第23話 天井の国を憂う者
ジスと互いの気持ちを伝えあってから1週間が過ぎ去ろうとしていた。その間、ジスは魔王としての公務で外出する日が多く、ゆっくりと話す時間はとれなくて僕は少し寂しさに包まれていた。
いつの日か、ジスに会えないときは大聖堂に出向き、椅子に腰かけてぼんやりとすることが増えた。ジスからの許可も得ているし、ライアが手の空いているときは話し相手になってくれた。
昼食を終えた僕は大聖堂へ向かう。そこにはいつものように先客がいた。
「魔王様。どうかあのフォリーヌ王国の暴政をお止めください。わたしの幼き息子を、故郷の村をお守りください」
チンチラのメビウスが大聖堂の中心で祈りを捧げていた。目を閉じて、小さな手を合わせ、静かに祈りを込めている。もう、メビウスは僕に意地悪なことをしなくなった。ライアによると、ジスによる躾が執行されたらしい。今ではちょうど良い距離感の知人といったふうで僕と関わってくれる。
「メビウス。フォリーヌ王国の暴政は、一体どのようなものなの? それと、なぜメビウスは魔王様の城に住み込みで働いているの?」
僕が質問しすぎてしまったからか、メビウスはうーんと困ったように眉を下げる。
普通にかわいいから、もふもふしたくなるんだよな……でもそんなこと言ったら、しっぽで叩かれそうだ。
「まずは、なぜわたしが魔王様の住むテルー城で働いているのか説明しないといけないな。よく聞くんだぞ」
おっほん、と一呼吸おいてからメビウスが語り始める。
「わたしはチンチラの獣人で、冥界にいるということはもう天上の国では死んでしまったということ。天上の国に未練があり、冥界の空で漂っていたところを魔王様に保護された。そうして、テルー城で住み込みで清掃の仕事と園芸の仕事を任されているのだ」
ぴょこんと伸びたお髭を指で整えながら、メビウスは悲しそうな表情を浮かべる。
「テルー城に大聖堂があることを発見してからは、毎日祈りを捧げている。わたしはフォリーヌ王国の領地内にある農民の娘でね。わたしが亡くなる前に、5歳の息子と暮らしていたんだ。ただ、わたしが流行病にかかって、息子をおいて死んでしまった。だから、毎日あの子の平穏を祈ってここへ来るんだ」
「そういった事情があったんだね。……あれ? 農民の娘ってことは、メビウスは女の人なの?」
「うん。女だよ。一児の母です」
「えっ。てっきり男の人かと思ってたよ」
「やはり失礼な奴だな」
「ごめんって……」
僕が肩をすくめるのを視界に入れて、メビウスは再び口を開く。
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