1話 『鍛冶』の有用性

 さて第二の人生を精一杯生きると決意したはいいが、そのために何よりも重要なのがスキルとなる。


 スキルとはいわばその人のもつ才能。だからこそどんなに不遇といわれようとも、まずはこれを活用することを考えるべきであろう。


 改めて不遇といわれる理由を考えてみる。


 まずこの世に出回っている武具が魔物やダンジョンからのドロップ品となっている。

 初心者が使う武器、防具、もっといえば農具にいたるまで、そこら辺の弱い魔物やダンジョンから簡単に手に入れることができる。


 故にこれらは町で安価に販売されている。安価故に簡単に使い捨てられるし、安価故にわざわざ修繕しようとは考えない。


 これは受け入れなくてはならない事実であるし、もはやそれ自体をどうこうすることはできない。


 では他の不遇と呼ばれる理由はどうか。


 武具制作に大量の魔力を消費するだが、スキル獲得時に手に入れた知識によると、これも正しいようだ。


 ただし全てにおいてそういえる訳ではなく、イメージ力や知識が不足している場合、材料がない場合、扱う材料の難度が高度である場合により多量の魔力を消費するとのことだ。


 そして3つ目が武具制作には高度な知識や高いイメージ力を必要とするで──ん? まてよ?


 ここで僕はふと閃く。


 この高度な知識や高いイメージ力とやらは、僕の前世の知識があればなんとかなるのではないか?


 記憶を思い返すと、どうやら前世の僕は三流の理系大学出身らしい。つまり前世ではそこまで高度な知識を有しているとはいえないが、この世界の住人としてはある程度優れた知識を有していることになるのではないだろうか。


 つまり高度な知識と高いイメージ力を有し、材料が存在し、かつその材料が扱いやすいものであれば、今の僕でもどうにかできるのではないか。


 ……仮に武器制作は無理でも、武器修繕ならあるいは。


 思いついたら即検証と、僕は普段使っている錆だらけでボロボロのナイフを手元に用意した。


「スキルの使い方は……大丈夫」


 スキルの使い方はその名を認知した瞬間から何故か理解している。


 まず『鍛治』という名ではあるが、実際に鍛冶屋が行うような手順を踏む必要はない。そこは魔法の力というべきか。


 ただし物を作る際や修繕を行う際にはまずはハンマーが必要になる。


 このハンマーについては……どうやら念じれば召喚できるらしい。


「んー『ハンマー召喚』……っと、おお!」


 必要かどうかはおいておいて、そう声に出しながら念じると、僕の手にありふれた見た目のハンマーが現れた。


「えっとこれで修繕の準備は整った訳か」


 あとはこのハンマーをナイフに向かって振るえばいいのだが、ただし闇雲にやっても何も意味はない。


 ここで必要なのは、ナイフに流す魔力、そしてイメージ力と知識だ。


「大丈夫。物質の在り方や錆の仕組みとかその辺りの知識はある。それにイメージ力だってこれまで様々な動画を目にしてきたことである程度はあるはずだ。これさえあればきっといける」


 魔法や剣術と違い、おそらく鍛冶にはノウハウが少ない。もっといえば何故錆びるかなど、そういった原因をこの世界の多くがはっきりと把握していないのではないか。


 だから余計に『鍛冶』が不遇とされてきた。


 対して僕には前世の知識がある。もちろん専門家レベルではなく、一般常識適度の知識しかない。それでも錆びの原因などは知識として持っている。それを活用すれば──


「よし……やるか」


 僕はまずナイフにじわじわと浸透させるように魔力を流していく。この魔力により、素材を柔らかくしたり、作成後の強度を増したりできるらしい。


 この辺りは当然はっきりとした知識はないが、しかしそれがこの世界のルールである以上それに従う他ないだろう。


 次いで完成品のイメージをしながら、スキルの導くままにハンマーを振るう。


 するとボロボロだったナイフがうっすらと輝き始める。そして叩くごとに錆が消え、ボロボロだった刃が整っていく。


 こうしてイメージしながら叩き続けること十数分。僕の手には見事金属としての輝きを取り戻したナイフが握られていた。


「よし……いい感じだ。あとは──」


 僕は手に持っていたハンマーを念じて砥石へと変化させる。

 そして魔力を流し、イメージを続けながらその砥石でナイフの刃をより鋭利に整えていく。


「うん……これで完成だ!」


 よしよし、早速性能チェックといこう!


 試しにと近くにあった細い木材を切ってみる。それだけでもこれまででは考えられないほどに切れ味が向上していることがわかった。


 念のため耐久性もどうか確認してみるが、こちらも元の素材が持つ耐久力をフルに活用できていそうだ。


 今の僕の魔力量は少ない、故に流し込んだ魔力も少ない。それにスキル『鍛冶』の経験もゼロに近ければ、この世界の魔力や素材に関する知識は乏しいといえる。


 そんな僕が修繕しただけでも、これだけの切れ味と耐久性を手に入れることができた。


 もしも今後魔力が増えたら。経験を積み、知識を得て、その上で扱える材料もより高度なものになっていったら。


 ──スキル『鍛冶』と前世の知識やイメージ力。この2つを組み合わせれば、今後よりレベルの高い武具を修繕したり、作ったりできるのではないか。


「それこそ……魔剣だって。なんなら世界一の武具だってもしかしたら!!」


 考えれば考えるほど、僕の脳内をプラスの感情が埋め尽くす。


 こうして『鍛冶』が有用なスキルであるとひとり認識した僕は、多大なる希望と共に晴れやかな未来を思い描くのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る