サハス↔︎ラーラ 絆つくるもの
ただのネコ
シーン1:ムーラ、襲来
『ムーラ、出ました!』
偵察機からの報告通り、波打ち際の黒い泥の塊がもぞりと動きはじめる。
初めはただ塊のまま。だがすぐに2本の足が生えて歩き始め、次の一歩で腕が生えた。頭が膨らみ、腕の先に刃物ができる。
おおむねナタで武装した人間、に見えなくもない。全長5mもあるし、細部は作られていないので顔はまるでのっぺらぼうだが。
これがムーラ。
大きさも武装していることも問題だが、一番大きな問題は、海にひたった足元から、黒煙が上がっていること。
ムーラがこの星そのものを侵食している、のだそうだ。海でも地面でも建物でも、触れているものはゆっくり侵食され、黒い泥に変わってムーラに取り込まれていく。泥が増えるほどムーラは大きく、強くなる。だから、早期発見&早期討伐が必須なのだ。
『人型3体、やや小型、武装あり!』
『2号機前進! 白兵戦で人型ムーラを撃破せよ』
「2号機、前進!」
メインパイロットのリンちゃんが司令部からの命令を復唱し、ボクの視界が揺れる。外から見れば、白い巨人が波しぶきを立てながら黒いムーラたちに駆け寄るのが見えたはずだ。
この白い巨人こそ、この星を守る人類の刃、サハスラーラ。ボクらが乗って戦うロボットだ。のっぺらぼうなムーラとは違い、こちらは大理石の彫像ぐらいには細部が作り込まれている。今回のムーラより少し高い、8m弱の身長。長い髪をポニーテールにし、剣道着を着た少女風の外観で、腰に日本刀を差している。
ムーラの方も黙って見ているわけではない。数の利を活かそうと、囲むように動きだす。
『1号機は適宜援護を。囲まれないよう気をつけてあげて』
『はぁい。じゃあ、1体減らしときましょ』
そう通信が入るやいなや、3発の光弾が僕らを追い抜いてムーラの1体を撃ち抜く。頭、胸、腹を同時に貫かれたそのムーラは、ぐずぐずに潰れて動かなくなった。左右に広がろうとしていた2体のムーラたちは、さらなる銃弾を警戒して動きが止まる。
「いくよ、コウ」
「う、うん」
リンちゃんがボクの名を呼ぶ。でも、いくよ、と言われても、正直困るのだ。
リンちゃんが乗ってるのが対ムーラ用人型兵器ラーラの2号機。いわゆる、巨大人型ロボットだ。
一方、ボク、
「秘伝、一の太刀!」
「はぁぁぁぁ!」
リンちゃんが刀を振るのに合わせ、精一杯叫んでおく。ボクが乗る
『出力5%、これまでと変化ありません』
司令部からの非情な一言。ボクの気持ちは萎えるけど、リンちゃんは気にしていない風に刀を振り切る。刀身はムーラの腰から左肩へと駆け上がるように通り抜け、返り血の代わりに黒い泥が飛び散る。
「胸には無かったか!」
返り泥を避けつつ、悔し気にいうリンちゃん。
黒い泥で出来ているムーラは、身体のどこかにあるムーラコアを壊さない限りほぼノーダメージ。
今切ったムーラも、一時的に形が崩れただけですぐに元の形に戻っていく。
もう一体のムーラがナタを振って切りかかってくる。
リンちゃんは、ラーラの左腕でそのナタを打ち払った。
「リンちゃん!」
「大丈夫だ。ゴフェルの木までは届いてない」
ラーラの左腕から白い泥が飛び散る。
サハスとラーラは、ゴフェルという木で作った骨組みの上に白い泥をかぶせて形を作っている。ゴフェルの木が無事なら泥は自然と変形して治っていくから、軽傷だと言われればその通りなんだけど。
「コウは光の維持に集中してくれ。じゃないとムーラを倒せない」
光をまとったサハスの一撃だけがムーラコアを破壊できる。だから、サハスパイロットのボクがちゃんとしないと。
ボクが消えかけていた光を出しなおすと同時に、リンちゃんは治りかけの方のムーラの頭に突きを入れる。切先は呆気なくムーラの頭を貫くが動きは止まらない。でも、刀身が少し硬いものを擦った感触があった。
コアだ!
「カスった!」
「よし、もう一回」
「待って、切られる!」
コアの位置がバレたからか、ムーラは再生を中途半端にしたまま激しくナタを振り回す。
もう一体のムーラも、側面からもう一度切りかかってくる。
それでも無理矢理攻めようとするリンちゃん。
そこで、視界の端を再び光弾が横切った。1号機からの射撃だ。
今度の弾は最初のより大きく、無傷だったムーラの頭を丸ごと削り取る。コアを失ったムーラは、ボクらに向かってナタを振る寸前の姿勢のまま倒れて溶けていく。
『落ち着きなさい、リン。無駄な損耗は避けて』
「リンちゃん、あと1体だから、慎重に行こう」
司令部とボクの両方からの説得で、リンちゃんはようやく少し退いてくれた。焦るのは分かるけど、ゴフェルの木にまで傷が入るとパイロットにも痛みが伝わる。ボクとしては、ムーラを倒すよりもそっちの方が嫌だ。
『2号機。まずサハスであのナタを壊しなさい。再生の隙に、頭のコアを破壊。いいわね?』
「「了解!」」
司令部からの命令をうけ、リンちゃんは少しだけ間合いを詰める。
ムーラがナタを振るのに合わせて
それを浴びるのもかまわず、リンちゃんは
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