第15話 名も無き者たちの嘆き

 露天風呂に満足した阿月は、ライアにこんな質問をした。


「テルー城の中を探検してみたいんだ」


 ライアはいつも通り、ふふと柔らかな微笑を浮かべて


「良いですよ。ただ、残念ながら自分はこれから晩餐会の仕込みをしなければならなくて……おひとりでお城の探検になりますが、大丈夫ですか?」


 本当はライアが隣にいないのは心細いけど、わがままは言えない。


「うん。大丈夫! ぷらぷら探検してみるよ!」


 僕はつとめて明るく答える。


「はい。承知しました。では、いってらっしゃいませ」


 ライアが一礼をして廊下を渡っていった。僕はまず、1番上の階に登って、城内を散策し、広間のある1階に降りてみようと思った。


 初めに、50段近くある階段を登って1番上の階に来た。おそらく、ここは3階だろう。上を見上げると円錐状の煙突が空に向かって伸びている。まだ城の外観を目にしたことがないから、想像するのは難しいが、おそらく城の中で1番のっぽさんの部分なのだろうと思う。


 聞こえるのは僕の足音だけ。それと、階段に疲れて上がった息の音。


 ぷらぷら散策するとは言ったものの、勝手にドアを開けたりするのはマナー違反だと感じて、ほぼ廊下を散歩するだけになってしまった。3階には、いくつかドアの付いた部屋があったが、勝手に入るのは良くないと感じて立ち去った。2階に降りるために階段の壁に手をつきながら降りていると、壁にかかった大きな絵画が1枚、視界に入ってきた。


「……綺麗な人」


 それは、ジスの肖像画のようだった。腰の高さまである黒髪の長髪を後ろに流して、足を組んでいる姿勢。重厚な絵柄が彫られた玉座に腰掛けている。正直なところ、ジスは喋らなければ美しい天女のようにも見える容姿をしている。


 魔王様をイメージすると、怖い長老みたいな人物を想像しがちだったが、ジスに出会ってその想像は全くの虚構だったことに気づいた。


 階段を降り、2階に足を運ぶ。


「あ、ここは……」


 自分に与えられていた部屋だった。なぜ僕が気づけたのかというと、ライアがドアに目印を付けてくれたからだった。丸いリース状にまとめられた花束を、ドアの上部に飾ってくれたのだ。なんでも、ライアが選んだ花々らしい。感謝を述べたら少しはにかんでいたのも、ライアらしいなと思った。


 自分の部屋の前を通り過ぎると、微かな物音が聞こえた気がして、耳をすませる。自分の部屋よりも奥の部屋から聞こえてくるらしい。そろり、そろりと足音を忍ばせて向かうと、その物音は少しずつ大きくなっていく。朱色のカーテンで仕切られた一角に、こっそりと近づき中の様子をうかがう。カーテンを開き、中の様子を観察する。先程よりも、物音が大きくなった。徐々に近づいていくと、そこは広い大聖堂になっていることがわかった。大聖堂に並べられた長い木の席に、腰掛けてみる。

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