第22話 お父さん、娘さんを僕にください!(違

「パパは行っちゃダメって言ったよね? どうして約束を守ってくれなかったんだい?」

「私はハンター養成学校に入学したのだ。もう、ただの一般人ではなく、ハンター見習いだぞ。ダンジョンに行くのは当然ではないか!」

「でもでも、まだ早いよ! 一年生の前期も終わってないんだよ? ダンジョンは危険が危なくて、可愛いエマチは魔物に食べられちゃうかもしれない。そうなったらパパ、悲しすぎて死んじゃうよぉ!」


 おっさんの鼻にかかった甘い声って、めちゃくちゃ気持ち悪いな。

 さすがにこれは、イケオジでも許されねぇだろ。


 でも――そうかそうか。

 前の世界線でエマがグレた理由がわかった気がする……。


「お父様――」

「なんだいエマチ? あっ、昔みたいにパ・パ♪って呼んで欲しいな?」

「オ・ト・ウ・サ・マッ。まずはお客様にご挨拶してほしい」

「む? ――なんだ貴様ら。いつからそこにいた!?」


 エマへの態度とは打って変わって、雰囲気がビシっと引き締まる。

 声にも組長バリのドスが籠もった。


 このおっさん、俺たちのこと一切目に入ってなかったんだな。

 ここまで綺麗にスルーされると、いっそすがすがしいわ。


「先日新しくクランを立ち上げた白河颯だ」

「同じクラスの朝比奈萌木です」

「ほう。その年齢でクランを立ち上げた者達か。なるほど、噂通り俊英らしい」

「噂を耳にしているのなら、話が早い。俺のクラン【ラグナテア】は西園寺エマを欲している。エマには他にはないハンターとしての才能がある。この力を、是非ともうちのクランで活かしたい」

「いくら俊英といえども、まだまだクランは未熟。そんな場所で、娘をどう活かせると? 娘に貴様の言うような才能があるのなら、大手クランに直接かけあったほうが、娘は何倍も大きな利益が得られよう」


 うん、ど正論だな。

 SSRの萌木と同じ成長力・戦闘センスがあるなら、ハイクランにだって有利な条件で所属出来る。


 このおっさんの言うことは、間違ってない。


 ただなあ。

 一つだけ、致命的な間違いがある。


「エマを最大限活かせるのは俺だけだ。他のクランには不可能だ」

「口だけでは何とでも言えるな」


 おっさんが鼻で笑う。


「――あと、オレのエマチを呼び捨てにするなッ!」

「…………」


 あ――ッぶねぇ! 思いっきり崩れ落ちるところだったわ。

 なんだよこのおっさん、頭ん中にはエマチしかねぇのかよ。


「口だけじゃない。今日、俺はエマをダンジョンで位階ⅠからⅡに上げた」

「ほぅ?」

「ほんの数時間でここまでの結果が出せるクランが、果たしてどれほどあるんだろうな」

「なるほど。多少は出来るようだが、〝貴様だけ〟というには弱いぞ」


 エマを最大限活かせる方法――ゲームから持ち越した手持ち装備を使えばいい。

 たったそれだけで、俺と同等のハンターにすぐなれる。


 だがこれは軽々しく言えない。

 インベントリに眠ってるアイテムは課金武具が中心だ。たぶん現実世界には存在していないか、存在したとしてもチートクラスのものばかりだ。


 実際、レギオンも夢幻セットも、深淵Ⅲの悪魔程度じゃ能力を持て余してる。

 そんな装備をいくつも所持している理由が説明出来ないから、言うに言えない。


 この装備は他にはない、俺にとっての唯一の強みだ。

 クランを大きくするために、装備についての情報は一切外には漏らしたくはない。


「やはり、ハイクランに入った方がいいな」

「ふん。どうせハイクランに入ったところで、他のハンターと同じ扱いしかされんぞ。エマとしてじゃなく、大勢のハンターの一人として扱われる。それがエマにとって幸せか? いいや、幸せにはなれんな」

「だからオレのエマチを名前で呼ぶなと――」

「だが俺はエマを一人のハンターとしてきちんと見てやれる! なぜなら俺とエマは小学校からの付き合いだからだ」

「つ、つき――ッ!?」

「いいかよく聞け。ハンターは命がけだ。確実な保証なんてない。だったら、一番大事にしてくれるところに預ける方が幸せじゃないか?」

「一番、大事!? 幸せッ!?」

「俺ならエマを一番大事に出来る。一番幸せな(ハンターとしての)人生を与えられる!」

「…………」

「俺を信じられないってんなら、俺を信じたエマを信じて、俺に預けろお父様よォ!!」

「あ……ええと、颯。力説、すごく嬉しかったのだが。すまない、お父様が……泡を吹いてしまった」

「ん? うおっ!?」


 ほんとにブクブク泡を吐いてる!?

 どうしてこうなった!


「なんか結婚の許しを貰うシーンみたいで、ドキドキしちゃいました」

「あ、あー……」


 萌木のつぶやきで、オヤジがノックアウトした理由がわかった。

 うん、俺も負けたくない一心で言葉をまくし立てたけど、後から考えるとなかなかな台詞吐いてたな……。


「西園寺さん、羨ましいなあ。私もいつかこんな熱烈なアプローチされてみたいです!」

「い、いや、ちが、違うぞ? ただクランへの誘い文句を言ってただけで、颯は別に、私のことなんて…………なあ?」


 うんうん、そうだよ。

 全然そういう意味はないからね?

 だから、頬を染めながらチラチラ上目遣いでこっちを見るのは止めなさい。

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