あやかしイケメンに憑かれて困っています

友宮 雲架

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 何故、このような事態になってしまったのか。


 私にはわけが分からない。


「にゃにゃにゃ、にゃーん。にゃにゃ?」


 猫撫で声で猫とじゃれ合う、20は過ぎてるキモいお兄さんと。


「にゃーん」


 うちの猫。


 うちの猫も遠慮なんかせずに目の前のお兄さん――楪葉ゆずりはきょうに猫パンチでも食らわせればいいのに。

 ウザいし、キモいし、ヤバいんだから。


 多分この人、自分を客観視するっていうスキル持ち合わせていないんだと思う。


「ただいま」も言わず、私は洗面所へと向かい、手洗いを済ませる。


 そして京のいるリビングに戻る。


「お、帰ってきてたのか。君の存在が空気と一体化し過ぎてて、気づかなかった」

「ここ、私の家なんですけど」

「そうだっけ? 和菓子屋じゃなかったっけ?」

「和菓子屋兼私の家、なんです!」

「…………」


 めんどくさくなったのか、身体をくるりと方向回転させ、京は背を向ける。


 いや、無理だわ。私、この人と同居とか無理だわ。自由人過ぎる。や、人でも無かったわ。これは皮肉でもなく、事実ね。


 楪葉京は狐のあやかしだ。

 狐に変化へんげする事も出来るらしいが、めんどくさいからしないらしい。一回くらい変化してもいいと思うのに、変化しない。だから私は京の狐姿を見たことがない。

 ホント、めんどくさがり屋さんなんだから。


 年上相手だから、敬語使ってるけど、もう辞めてしまいたくなるくらいだ。


「にゃにゃ、ん〜」


 シュール過ぎる光景しか見れないので、キッチンへ移動。うちの猫も京に懐いてるから、まあ許せはするけど……。

 でも、考えてみてよ。20過ぎの成人男性が自分が飼ってるわけでもない猫に対して、猫撫で声でじゃれ合ってるんだよ?

 キモくない? 京都在住の女子高生Kさんはドン引きしましたわ。


 ――キッチンに立ち、雑炊をかき混ぜたり、味噌汁をお椀によそったり等の調理をする。和菓子屋だからといって、夕食に和菓子が出てくる、なんてことはない。


「俺、トンカツがいいー」

「作りません! 自分で作って下さい!」


「俺、トンカツがいいー」


 今度は耳元で大音量で主張してきた。


「うるさい!」


 京の頬をビンタする。


「訴えちゃうよー。暴行罪で訴えちゃうよー」


 うっざ!


「それなら、楪葉さんも住居侵入罪で訴えますけど」

「幽霊って刑法で裁けるの?」

「……」


 こいつ、あやかしじゃなくて、幽霊だったか……。否、何が違うんだろ。あやかしと幽霊って。


 刑法で裁けないってたち悪いですね。


「トンカツは作れなかったけど、夕飯は作っておいたので……」

「サンキューベリーマッチョ」


 寒っ。ダジャレ……?


「えー、でもトンカツがいいー。でもありがとうー」


 精神年齢が2歳か。2歳ならまあ許そう。


 夕食中はとりま軽い雑談をして。食器は私が洗って。優雅なのんびりとした夜を過ごした。


 てか、よくよく考えてみると霊感の無い人が京の食事シーンを目撃したら、空中で食べ物が消えてる、みたいな笑える現象が見れるのかしら。


「――課題、手伝おっか?」


 不意に京がそんなことを言ってきた。


「そーいや、楪葉さんってうちの学校の生徒として認められているんですか?」

「認められてないよー? だって俺、入学も転校もしてないもん」

「じゃあ、何で私の隣の席にいるんですか」

「いたいから」


 そう――こいつは、空席な筈の私の隣の席に先週から居座っているのだ。だから、教室で京と喋っているのを友人に目撃されると気味悪がられる。だから極力、話さないように心がけているけど、彼は平然とうざ絡みしてくる。


 大人の彼に課題を手伝ってもらったら、いつもより15分くらい早く終わった。


 家にいる時も学校にいる時も帰り道もバイト中も京がいつも隣にいる。


 何故ここまできまとってくるのかは分からない。


 でも少し、ヒントになるような一言を京は言った。


「何でそんなに私に憑きまとってくるのですか?」

「それは君に跡を継いでもらう為だ」

「跡を継ぐ……?」

「そう。君もいつか幽霊になって誰かに憑かなければならない。そして、その憑いた人が君の後継者だ」

「はぁ?」

「まあ難しい話は後にしよう。そんなことより、君は俺のことをもっと知りたいんだろ?」

「そ、そんな、私に恋愛感情があるみたいな言い方しないで下さい」

「無いのか?」

「無いですっ!」

「冗談だ」

「……もう」


 頬を膨らませて拗ねる。


「じゃあ、俺が妖狐ようこになった理由わけでも話そうか」

「……!」

「それはだな……二年前、君が俺を殺したからだ。殺されたからあやかしとなって、君に取り憑いた」


 京を殺害した記憶なんて、微塵もない。そもそも、このあやかしのことを私は何も知らない。誰のことを言っているんだろう……? 、このあやかしは。


 でも確かに、間接的に私は京を


 あれは山で遭難した時のこと。

 道を尋ねられて、嘘を教えてしまったのだ。嘘といってもわざとじゃなく、間違えただけで――。でも結果的に間違った道に進んでしまった彼は空腹で死んでしまった。


 だけれど、その山、あやかしが棲む山らしくて。そして、狐に取り憑かれ、京は妖狐になった。

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