第15話 本来の目的

 拠点に入ると騒がしい。


「ソフィア、信じてくれ!」


 デイビットがソフィアにすがりついている。


「デイビット、人がビルからビルに飛び移って移動できるわけないでしょう」

「いや、マイケルはできるんだ! 本当だ!」


 ソフィアが信じられないのも分かる。

 普通、人間はビルからビルに飛び移って移動することはできない。


 マイケルと共に行動していたというデイビットはマイケルの移動手段を直に見ていたはず。人間離れした動きに目を剥いたのが想像できる。

 ……あ。飛行船で思い出せなかったのはデイビットだ。


「デイビットは拠点に戻っていたんだな」

「そう言えばそうだな」

「マイケルが置いて行ったんだよな?」

「ああ」


 一切悪気が無さそうなマイケル。

 まあ……緊急時だし良いんだろう。そう自分を納得させる。

 それよりもデイビットが言っていることが本当だと伝えた方が嬉しいかもしれない。

 自分がソフィアに話しかける。


「ソフィア」

「フカ、スクアーロ、マイケル来たのね」

「今来たところ。ところでソフィア、デイビットが言っていることは本当だよ」

「本当?」


 ソフィアが首を傾げる。


「マイケルはビルからビルに飛び移って、自分の前に空から降ってきた」

「降ってきた」

「衝撃だった」

「……でしょうね」


 ソフィアがすがりついているデイビットの方を見る。


「ごめんなさい、デイビット。まさか人がビルからビルに飛び移れるとは思わなかったの」


 デイビットは笑顔を浮かべて首を横にふる。


「いや、逆の立場だったら同じく信じられなかった。気にするな」


 デイビットとソフィアは仲良くマイケルを人外認定した。

 二人が落ち着いたところで報告する。


「流出したエレメンタルカートリッジ、五個全部回収できたよ」


 デイビットが首を傾げる。


「一人が振り回しているだけって聞いたが、全部持ってたのか?」


 まだデイビットにエレメンタルカートリッジが全て見つかったことの情報が来ていないようだ。


「エレメンタルカートリッジを振り回してた男が一組。男が出入りしていた場所に三組あった」

「出入りしていた場所がよくわかったな」

「学校でエレメンタルカートリッジを振り回したのは、以前に繁華街の路地裏で会ったガレオスの知り合いだった。出入りしていた場所をガレオスが知っていたんだ」


 エレメンタルカートリッジの捜索はガレオスのおかげで解決したと言ってもいい。


「ガレオスってやつも関わっているのか?」

「いや、ガレオスは逆恨みされていたようで、エレメンタルカートリッジで襲われた側」

「逆恨み?」

「記憶を読み取れなくする薬以外にも違法な薬物をやっていた可能性がある。薬と薬物の副作用が合わさっていたのか、まともじゃなかったよ」


 複雑骨折の痛みを無視して動ける様は完全に薬物中毒者だった。


「薬物の副作用で逆恨みとは運が悪い。ガレオスは生きているのか?」

「なんとか間に合ったよ」


 後少し遅ければナイフデバイスがガレオスを切り裂いていた。

 エレメンタルカートリッジのことを知っているとガレオスは言っていたが、知識が中途半端なのかもしれないな……。同じようにアクーラさんやサンオさんにも一度エレメンタルカートリッジについて詳しく話した方がいいのかもしれない。


「それでエレメンタルカートリッジがあった場所は?」

「貿易代行会社だった」

「貿易代行会社ね……」


 デイビットは納得がいかないような顔をしている。

 エレメンタルカートリッジが犯罪組織ではなく、貿易代行会社にあったのが納得いかないのだろうと予想する。

 断片的に話すのではなく、順を追って話していくことにする。




 自分の話が終わってもデイビットは納得がいかない様子。


「エレメンタルカートリッジ、記憶を読み取れなくする薬、違法な薬物……」

「デイビット?」

「もしかして他の国が絡んでいるのか?」

「他の国?」


 デイビットは腕を組んで考え込んでいる。


「貿易代行の会社が元々犯罪集団だった場合、輸出する先は国外になる。だが普通は違法品をそう簡単には輸出できない」


 広い宇宙はどこを通ってもいいように感じるが、意外なことに宇宙船が航行するルートは決まっている。小惑星帯を避ける必要があったり、広い宇宙で迷子にならないように道が整備されている。

 道は目に見えるようなものではないが、一定距離ごとに目印が設置されている。

 宇宙の道は国家が管理しているため、国を跨ぐ道の場合は国境となる宙域があり、航行する宇宙船は全てスキャンされる。


「エレメンタルカートリッジなら宇宙船に積んでいない方が不自然じゃ?」

「ああ。だが記憶を読み取れなくする薬はどうだ?」

「薬が国外から持ち込まれたってこと?」

「薬を作るには記憶を読み取って成功しているか確認する必要がある。だが記憶を読み取る装置の使用許可がある国内の組織は少ない。エレメンタル王国内で作るのは難しいだろう」


 仮に薬を作る場合、記憶を読み取る性質上、人体実験になる。

 記憶を読み取る機械はかなりの苦痛を与える装置だと知られており、エレメンタル王国では非人道的すぎて許可が出ないだろう。そもそも開発する理由が薄そうな薬でもある。


「だけど、どうやって輸入する?」

「正規ではない道を通って貿易しているのかもしれない」


 正規ではない道か。

 問題があって廃道になった道や、小型の宇宙船であれば問題なく走れる道はあったりする。道を整備して維持するのに莫大なお金がかかっているため、大型の宇宙船が航行できるような道でなければ採算が合わない。

 普通の人は危険が多い整備されていない道を使うことはない。

 逆に言えば犯罪者はリスクを承知で整備されていない道を使って国境を越える。


「ガレオスを襲った男は違法な薬物をやっていた可能性があるんだったな?」

「ああ」

「フカには意外かもしれないが、五区でも違法な薬物の流通は少ない」

「そうだったのか」


 五区でも薬物を手に入れるのが難しいのか。

 自分はそういう物に興味がないので全く知らなかった。


「デッカート子爵領は薬物に対して昔から厳しいんだ。それが三区で出回っているのはおかしい」

「エレメンタルカートリッジや記憶を読み取れなくする薬以外にも違法な薬物を密輸していたと?」

「むしろ違法な薬物が本命なんじゃないか?」


 元々は違法な薬物を運んでいた犯罪組織か。

 ガレオスを襲った男は学生だった。

 違法な薬物の流通量が少ないということは値段も相応に高いだろう。学生が買うには難しい値段だったはず。だが輸入している犯罪組織から直接買えるのであれば値段は安くなるだろう。

 もしかしたら買うだけではなく、別の場所で売っていたのかもしれない。

 貿易代行の会社として自分たちの手は汚さず人を使って薬物を売り捌く。


「表向きは普通の会社だが、実際は国際的な犯罪組織か」

「全て想像だがな」


 ギルドで運送の仕事を多く請け負っているデイビットは流通に詳しい。

 デイビットの予想は間違っていない気がする。


「可能性としてギルドに伝えておけばいいんじゃない?」

「それもそうだな」


 ギルドに報告するため、皆で情報を整理していく。


「ギルドもエレメンタルカートリッジとデバイス、五組が回収できたことを確認できた見たいよ」


 ギルドと連絡を取り合っていたソフィアが報告してくれる。


「それじゃ、この拠点は撤収?」

「いえ、倉庫になっていたビルを調べ終わるまでは拠点を維持してほしいと要請されたわ」

「デイビットの予想通りに、貿易代行会社の倉庫が違法薬物の拠点だとしたら時間がかかりそうだな」


 倉庫は四階までしかなかったが、なかなかの広さだった。

 どの程度の人員を出すのかわからないが、完全に調べ終わるのに数日はかかりそうだ。


「解決してゆっくり寝れると思ったんだがな……」

「拠点の維持を要請されただけなので交代で休めばいいわ」

「それはいい考えだ」


 拠点に一人か二人居れば十分。

 ゆっくり休めたら宇宙にも出たい。二週間以上宇宙に出ていない。

 休みの予定を考えていると、ソフィアがまだ伝えることがあると言う。


「フカたちが捕まえた人たちだけど、断片的に記憶があるみたいなの。上手く繋ぎ合わせれば情報を引き出せるかもしれない」

「そういえば会話が成立したな」


 薬の効きに差があるのか、飲んだ量が違うのか……。

 読み取った記憶を繋ぎ合わせて復元する軍と警察は大変そうだな。


「それと捕まえた人の身分は、貿易代行会社の社長、部下の管理職、不名誉除隊の元軍人ね。会社には社長と管理職の二人しか登録されていなかったみたい」


 身元までギルドに教えてくれたのか。


「二人? 最初に捕まえた人は?」

「会社とは表向き関係がないみたいね。記録に残る金銭の取引もない」

「それで貿易代行会社が見つからなかったのか……」


 ガレオスを襲った男と同じように違法な薬物に関係する人物だったのかもしれない。


「元軍人は?」

「エレメンタルカートリッジを流出させて不名誉除隊ね。こちらも記録に残る金銭の取引はなし」


 記録を残さないように徹底しているな。

 しかし、エレメンタルカートリッジを流出させて、よく不名誉除隊だけで済んだな。


「犯罪組織と元々繋がりがあったのかもしれないのか」

「ええ」


 ギルドはエレメンタルカートリッジについての前科には特に厳しい。

 エレメンタル王国のギルドはエレメンタルカートリッジが使える前提で運用されている。正規のギルド員になるということはエレメンタルカートリッジの使用許可を得られるということでもある。

 過去にエレメンタルカートリッジを流出させたよな人物がギルドに入れるわけがない。


「でもギルド員にならなかった理由がわかったよ。ならなかったではなく、成れなかったんだ」

「ええ。エレメンタル王国内でギルド員には成れないわね」


 エレメンタル王国出身の人物が他国のギルドに行くのもまた厳しい。

 エレメンタル王国のギルドではエレメンタルカートリッジが簡単に手に入れられるが、普通の国は軍が独占する物資であるため手に入れることは不可能。

 エレメンタルカートリッジを求めて他国のギルドからエレメンタル王国に所属を移す人が出るほどには貴重な物資。


 わざわざ所属国家を変えてまで、他国でギルド員になる理由がエレメンタル王国出身だとない。

 所属国家を変えた時点で何かあると言っているようなものだ。


「流出させたエレメンタルカートリッジは個人用?」

「そのようね」

「それで不名誉除隊で済んだのか」


 エレメンタルカートリッジには個人用、宇宙船用、工業用の三種類がある。

 工業用はギルド員や軍人が見るような物ではなく、巨大構造物にエネルギーを供給している。デッカートスペースコロニーにも工業用エレメンタルカートリッジが存在している。

 自分がよく見るのは個人用と宇宙船用のエレメンタルカートリッジ。


 宇宙船用のエレメンタルカートリッジは特に扱いに注意する必要がある。

 流出させたのが宇宙船用のエレメンタルカートリッジだった場合、軍法会議によって相当重い罪がかせられる。


「しかし、個人用を密輸してどうするつもりだったんだろうか?」


 宇宙船用は出力が大きく使い道が多い。

 しかし、個人用は出力がそこまでなく、使い道が限られてくる。

 テロ行為や犯罪組織の武器としてなら役に立つが、苦労して密輸するほどのものかと言われると……。


「コレクターとかかしらね?」

「コレクター?」

「国外だと意外にいるわね。デバイスだけでも売ってくれって言われるわ」


 武器としては銃の方が主流。

 確かに刃物として使用することの多いエレメンタルカートリッジのデバイスは珍しいかもしれない。


「でもデバイスだけでは意味がないんじゃ?」

「飾るらしいわよ」

「飾るだけでいいなら、本物である必要ないのでは?」

「実用品がいいらしいわよ」

「飾るだけなのに?」

「ええ」


 コレクターの心理はよくわからない。

 デバイスで考えるから理解できないのかもしれない。宇宙船で考えれば飾っておくのも悪くはない。なるほど、少しわかってきた。

 話と考えが関係ない方向に進んでしまっている気がする。


「そういえば、フカ」

「何?」

「まだ昼前だけど、学校はいいの?」

「あー……」


 学校に戻ればまだ授業を受けられる。

 そもそもエレメンタルカートリッジを持った襲撃者が来たのだ、授業をやっていない気がする。

 それと学校で色々とやらかしてしまったため、戻りにくい。

 早く解決しすぎるというのも問題だな……。


「今から戻っても気まずいから戻らなくていいかな」

「フカがそういうのならいいけれど……」


 ソフィアが何か含みのある言い方をする。


「いいけれど?」

「ミヤルを見ていないけれど、どこにいるの?」

「あ!」


 自分と同じように叫んだスクアーロと顔を見合わせる。

 完全にミヤルのことを忘れていた!


 教室から飛び降りる前、自分が大声でスクアーロとミヤルに指示を出した。

 当然ミヤルも関係者だと思われているだろう。

 ミヤルが学校への対応を一人でしていると思われる。学校への対応が終わったところで、クラスメイトからの質問を浴びせられているだろう。


 自分とスクアーロが学校に戻れるのに、拠点でのんびり待っていたとミヤルが知ったら絶対に怒る。

 普段あまり怒らないミヤルが怒ると本当に怖い。


「スクアーロ、学校に戻ろう」

「ああ、ミヤルは怒らせたら怖い。戻ろう」


 車を呼んで自分とスクアーロは慌てて学校へと戻る。

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