第21話 家探し

「なぁ、フー。冬はガーラの街で越すのか?」

「わからん。けどまぁこの辺じゃ一番デカい街らしいし、そうなるかなぁ……」

「わしは賛成だぞ。酒もあるし食い物も多い、なにより森が近い。お前さん達がいれば、雪が降っても食い物に困らんだろ?」

「んぅ~、わたしは石の家はやだなぁ……」

「私はフーについて行くだけよ。そんなことより、お腹が減ったわ」

「アン、さっき朝飯食ったばかりだろ」

「少ないのよ」

「わかったわかった、後で何か買うから」

「フー、ガーラで暮らすなら早めに安い住処と割のいい仕事を見つけないと、あっという間に金が無くなるぞ」

「そうか……そうだよなぁ……、よしわかった。石塀の外で探すか」

「風呂は惜しいがな」

「仕方ない……そもそも石塀の内側で家借りるのは無理だろう。石の家はクリスティーヌが嫌だろうし、ぜったい高い」

「私は昨日の夜食べたパンが欲しいわ」

「ああ……、結構金持ってる気がしたけど、意外とすぐなくなりそうだな」

「一度マハに相談するのも良いかもしれんな。家を借りる手順は街によってだいぶ違うからな。わしもこの街のことについてはようわからん」


 それからパンを買い、結局皆でそれをパクつきながらマハの店に行く。

 昨日の今日でなんだか少し気恥しい気もしたが、家を借りようと思っていることを伝えると、とても喜んで親身に相談に乗ってくれた。

 ちなみにアンとクリスティーヌは、遅れて出てきたマハの妻、イーダに奥の部屋へ回収されていってしまった。

 楽しそうな声だけが聞こえてくる。

 何か甘い食い物でも貰ってそうな雰囲気だ。


「じゃあ登録料だけ払えば、空き家は勝手に住んでいいのか……」

「ええ、石塀の外はそれでいいはずです。実際人気の場所は人が住んでいますし、売買も盛んですが……北の方などは開拓に失敗したこともあって、空き家なども多いと思いますよ。意外と掘り出し物もあるかもしれません」

「へ~、北ね。行ってみるわ」

「あの辺は森が近くて、モンスターに木柵を壊されていて危険なのですが……、フーさん達ならば余裕でしょう?」

「まぁね。むしろ森に近いのはありがたいくらいだ」

「敢えて詮索は致しませんが、フーさんゼットさんだけでなく、アンさんクリスティーヌさんも、どう見てもただものではありませんからね」

「ははっ、まぁ色々あるのさ」


 マハは俺達が人間やめてることに気が付いているのかもしれない。

 俺やゼットは傭兵の枠内に収まるだろうが、アンやクリスティーヌの存在はあまりにも不自然だからな。

 この辺りの危険な森で、若い女がああも余裕のある様子を見せているということは、何かあると言っているようなものだ。


「ただ……北の森には恐ろしいモンスターも住んでいるらしいので、一応は注してくださいね」

「新種のモンスターでも出たのかな」

「姿を見たものはいないらしいですが、見つかった死体は喉をえぐり取られていたらしいですよ」

「のど……おっかないな。とはいえ森には食いもん採りに入る予定だから、いつかは戦ったりするんだろうなぁ」

「もし、肉が手に入るようでしたら、ぜひ私の所に持ち込んでくださいね!」

「わかった! いろいろ助かったよ」

「また住む場所が決まりましたら、私の所に来てください。手続きがかなり面倒なので、私がお手伝いしますよ。あっ、ちなみに登録料は年間で銀百五十必要ですから、あまり無駄使いしすぎてはいけませんよ」


 マハの助言に従って早速石壁の北門を出てみる。

 石壁の日陰になっていることもあるだろうが、やや雰囲気が暗く人通りも少ない。


「なるほど……、怪しい連中も多いようだが、悪くはないか」

「畑が多くていいな!」

「ね~みんな、森が見えるよ!」

「あらほんとね。あの森には美味しいものがあるかしら?」


 あまり治安は良くなさそうだが、皆の反応は悪くない。

 石壁の付近にある家々には基本的に人が住んでいるようだ。

 いっそのこと一番森に近い家を探しに行ってみるか。


「でっかいな……」

「これは家というよりも前線基地だな。おおっ、荒れてはいるが、畑もある……わしはありだと思うぞ!」

「井戸も生きてるな。おいおい、アン、クリスティーヌ、今日は森には入らんぞ」

「わ、わかってるよぉ」

「そうね……フー、ここも面白そうよ。はやく森に入ってみたいわ」


 ゼットの言う通り、実際にここは開拓の前線基地として使われていたのだろう。

 木造ではあるものの、基礎にはしっかりとした石組が使われており、かなり大きな丸太を積み重ねるようにして作られている。

 薄い木片で葺かれた屋根からは基礎と同じく石組の煙突が二本顔をのぞかせており、暖炉だけでなく、立派な厨房を予感させる。

 石塀の中の建物に比べても贅沢で頑丈な作りだ。

 これならモンスターに襲われてもある程度は耐えられるだろう。

 今はまったく人のいる気配もない。


「中に入ってみようぜ――」

「床が高いのね。これなら雪が降っても大丈夫かしら」

「ねぇねぇフー、木の匂いがするよ! あっ、この木で背中掻くと、気持ちいいんだ~」

「やはり空き家のようだなぁ……。おい、フー、あっちに窯がありそうだぞ!」


 鍵の壊れたドアを開けると、バタバタと皆なだれ込むように中へ入っていく。

 内部は天井が高く、屋根を支える大きな丸太が剥き出しになっている。

 薄く埃は積もっているが、雨漏れの跡などは無さそうだ。

 家具や食器、生活用品なども、使えそうなものがいくつか放置されている。

 少し掃除すれば今からでも住めそうだな。


「いやぁ、それにしても広いな。部屋数も多い。だがなぁ……こりゃ薪が大変そうだぞ」

「しかしフー、この厨房は魅力的だぞ? あんな立派な窯はそうない。熊一頭丸々焼けそうな大きさだぞ?」

「ま、丸焼きにされるの!?」

「いやクリスティーヌ、そうしがみつくな、背骨が折れそうだ。クマは美味いが、お前を焼いて食うわけないだろ? ゼットさすがに大げさだが……たしかにでかい肉塊も豪快に焼けそうだなぁ」

「薪は私が夜集めるわ。ここにしましょう? 暖炉も素敵じゃない。ねぇ、フー、そうしましょう?」

「あ、ああ……。そうだな、まぁ今年の冬はここで越してみるか」


 最終的にはアンに押し切られ、この馬鹿でかい家に住むことが決まる。

 まぁ少々のことがあってもこの面子なら何とかなるだろう。

 ダメなら出て行けばいいだけだ。


「それじゃあ、マハに手続き頼みに行くか~」

「よしよし、住む場所が決まると買い出しもしやすいな。必要なものは色々あるぞ。フー、金は頼んだぞ!」

「あの窯でパンも焼けるかしら?」

「そりゃ余裕で焼けるだろう。ついでにマハの店で麦売ってもらえば良いんじゃないか」

「そうね。イーダはパンを焼くのが上手だって言ってたわ。ちょうどいいから教えてもらいましょう」


 いとも簡単に新しい家のを手に入れられそうだ。

 あれほど設備が整っていれば、野盗などにとっても絶好の隠れ家になりそうだが……そう言った気配は全くない。

 一度打ち捨てられてから、ずっとそのままになっているようだ。

 それほど森のモンスターは恐ろしい存在なのだろうか。

 まぁ最悪アンをウェンディゴにして半日も森に解き放てば、その手の危険はすべて排除できそうだが……心臓を集めるのが厄介なんだよなぁ。

 まったく……。

 アンの性質もなかなか厄介なものだ。

 あれほど気性は穏やかなのに、誰よりも血生臭い生き方を運命づけられているとは……なかなか皮肉な話だ。

 思いがけず俺も加担してしまったからには、最後まで付き合わないとな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る