第17話 竜の気持ち? おいらの気持ちは

 ローザ・ファルベンのまちにある学園がくえんつきひかり由来ゆらいのモントシャイン学園がくえんは、由緒ゆいしょただしき伝統校でんとうこうだ。


 病弱びょうじゃくだったステラは、竜型りゅうがた召喚獣しょうかんじゅうブルーとともに元気げんきにモントシャイン学園がくえんかよっている。そんな学園がくえんは、まちをあげての行事ぎょうじ、ローザファルベン召喚魔法祭しょうかんまほうさい参加さんかする。そのため、学園がくえんでは5時間目じかんめ使つかって様々さまざま準備じゅんびがおこなわれていた。

 ステラのクラスでは、人気にんき童話どうわ聖女せいじょりゅう』をお芝居しばい披露ひろうすることになっている。


 しかし、問題もんだい発生はっせいしてしまった。お芝居しばい主役しゅやく二人ふたり竜役りゅうやくのブルーのほかに、聖女役せいじょやく妖精型ようせいがた召喚獣しょうかんじゅうランがいた。しかし、ランと使役しえきしている召喚士しょうかんしセレーネが5時間目じかんめだけを欠席けっせきするようになってしまったのだ。


 ステラは、4時間目じかんめえてカバンに教科書きょうかしょをしまうセレーネに近寄ちかよってこえをかけた。


「セレーネさんとランさん、今日きょうかえっちゃうの?」

「…………」


 セレーネは無言むごんで、ステラを無視むしすると教室きょうしつあとにした。心配しんぱいそうにセレーネのあとうランは、どこかかなしそうにんでいった。バラバラになりかけているクラスでは、お芝居しばい練習れんしゅうなどすすまない。セレーネだけではなく、脇役わきやく召喚獣しょうかんじゅうたちを使役しえきするクラスメートも、数人すうにん教室きょうしつあとにしていった。


「みんな、どうしちゃったのでしょうか」


 心配しんぱいそうにつぶやいたステラに、お芝居しばい監督かんとくのクラスメート、ロジャーがこえをかけた。


今日きょうも、聖女せいじょない場面ばめんをやろう」


 ロジャーは自分じぶんあたまをくしゃくしゃすると、メガホンとばれるアイテムをに、どかりと椅子いすすわった。そして無言むごん支度したくはじめるクラスメートを、ただしずかに見守みまもっていた。


「ステラちゃん」


 クラスメートで友達ともだちのミミィがこえをかけてた。ミミィは猫型ねこがた召喚獣しょうかんじゅうレミィをうできながら、やさしくあごをでていた。


「ミミィちゃん……」

「セレーネさんね、プライドがたかいのよ」

「プライド?」

「お嬢様じょうさまだし、お金持かねもちでわがままなところがあるの」

「でも……」


 ステラがなにかをいかけたとき、ロジャーがメガホンでえた。またしても、ステラの召喚獣しょうかんじゅうブルーがセリフを間違まちがえたのだ。ブルーはしょんぼりと背中せなか羽根はねをしおらせると、脚本きゃくほんつめた。


「ブルー……」

「ステラごめん! また間違まちがえた。どうしても、おいらってっちゃうんだよな。りゅう一人称いちにんしょうぼくなのに」

仕方しかたないですよ。くせなんだもの」

「うーん」


 すると、ロジャーが椅子いすからあががった。ロジャーに怒鳴どなられるとおもったブルーは、姿勢しせいただした。しかし、ロジャーはおこることなく、ブルーのまえでしゃがみこんだ。


「ブルーはさ、やくりゅう感情移入かんじょういにゅうしてるんじゃないか」

感情移入かんじょういにゅうって?」

りゅう気持きもちちとかを、自分じぶんのことみたいにおもってかんじることだよ」

「そりゃそうだい。だって、りゅうかなしいとか、さみしいとかおも部分ぶぶん、おいらよくわかるもんな」


 ブルーはなかなか召喚しょうかんされず、仲間なかまたちが次々つぎつぎ召喚しょうかんされていく日々ひびおもしていた。

 ステラは病弱びょうじゃくであり、ブルーをちからもなかった。しかし、ブルーは召喚士しょうかんしがピンチのときにあらわれる逆召喚ぎゃくしょうかん強制召喚きょうせいしょうかんという裏技うらわざ使つかって、この世界せかいったのだ。


「うん。だから、どうしても自分じぶんのことのようにセリフをしゃべってしまったんだ。だから、おいらってっちゃうんだとおもうんだ」

「なるほどねえ。でもこれはおいらじゃなくて、物語ものがたりりゅうなんだよな」

「そうだよ。このりゅうはブルーであって、ブルーじゃないんだ」

「おいらであって、おいらじゃない。か……」


 そういうと、ブルーはかおをパッとあかるくさせると、ステラにかえった。ステラは心配しんぱいそうに、ブルーをのぞんでいる。


「なあ、ステラ。おいら、また特訓とっくんしてきてもいいか?」

「え、でも……」

「ステラはおいらに命令めいれいしないもんな。んじゃおいら、ちょっと特訓とっくんってくるぜ」

「あ……」


 ブルーはまどからっていってしまった。そののこされたクラスメートたちとともに、がっくりとそのにしゃがみこんだ。


わたし間違まちがっているのでしょうか。命令めいれい使役しえきしたくないなんて。……ブルーとは友達ともだちでいたいだけなのに」

「ステラちゃん……」


 ミミィはステラの背中せなかをゆっくりとでた。




 ◇◇◇


 庭園ていえんのバラがたくさんみだれる花園はなぞのまでやってたブルーは、白いベンチにゆっくりとこしおろろした。ここならだれないだろう。


「おいら……。じゃなくて、ぼくだ。ぼくりゅうりゅうで、それで……」


 そこまでかんがえたところで、きゅうにだれかのこえこえていることに気付きづいた。ブルーはゆっくりとそのこえ方向ほうこうあるいていった。バラをかきわけていくと、そこには妖精型ようせいがた召喚獣しょうかんじゅうランが、バラのうえすわりこんでいた。


「ランじゃないか。どうしたんだ」

「あ、ブルー……」

「それ、脚本きゃくほん?」

「うん。練習れんしゅうだけはしておこうとおもって」


 ランはそういうと、セリフをゆっくりとゆびでなぞった。かぼそい声で、セリフをひとつひとつ間違まちがえずにえると、溜息ためいきをついた。


「セレーネさま部屋へやじこもってしまって」

「そっかあ。セレーネはぷらいどってやつがたかいらしいな」

「そうかもしれません」


 ランはうつむくと、ゆっくりと脚本きゃくほんのページをめくった。


「なぁ、ラン」

「なんですか?」

「セレーネは、りゅうおなじなんじゃないか」

りゅうと?」


 すると、ブルーは脚本きゃくほんをめくっていった。そして、ひとつのセリフをつけると、ゆっくりとげた。


ぼくむかしから、孤独こどくだった……。かなしみをわすれるために、人里ひとざと出向でむいていた。ひとぼくこわがるからな」

「…………」

りゅうって、そりゃあつよいし、知識ちしきもいっぱいあるだろ? だから、ぷらいどはたかかったとおもうんだ。それに、あのだからな。ひとみんなこわがるんだよな。おいらも竜型りゅうがたとかわれてるから、だからわかるんだ」

「……セレーネさまはおかあさまをくされています。そのかなしみをれるために、学園がくえんたのです。そして、お金持かねもちだからみんな距離きょりをおかれていました。それは、セレーネさまにもわる部分ぶぶんはありました。……そうですね、りゅうおなじかもしれません」

「そうだったのか。おかあさん、いないとさみしいもんなあ」


 ランはだまってうなづいた。ブルーは、ステラにも両親りょうしんがいないことをおもしていた。ステラもさみしかったのだ。そして、ブルーとは使役しえきした関係かんけいではなく、友達ともだちでいたいとかんがえている。

 ブルーにとって、ステラは召喚士しょうかんしだが友達ともだちわらない。ちょっとだけ、ステラの気持きもちがわかったようながした。


 ブルーはもこもこのウロコをふるわせると、ランにきなおった。ランはスッキリしたような表情ひょうじょうかべ、微笑ほほえんでいた。


「セレーネさまはなしてきます」

「うむ。がんばってな。がんばったあとは、うまいもんをいっぱいえよ」

「あはは。ブルーさんも、練習れんしゅうがんばってください」

「おう!」


 ランはそういうと、バラをかきけてんでいった。かろやかに、そしてある決意けついめて――。


次回じかい、セレーネは、ランはお芝居しばいもどってくるのかな? そして、ブルーの特訓とっくん成果せいかとは……。つづく!―

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