(6)

「すぐ入れるんですか?」

「おお! もちろん! 菫ちゃん可愛いからサービスもしちゃうよ」

「じゃあ、行きます」

「よし! 菫ちゃん、一緒に行こ~!」


 お兄さんに肩を掴まれたまま、出発しようとした時。

 突然後ろから腕を掴まれた。


「なにしてんの、菫」


 私の鼓膜を揺らしたのは、聞いたことのない声。

 振り返るとそこには、明るい茶髪の男子が立っていた。


「え?」

「こいつ、俺の連れなんで。すいません」


 彼はお兄さんに一方的にそう言うと、私をお兄さんから引き剥がし、強引に腕を引く。


「え、ちょ……」


 彼はこちらを振り返りもせずぐんぐん進み、お兄さんから離れたところで立ち止まった。そして勢いよくこちらを振り返る。


「キャッチだから、あれ。ったく危ないな」


 鋭い忠告だった。

 続けて、彼の瞳がまっすぐに追及してくる。


「っていうか、菫じゃないよね」


 ……やっぱり。

 彼に菫だと偽ることはできないと、一目見た時からわかっていた。


 市村柊依いちむら とうい。それが彼の名だ。


 華やかで端正な顔立ちは、女子ウケがいい要素しかない。柔らかそうな髪の裾からは、きらりとピアスが光っている。細身で身長が高く、スタイルまで抜群なのだから、見るたび常に女子に囲まれている。

 チャラチャラへらへらとした軽い振る舞いで、世渡り上手。私が一番嫌いな人種だ。

 そして――菫と仲がいい。

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