第33話 怪力と分身

 筋骨隆々の男盗賊とスレンダーな女盗賊がこちらに向かって走り出してきた。女の方はミリィが何とかしてくれるだろう。

 私は戦斧を構えて相手の出方をうかがう。【分身】のレガリア。その名の通り分身するのだろう。私は筋骨隆々の男盗賊が分身する前に戦斧を振り回した。

 男盗賊は私の攻撃を防いだが、完全には防ぎきれずに後ろに吹き飛んだ。


「亜人はただでさえ筋力が人間よりも優れている。それに怪力のレガリアをかけ合わせるならお前は怪力のバケモノだ」

「セラはバケモノなんかじゃない! それにこれは【身体狂化】のレガリアだよ!」

「へぇ、セラちゃんって言うのか! 可愛いじゃないか!」

「おじさんに言われても嬉しくないもん!」

「へへ、なら嫌でも俺の虜にしてやるよ!」


 そう言って男盗賊はレガリアを振りかざした。瞬間、男は分裂するように二人になった。やられてしまった。これが【分身】のレガリア。

 私は戦斧を構えて、迫りくる男盗賊たちに向かって戦斧を振るう。

 片方の男盗賊を斬り裂いた。男盗賊は煙のように消失していった。


「残念! 俺が本物だ!」


 続けざまに男盗賊が剣を振りかざす。私は戦斧を振り抜いてしまっていて防御できない。窮屈な体勢のまま跳躍して攻撃をかろうじて躱した。

 天井を経由して床に降り立つ。


「ふん、よく躱したな」

「一人増えたくらい、セラ、どうってことないもん!」

「ならばもう一人増やそう」


 今度は左右から男盗賊が現れて三人に分身した。

 三人は一斉に私のもとに突っ込んでくる。この状況では容易に攻撃に出られない。私は防御に専念し攻撃の隙を伺う。


「どうした? 手数が減ったぞ?」

「おじさん、ずるい」

「セラちゃんにもレガリアがあるんだろ?」

「セラのことセラちゃんって言わないで!」


 私は横目でミリィを見る。彼女は苦戦しているようだ。私が動き回って邪魔をしてはいけない。もしも、好きに動き回れるのだったらあるいは……。

 男盗賊たちの猛攻が続く。大振りの攻撃が来る。私は斧で弾いてそのまま斬り裂いた。


「隙だらけ!」

「引っ掛かったな!」


 しかし、消失したと同時に別の男盗賊が剣を振るってきていた。男盗賊の剣が私の身体を袈裟切りにする。何とか身体に届かせることなく躱すことが出来たがお気に入りの黒のワンピースが大きく切り裂かれてしまう。


「ふん、いい格好になったんじゃないか?」

「へんたい! セラのお気に入りをダメにしたんだからただじゃ許さないもん!」

「そりゃ怖いな。でももっとエロい姿を見せてもらいたいな」


 私は戦斧を構え直す。男盗賊がさらに分身して今度は四人になった。私は焦りを覚えていた。


 (この人どこまで分身するの?)


 さっきまでは二人だったから対処できた。三人だったから防御に専念することで何とかしのぐことが出来た。私は直感でわかる。四人は無理だ。

 男盗賊が走りながら剣を振るった。戦斧で防ぎ、ギリギリで躱し、それでもさばききれない。

 死角から焦らすように服を裂かれていく。


「いいねぇ。徐々にエロくなってきたぜ!」

「さいてい!」

「イヤなら反撃してみろよ?」


 私は決死の覚悟でまずは一人攻撃して消滅させる。だけど、選択を間違えた。男盗賊は私を羽交い絞めにして拘束をする。動けない私に向かって剣を捨てて拳を埋めて来た。拳が腹部にめり込む。私の戦斧が転がり、消失した。


「かはっ……」

「いいねぇ、いい声だねぇ!」


 男盗賊はさらに三人から六人に分裂した。そして私の四肢をそれぞれで掴み。残りの二人が私の身体を弄り始めた。


「いや……」

「いいねぇ! やっぱり殺すくらいなら犯さないとな!」


 身体中をゴツゴツした手で撫でまわされる。こころでは嫌なのに身体が変な感じになってしまう。


「セラはリオスのものだもん……」

「でも今は俺だけのものだ!」

「そんなのイヤだもん!」


 私は必死に暴れるが、首筋にナイフを突きつけられる。


「動いたら殺す。動かなかったら犯す」

「どっちもダメだもん!」

「いいねぇ、泣かしてみたくなってきたぞ!」


 リオスが見ていると思うと胸が張り裂けそうになる。私の目が潤み始める。それが悔しくて必死にこらえるけれど、それを見ていた男盗賊はさらに嬉しそうになって私の身体を弄り回す。

 涙が零れそうになった瞬間。私は目を疑った。

 広場を分けるように壁が出来たからだ。

 女盗賊が驚愕している声がする。ミリィは同じような敵を相手にしても臆することなく戦っているのに、心がくじけそうになっている自分が情けなかった。同時にここまで好き勝手にされていることが許せなくて怒りが頂点に達した。

 私はレガリアに祈りを込めた。


 (私に力を貸してください!)


 瞬間、身体に力がみなぎった気がした。私は身体の拘束を振り切ってナイフを掴み、砕いた。手から血が流れてくるけれどもうどうでもいい。

 新しくできた壁と元々あった壁を跳躍して天井や地面を縦横無尽に跳び回る。


「セラをイジメた罰は受けてもらうもん!」

「マジかよ!」

「セラ、本気出すからね!」


 男はさらに分身して十二になった。瞬間、戦斧を召喚してそのまま二人を斬り裂いた。そして、その勢いのまま壁を蹴る。

 相手が何人いても関係なかったんだ。私は私の戦い方をすればいい。それだけだったのだ。

 私は数を減らしていく。それでも男盗賊は減らした数を補うように分身していく。


「セラの本気、いっくよぉー!」

「マジかよ! まった!」


 私は床に着地すると戦斧に祈りを込める。戦斧の刃が大きくなり、横薙ぎに振り抜いた。その中で一人、しゃがんだ男盗賊がいた。他の男盗賊は消滅してそいつだけが残った。


「反則だろ! 流石に死ぬのは御免だ!」

「じゃあ、セラに謝って!」

「悪かったよこの通りだ!」


 男はレガリアを私に向かって投げた。


「もう、悪い子としないって約束できる?」

「約束する! まっとうに生きるって誓う!」

「じゃあ、セラの前に二度と顔を見せないで!」


 男はうなずいてそのまま逃げていった。

 私はミリィのもとに向かった。そして、恐ろしいものを目にする。

 ミリィの目の前には壁があった。というよりも天井が下がっていて女盗賊の手だけが残っていた。きっとミリィの魔法でぺちゃんこにしたのだろう。考えるだけで身震いをした。


「ミリィって意外と怖いんだね」


 私は苦笑いを浮かべる。ミリィはどこか満足げに笑った。


「私を怒らせると怖いんですからね!」

「セラ、気を付ける!」


 私はミリィと共にリオスのもとに戻り、彼を庇いながらダンジョンを後にする。


「リオス。せっかく買ってくれたのに服をボロボロにしてごめんなさい」

「また買えばいいよ。そんな事よりもミリィ、セラ、ありがとう」


 私とミリィは得意げに頷いた。そして、それぞれ手にしたレガリアをリオスに渡した。リオスはホッとするようにレガリアを【収納】のレガリアで回収した。


「リオス、あまりこっち見ないでね?」

「その割に見せつけようとするのはどうしてかな?」

「えへへ、セラ、可愛い?」

「可愛いよ!」

「セラだけずるいですよ!」

「ミリィも助けてくれてありがとうね」

「はい!」


 私たちはリオスと共に街に戻った。

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