。
「 マサルはみっともなくなんてないさ 」
「!」
後ろから声が掛けられ振り向くと――
「て、転校生……!」
大空 空が笑顔で、前田 マサルの隣に歩いてきた。
「またか……。やれやれ、今度はいったい どこの負け犬のクズだい?」
あきれ果てる伊集院と向き合い大空 空は、マサルの肩に優しく手を置いた。
「マサルは相手が強いとわかっているのに、ここを守るため、自分の大切なデッキを賭けて戦ったんだ。みっともなくなんてないさ」
その言葉に、マサルは嬉し涙をポロポロとこぼす。
「ううぅっ。あ、ありがとう……転校生……」
気合を入れて大空 空は、伊集院 一郎に向き合い宣言する。
「オレとやろうぜ、関東チャンピオン! このバトルドームを賭けて、オレとモンスタートランプでカードバトルだ!」
力強い宣言に、ドーム内はシーンと静まり返る。
「……あっ! やっぱり無理だ」
えっ!
空の発言に、その場にいる全員が え? という顔をした。
「オレ、引っ越すときに 全部のカードを友達にあげたんだった……あ、あははっ」
あたふたとして空は、カバンからカードを取り出した。
「で、でも、大切な友達3人に貰った、『大切な4枚のカード』だけは肌身離さず持っているんだ。これでどうか勝負を……!」
手を合わせて懇願する空を、真琴は闘技場の外からじっと見つめていた。
(そ、そんな大切なカード……)
決意を込めた相貌で、後ろから近づいていく。
「空くん、カードは52枚ないと試合はできませんよ」
「あっ、そうだった……って、真琴?」
振り返ると、真琴が両手にデッキを持っていた。
「このデッキを使ってください」
「いいのか、真琴?」
真琴は暗くうつむき。
「はい。ボクは弱い人間です。いつも嫌なことや、怖いことから逃げてきました……でも……」
真剣な面持ちで思いを伝える。
「伊集院君に挑む空くんを見て、勇気をもらいました! ボクも空くんみたいになりたいって思いました。 だからこのデッキを使ってください! ボクも空くんと一緒に戦いたいんです!」
真琴の目の前に、拳を突き出した。
「ああ、勝とう! 一緒に!」
「はい!」
2人は拳をがつんとぶつけ合った。
闘技場の上で、友情の花を咲かせる2人の周りに、このバトルドームの命運を見守っていたモンスタープレイヤー達がぞくぞくと集まってきた。
そして―――
「俺も」「あたしも」「ぼくも」「私も」「おれだって」
皆がそれぞれが持つ、1番のレアカードを空に手渡していく。
最後の1人がカードを渡し終えると、皆は声を合わせ――
――この店を守ってください! ――
「ああ、まかせろ!」
その光景に、伊集院はやれやれと首を振った。
「まったく、見ていて不快になるね、クズ共の友情っていうのはさ。いくらクズカードが集まっても、関東チャンピオンのこの僕に勝てるはずないのにね」
「君は……」
メガネをかけたバトルドームの店長 御堂 剣矢が横からつげる。
「君はその友情の力に負けるよ」
「フン」
皆から受け取ったカードを右手に持ち、左手に4枚の大切なカードを持ち、合わせる。
「よしっ! デッキ完成!」
覇気を纏わせ大空 空は、伊集院 一郎と正面から向き合った。
「じゃあやるか、関東最強。あんたに勝てば、夢に一歩近づける!」
あきれながら伊集院は、大空 空に背中を向けた。
「盛り上がっているところ悪いけど、もうすぐ僕の誕生日パーティーが開かれるんだ。これいじょう遊びにつき合っているヒマはないんでね、ここで帰らせてもらうよ」
出口へと向かう伊集院の前に店長が立ち塞がり――
「じゃあ、このカードを賭けるよ」
1枚のカードを差し出した。
「そ、そのカードは……!」
驚愕する伊集院の姿に、空は隣にいる真琴に聞いた。
「すごいのか、あのカード?」
「は、はい。始まりのカードと呼ばれる、52枚のカードの1枚です。 世界に一種類ずつしかなく、あれとは別のカードですけど、このまえ行われたカードオークションでは、4億9千万円の値段がついた伝説のカードです……」
店長 御堂 剣矢は、大空 空に伝説のカードを手渡した。
「このカードで、この店を頼む」
「はい!」
くくくっと堪えきれない笑みをこぼし。
「スペードのキング『レジェンドオブナイト』か……ふ、ふふふっ」
そして歓喜して高笑う。
「 ふはははははははははっ! 今日は最高の誕生日になりそうだよォ。奪ったデッキも百個になり、専用のバトルドームも手に入り、さらには 始まりのカードまで僕のモノになるんだからねッ!」
空は両手を合わせ。
「じゃあ、すまん。先に謝っておくわ」
「ん? どういう意味だ?」
怪訝な顔をした伊集院に、申し訳なさそうにつげる。
「オレが勝つから、全部あげられそうにない」
ひたいに青筋が浮かび上がった。
「 調子に乗るなよ、このクズが……!」
闘技場の上で、空と伊集院が距離を置いて立つと、壁一面 真っ白のドーム内に女性的な機械音声が流れる。
《 カードバトルを始めます。デッキを前に出してください 》
2人はデッキを片手に持って前に出した。
《デッキスキャン開始》
バトルドームの天井から、赤いサーチビームが放たれ、空が手に持つ『みんなから託されたデッキ』と、伊集院がアタッシュケースから出したデッキに当たった。
《スキャン終了。バトルスタート。先行は、大空 空 選手》
アナウンスとともに、空と伊集院の目の前に、初期手札となる、ホログラム映像で創られた1メートル程のカードが5枚ずつ出現した。
腕を組んで伊集院は考え込んでいる。
「そうだな……。せっかくだし、フィールドを変えようか」
「変える?」
呆けている空の前に、指を一本立てる。
「そうだ、こうしよう! 君に暗くて深い絶望をあたえるという意味で、宇宙空間にシフトしようか」
指をパチンと鳴らすと、ドーム内が暗闇に包まれ、ホログラム映像による宇宙空間が展開された。
「おおー!」
世界が変わった光景に空は心を踊らせた。
「さあ、常闇の世界で、君に絶望と後悔と敗北をプレゼントしてあげよう」
邪悪に微笑む対戦相手に、大空 空は無邪気に笑い拳を突きつける。
「じゃあオレは、輝く流星のように、おまえと闇を切り裂いてやるぜ!」
「フフフっ。せいぜい いきがりなよ。クズには、光る権利さえ あたえられはしない」
究極の戦いの幕が上がった。
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