正しい催眠魔法の使い方


「あんたがあの悪名高きノックス家の次期当主、ワズンね!」


 青空の下、黒髪黒眼の男を呼び止めるのは一人の少女の声。


 ツーサイドアップの金髪を輝かせ、澄んだあおい瞳が、男の背中を射抜く。


「――ついに追い詰めたわ! あんただけは絶対に逃がさないんだから!」


 ワズンは、

「くくく、いかにも。俺がワズンだ。

 そう言うお前はメブスタ。魔法協会子飼いの魔法少女じゃないか」

 ゆっくりと後ろを振り返った。


 メブスタは一歩後ずさると、

「あ、あんた、わたしの名前をどこで……!」

「くくく、どうしたメブスタ? お前ひとりか?」

 ワズンは一歩にじり寄った。


 ワズンの視線が華奢な脚、くびれた腰つき、形の良い膨らみの胸部、そして整った顔立ちへと移る。


 その視線にメブスタは一瞬怯みを見せたもの、キッとワズンを勇ましく睨みつける。


 示指でワズンを指差すと、

「陰でこそこそと悪巧みをするあんたなんて、わたし一人で十分だわ!」


 よく見るとワズンの指は小さく震えていた。


「くくく、それは俺が催眠魔法使いだと知ってのことか?」

「も、もちろんよ! あんた如きの催眠魔法になんて、絶対にかからないんだからッ!」


 ワズンは両手を左右に大きく広げた。


「くくく、口の減らない小娘だ。ではその体に教えてやろう。正しい催眠魔法の使い方を――」


 ◆ ◇ ◇ ◇


「お疲れ様です」

「アクァリィか。なに。あれしきのことで俺は疲れんよ。それより、どうだった?」


 メブスタとの対峙を終え、ワズンは自身の自室へと戻ってきた。

 部屋に入ると、黒髪銀瞳の美人メイドの凛とすました顔が、ワズンの帰りを迎え入れた。


 秘密結社イビルの秘密基地。

 その一室である間接照明で薄暗い部屋。

 それがワズンの自室だった。


 ワズンは上着をアクァリィに手渡すと、部屋の中央に用意された豪華な椅子へと座り込んだ。


「魔法少女と喋ることに興奮して笑みをこらえきれていないご主人様。控えめに言っても気持ち悪かったです。最高です」


 無表情で淡々と述べたアクァリィに、ワズンは背もたれから首を起こして彼女を見た。


「え? うそ? そんなにか?」

「はい。そんなにです。でも、私的にはありです」

「アリィ的にはありは、俺的にはなしなんだよな……」


 ワズンはアクァリィが、かなりイカレた女であることを知っていた。

 なにせ悪の秘密結社でメイドをやるような女である。

 その彼女的にありという言葉に、ワズンは全然喜ぶことができなかった。


「それより俺が聞きたいのは戦況だ。俺たちと魔法少女の戦況はどうなっている?」


「依然として当該地域では我らが悪の秘密結社イビルが優勢です」

「……いい加減その頭に『悪の』とか『秘密結社』ってつけるのはやめないか? 何回聞いても恥ずかしんだが?」

「それはご主人様と言えど難しいお願いです。なにせご主人様の御両親が結成した組織は『悪の秘密結社イビル』という組織名ですから」

「だせぇ……。それでその父上と母上は? 魔法少女にやられたり、不慮の事故で死んでくれてたりしないか?」


「いえ、ご健在です」


 ワズンは顔をしかめた。


「ちっ……。はぁ、まぁそう簡単にくたばるなら大陸間で指名手配されても、生き残ったりできないか。他の家族ファミリーは?」

「今回の交戦で妹君が魔法少女に捕縛されたようです」

「よーしッよしよしッ!」


 ワズンは手を叩いて快哉の声を上げた。


「反対に兄君が魔法少女を撃破した、とも報告があがっています」

「なにぃッ!? 魔法少女は、魔法少女は無事なんだろうなッ!?」


 ワズンは勢いよく背もたれから身を起こした。


「現在のところ死亡は確認できておりません」


 ワズンは額に浮かんだ汗を袖で拭うと、

「ふぅ、心配させおって。あれだけ兄上からは逃げろと魔法少女たちには、散々催眠したいいきかせたんだがな。新人か?」

「どうやらそのようです」

「やれやれ、新人教育も骨が折れるな」


 くくくと不気味にワズンは笑う。


 それをそばで見ていたアクァリィは、

「頼まれてもいないのに。ましてや敵対組織の次期当主だというのに、お味方であるご家族様より、敵である魔法少女のご心配。相変わらずご主人様はイカレてますね。そこがたまらなく好きです」

「俺はそういうイカレたお前たちがたまらなく嫌いだ」


 ワズンが軽蔑の眼差しをアクァリィへと送るが、


「これが巷ではやりのツンデレ、と……」

「お前は今のどこにデレを見出したんだ駄メイドが」

「ご主人様から罵倒いただけるなんて……たまりませんね」

「お前はそういう奴だったな。無敵かよ」


 無表情のまま、じゅるりと涎をぬぐうアクァリィにワズンは慄いていた。


 ワズンは気を取り直すと、懐からある魔法道具を取り出した。


「ご主人様、それは?」

「研究所が開発した盗聴用の魔具だ。さっきメブスタと交戦した際に、催眠魔法で彼女の髪飾りと入れ替えておいた」


 これが本物、とワズンは懐から女性用の髪飾りを取り出し、ニチャァと笑った。

 アクァリィはその笑みを見て、ゾゾゾと背筋を震わせる。


 ワズンが盗聴器を起動すると、少女の声が室内に響く。

『――メブちゃん! 大丈夫!?』

『う、うん。ごめん……しくじっちゃった』


 どうやらメブスタは魔法協会の基地へと戻ったようだ。


「メブスタと共にいるのはリラか。そうか、今は彼女もこっちに来ていたのか」

「声だけで魔法少女を識別できるなんて極まってますね」


 アクァリィの言葉に、ワズンは誇らしそうに鼻を鳴らした。


『いいの、メブちゃんが無事なら!』

『相手はワズンよ』

『あ、あのワズン』


 盗聴器越しにリラが息を吞んだのが伝わった。


『悪の秘密結社イビルの次期当主。組織の名前がダサいことを除けば、彼らは笑うことができない存在。その中心人物を捕まえる好機だったのに……!』


「うん。組織名については俺も同感だ」

 盗聴器越しに同意するワズンは、もし組織をついだら真っ先に組織の名前を変えようと、心に固く誓った。


『いまこれを言うのは酷かもしれないけど……メブスタちゃんが戦っている間に別の場所でも新入りの子がやられちゃったみたい』

『そんなッ!? その子は無事なの!?』

『う、うん。命に別状はないみたいだけど、戦線復帰には時間がかかるみたい。上の人が他の部署に援軍を頼んでくれるみたいだけど、今はどこも人手が足りないから期待はできないって……』

『本部は何をやっているの! 現場のわたしたちはこんなに苦しい思いをしているというのに! くそッ!』


 何かを足蹴にする音が響く。


『ご、ごめんなさい。本部は情報統制に諸国との調整に追われているみたいだって……』

『あ。ご、ごめんね。わたしの方こそ。リラは何も悪くないから』


 それから二人で謝り合うのが聞こえてくる。


『で、でも悲しい話ばかりじゃないよ! 悪の秘密結社イビルの当主の末の娘を捕まえたって!』

『やった! ついにあのワズンの四肢の一人を……!』

『うん! たいへんだけどワズンの四肢を倒していけば、ワズンを捕まえる機会はまた来るよ』

『残るはワズンの兄と姉と弟ね。待ってなさいワズン……! 必ずわたしが捕まえてみせるんだから!』


「いや、兄弟姉妹あいつらは俺の四肢とか言われてんの? 初耳なんだけど? その四肢は早いところ引きちぎってもらって大丈夫なんだけど?」


 アクァリィは、

「私はさながら、ご主人様の睾丸、といったところでしょうか?」

 無表情で小首を傾げてみせた。


 急所や泣き所といいたいのだろうか。


「お前は次にこの部屋に来るまでに、必ず医務室で頭を見てもらえ」


 絶対何かおかしいから、と。


「失礼しました。確かに睾丸は二つありますから。一人しかいない私は例えるなら陰茎、でしたね」


 ワズンはアクァリィを部屋から閉め出した。


「前言撤回だ! 今すぐ見てもらえ!」


 アクァリィの足音が遠ざかっていくのが聞こえた。


 性格が人として終わっていることを除けば、彼女もかなりの有能人だった。

 ただその玉の瑕があまりにも大きすぎるのが難点だった。


「ふぅ。この組織やべぇのしかいないんだ。はやいとこなんとかしないと……」


 世間を賑やかせる『悪の秘密結社イビル』の次期当主と目されるワズン。

 皮肉なことにワズンは敵対組織の『魔法協会』が擁する魔法少女の大ファンであった。


 ◆ ◆ ◇ ◇


「――よし。催眠完了っと。最後に確認だ」


 秘密結社イビルのとある訓練室。

 だだっ広い大部屋にワズンと組織に属して日の浅い戦闘員たちの姿があった。


 ワズンは目の前に整列した強面の男たちを睨めつけると、


「魔法少女と戦うときは?」

「生活に支障がでる怪我は絶対に負わせません!」


「よし! 戦場で魔法少女と俺の家族との戦闘を見かけたときは?」

「それとなくご家族の戦闘を邪魔します!」


「いいぞ! 魔法少女の大切な人を見かけたときは?」

「必ず非戦闘地域まで誘導します! 人質にはとりません!」


「その調子だ! 魔法少女が俺たちを倒せそうになかったら?」

「偶然を装って私たちの弱点をバラします!」


「そうだ! 魔法少女の魔力が切れそうになったら?」

「可能であれば、魔法薬をさりげなく提供する、それができなければ何かと理由をつけて撤退する!」


「素晴らしい! これで最後だ。魔法少女は?」

「世界の宝!」


 催眠の成果に満足そうに頷くワズンの後ろに、近づく一つの影があった。


「今期の新人たちを集めて何をやっているかと思えば、また例の催眠ですか? ご主人様」

「あぁ、何かあってからじゃ遅いからな。父上と母上が連れてくる奴らは性格はアレだが、実力は折り紙付きの者ばかりだ」

「本当に困った奴らですよね」

「お前も立派な一員だよ、駄メイドが」


 ワズンは振り返って、部屋へと入ってきたアクァリィへそう告げる。


 そ、そんな。と無表情のまま、泣き崩れるふりをするアクァリィに、

「おまえ、医務室には行ってきたのか?」

 ワズンは冷め切った視線を送った。


 ワズンの言葉にケロッと佇まいを正したアクァリィは、

「はい。それはもう念入りに精密検査を受けてきました」

「それで?」

「医療長より超健康優良体のお墨付きを頂きました」

「なるほど。つまり、救いようがないと」

 ワズンは天を仰いだ。


 天の存在を信じないワズンだが、天を仰がずにはいられなかった。


「このあとはいかがされますか? 総帥閣下やご家族さまから、ご主人様との面会のご要望が届いておりま――」

「全部却下だ」

「かしこまりました」


 ワズンはアクァリィを引き連れて大部屋を後にした。


「今日は例の新人の見舞いへ行く」

「こちらがその新人の入院されている魔法協会の治療院の住所と、滞在許可証です」

「お前は性格さえまともならなぁ……」


 冴えわたった推察力と手回しである。

 これがアクァリィの性格がどんなに終わっていても、ワズンが彼女を重宝する理由の一つ。


「では行くぞ」

「かしこまりました」


 二人は秘密基地を後にした。


 ◆ ◆ ◆ ◇


「――よし。これで肉体回復の促進、精神面の治療は完了だ」


 病室に横たわる少女の顔に翳していた手をどける。

 そのまま瞬きをせずに虚空を見つめる彼女の瞼を下ろした。


 ふぅ、と一仕事を終えたワズンに、

「つくづく催眠とはすごい力ですね。治療の促進まで」

「病は気からと言うだろう。気の持ちようが体に及ぼす影響というのは、案外馬鹿にできないものがある」


 催眠魔法とはその気持ちは手助けする。または、方向性を与える魔法。


「ご主人様と出会うまでは、催眠とは相手を混乱させたり、言いなりにさせたりするものだと思っていました」


 ワズンは呆れたように、

「言いなり? それは不可能だぞ」

「そうなのですか? お言葉ですが、先日魔法少女に催眠魔法で盗聴器と髪飾りを交換させませんでしたか? それに本日行われた新人への催眠教育も」


 ワズンはアクァリィの問い掛けに首を振ると、

「あれらは思考の誘導だ。誘導と支配は似て非なるものだ。催眠に相手の感情や理解を抜きにして従わせる力はない。本気で魔法少女を憎んでいる者には、あの程度の催眠は効きはしない」

「なるほど、一つ勉強になりました」


 アクァリィが恭しくその頭を下げた。


「俺はこの催眠魔法に可能性を感じている。この力を使って俺には叶えたい夢がある――」



「――俺は英雄ヒーローになりたいんだ」



 それを聞いていたアクァリィは無表情のまま、器用に眉だけをひそめた。


「それは……険しき道ですね。悪の純血のようなご主人様ですと特に」

「道が険しければ険しいほど、乗り越えた先で得られる喜びも大きいのさ」


 ふっと笑うワズン。

 その道の険しさは他でもない本人が一番理解していた。


 アクァリィの纏う空気が変わった。


「――ご主人様。緊急事態です」

「どうした?」

「治療院に魔法少女が現れました」

 アクァリィの報告にワズンは苦い顔を浮かべると、

「なんだと? 予定では彼女たちによる見舞いは明日だったはず」

「どうやら予定が変わったようですね。二人分の気配が真っ直ぐにこちらへ向かってきます。いかがなさいますか?」

「手を出すなよ。ここには身動きの取れない新入りもいる」


 それからほどなくしてワズンの耳にも二人分の足音が聞こえてきた。

 

 その足音は部屋の前で止まる。

「お見舞いにきたよ――ってワズンッ!」

「うそッ! どうしてこんなところに悪の秘密結社イビルの次期当主が!?」


 現れたのは二人の魔法少女だった。

 その服装はいつも見かける戦闘服ではなく私服。

 

 以前見たときと変わらず金髪をツーサイドアップで結んだメブスタと、その後ろに立つのは濃紺の髪をギブソンタックで纏めたリラ。

 勝ち気なメブスタの碧眼の輝きと違い、見舞いの花束をもつリラの空色の瞳は不安に揺れていた。


「くくく、まぁ、まて。メブスタ、リラ。今回は戦いに来たのではない」


 二人の魔法少女はワズンの存在に気がつくと身構えていた。


「あんたが言うことをわたしたちが信じられるとでも?」

「くくく、本当だ。信じてくれ・・・・・


 ワズンはそう言って、二人の瞳を交互に真っ直ぐと見つめた。


「……そう。たしかに考えて見たら、戦うためにわざわざ新入りのところにワズンが来るのも変な話よね」

「……うん。メブちゃん。それにここで戦ったら彼女を巻き込んじゃうわ」


 いささか平坦な声で二人の魔法少女はワズンの言葉に同意すると、臨戦態勢を解いた。


「くくく、そうだ。俺もそこの新入りを――身動きの取れない小娘に手を上げる趣味はない。だから、この場はお互い見なかったことにしよう」

「……じゃあなぜワズン。あんたはここに?」


 退室への一歩を踏み出したワズンの足は、メブスタの言葉に縫い留められた。

 俺をまだ疑っている、ワズンにはそれが手に取るようにわかった。


「くくく、それはな、メブスタ。お前を待っていたんだ」

「わたし?」

 メブスタはワズンの言葉に自分を指差して目を丸くした。

「くくく、お前は過去の戦闘で、我が秘密結社イビルからとある魔具を仕込まれている。俺はそれを取り上げにきた」


 これがそうだ、と言いワズンは懐からメブスタの本物の髪飾りを取り出した。


 ワズンは後頭部に、どの口が言うんだ、という視線が飛んでくるのを感じていた。

 もちろん自身のメイドからのその視線は無視した。


 ワズンはアクァリィに髪飾りを手渡すと、アクァリィが進み出てメブスタへと髪飾りを差し出した。


 メブスタはそれをひったくるように手に取ると、

「…………なにが目的? 仮にあなたが言っていることが本当だとして、あなたのお仲間が仕込んだ魔具をわたしから取り上げる理由はなに?」


 アクァリィが再びワズンの後ろに控える。


 ワズンは笑った。

「くくく、それじゃあ――つまらないだろう?」


「なにを……?」

 メブスタは後ろのリラを守るようにして一歩後ずさった。


 リラの顔にははっきりと恐怖の感情が浮かんでいるのが見えた。


「くくく、なに。俺は俺のやり方で、お前たち魔法少女と向き合う。ただそれだけのことだ」


 ワズンは二人のいる部屋の出口へと歩き出す。

 アクァリィがその後に続いた。


 二人の魔法少女はワズンの姿が見えなくなるまで、手を出すことはしなかった。

 

 こうして二人は戦うことなく堂々と正面から魔王少女を切り抜けた。


 ◆ ◆ ◆ ◆


 秘密結社イビルの秘密基地。


 間接照明で薄暗い自室へと戻ったワズンはアクァリィへ上着を手渡すと、部屋の中央に設置された豪華な椅子へと座る。

 

 それからしばらくして、上着を片付けたアクァリィが飲み物をもってきた。

「とんだ自作自演でしたね。一つ質問をよろしいでしょうか」


 ワズンがやったことと言えば、自分で仕掛けた盗聴器を恩着せがましく取り外しただけである。


 差し出されたグラスを受け取り、鷹揚に頷くと、

「さきほどのやり取りで見せた魔法少女たちの不可解な行動は――」

「もちろん催眠魔法だ」


 そう言ってグラスの中の液体で喉を潤す。


「いつの間に……?」

「彼女たちに催眠をかけたときに保険で『俺が目を見て信じて欲しい、と言ったときは信じるべきだ』という催眠もかけていたんだ」


 戦闘面では他の魔法に比べて数段に劣る催眠魔法。

 ワズンはそれを根回しや、支援に回すことでその力を最大限に発揮していた。


「本音を言うと、メブスタの髪飾りは俺の収集物コレクションに加えておきたかったんだがな。あの場でメブスタを納得させるにはあれが最善だった。それにしても、メブスタの髪飾り……あぁ、惜しいものを無くしたなぁ……」

 

 ワズンは椅子に座りながら、遠い目をして宙に手を伸ばす。


 アクァリィがスッと自身の髪飾りをその手に差し出すと、彼女の手は髪飾りごと叩き落とされた。


 アクァリィは叩かれた手をさすりながら、

「味方には弱体化デバフ、敵には強化バフ。悪の秘密結社イビルの次期総帥だというのに組織に仇なす行為。やはり最高にイカレてますねご主人様」


「悪にとっての悪は、正義だろ?」


 ワズンはここで言葉を一度区切ると、


「――これぞ正しい催眠魔法の使い方、というやつだ」


 そう言ってニチャァと笑った。


 アクァリィはその笑みを見て、ゾゾゾとその背中を震わせた。


 催眠魔法使いワズンの英雄への道のりはまだ始まったばかりだ。


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