第62話 桜と魔王様
とろけるような夜と朝を過ごした僕は、ライアに呼ばれて昼食をとるために広間へ向かった。ジスは珍しくまだ眠っている様子だったため、起こさずに僕だけ来た。広間には、乳母車が見えた。
「桜」
「あうー」
一夜離れたことで、桜が泣きじゃくったりしているのではと不安でいたが、ライアによると全く夜泣きもせずミルクもいっぱい飲んでぐっすり眠ったとのことだ。メビウスのことを気に入ったらしく、よくもふもふの毛並みを撫でているらしい。そういうところは僕に似ているのかな、なんて思ったりする。
「さあ、桜くん。どうぞ」
「きゃあう」
桜は両手をパンパンと叩いてはしゃいでいる。桜によだれかけをかけ、ライアが作ってくれたミルクを飲ませる。ごくごくと喉を鳴らして飲み干す姿に安堵する。食欲もあるようだし、睡眠もしっかり取れているみたいだ。
「さ。阿月様のメニューはこちらです」
「わ! すごい」
目の前にほかほかのお赤飯と生姜のスープ、キュウリの漬物、肉じゃがが並ぶ。桜の目はきゅるんとしていて、頑張って手を伸ばしているが、まだ大人のご飯はあげられない。
「桜くんは自分がお部屋に連れ帰りお腹の休憩をさせますので、阿月様はゆっくりとお食事をお楽しみください」
「ありがとう」
ライアの細やかな気遣いに感謝しながら、いただきますと手を合わせて肉じゃがを口に運ぶ。
んーっ! 甘くて美味しい。肉じゃがには豚肉のほうが好きだな……これ豚肉だあ。さすがライア。
生姜のスープも、ホッとこころが温まる味だ。お赤飯はもちもちで食べごたえがあるし、キュウリの漬物はインパクトになる。栄養たっぷりのライアの献立に舌鼓を打っていると、ジスが広間に入ってきた。
「おはよう。そなたはよく眠れたか」
ふぁわと、小さくあくびをしてジスが聞いてくる。
「うん。ぐっすりだよ。ジスもよく眠れた?」
その問にジスはやや考え込むような素振りを見せる。
「いや……夢の中で何かを吸っていた気がするが……甘くて美味しかった。あれは何だったのだろう」
ぎく、と僕の肩が微かに跳ねる。ジスは記憶力がいいんだ。
「まあよい。桜の様子はどうだ? 何か必要なものがあればライアに伝えれば全部用意する」
「ありがとう。今のところ、粉ミルクとおむつやお洋服はあるから大丈夫そう」
「わかった。今日はまた夜まで公務があってな……桜とは少しづつ距離を縮めていきたいと思っている」
柔らかな瞳のジスを見て、この人が子育てをしてくれるなら桜も良い子に育つんじゃないかなと思った。
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