11 不思議な気持ち

剣を止めてくれたのはヒュードだった。


普通の人間相手なら ” 優しい!ツンデレ!!? ” な〜んて思う所だが、ヒュードは正真正銘のクズ野郎であるため、それはない。



これから使う……??


俺みたいに雑用として……???



何となく嫌な予感がしたが、ここでバカ正直に聞くわけにも行かずに黙っていると、ヒュードは、サンを見てニヤッと笑った。



「 とりあえず明後日の依頼までに全員頭冷やせ。


仕方ねぇから、娼館代を2日分経費で出してやっからよ。


──────分かったな? 」



「 ──────っ!!わ、わかりやした……。 」



最後は脅すような言い方をしたため、剣を振り下ろそうとしたメンバーは、ビビりながら剣を鞘に収める。


そうしてゾロゾロと出ていくメンバー達に向かい、俺は全力土下座!


更にボンヤリしてしまっているサンの頭も床につけて無理やり土下座させ、完全に誰もいなくなるまで動かずにジッ……としていた。



「 ……行ったか……。 」



完全に人の気配が消えた事を確認しながら、ソロっ……と顔を上げると、ほぼ手つかずの料理はテーブルに置いてあり、あの剣を振って来たヤツがサンにぶち撒けた料理だけは床に散らばっている状態だ。



それを見渡し、俺は──────ニタ〜……と満面の笑みを浮かべた。



「 よっしゃ────────────!!!!今夜はご馳走食べ放題じゃねぇか!!


しかも2日も帰ってこないとか天国かっ!!


ラッキーラッキー!! 」



俺は直ぐに床に散らばった料理をサッサッ!と、拾いながらもぐもぐ食べていると、サンが土下座したポーズのまま動かない事に気づく。



「 ???お、おい、どうした??


────ハッ!ま、まさか怪我でもしたのか!? 」



落ちていたエビフライを片手に、直ぐにサンに駆け寄ると────サンは大きく震え、ゆっくりと顔を上げたのだが、顔が信じられない程真っ赤になっていた。



肌色の部分が全部赤い……。



見事な染色っぷりにマジマジと見つめてしまったが、どうやら土下座したのが恥ずかしくて仕方がなかった様だ。


俺はそれに気づくと、ハァ〜!!と大きなため息をついた。



「 全く、奴隷のくせに土下座が恥ずかしいなんて……。


それじゃあ、これからどうやって奴隷生活をしていくんだか。


土下座は挨拶!そして便利な道具だ!


それを上手く使いこなせる様にならないと、下っ端は生きていけないぞ。分かったな! 」



「 ……えっ!!い、いや……そ、そうじゃなくて……。 」



オロオロと動揺するサンに、しっ!!と黙れのジェスチャー。


慌てて口を閉じたサンだったが、チラチラと視線だけはうるさい。


そのため、俺はサンの口にエビフライを突っ込み、料理の回収に戻った。



最高級の材料を使った渾身の出来の料理達!


しかも作りたてなので、凄く美味しいはず!


ウキウキしながら日持ちしそうなモノを丁寧に皿に詰めては、サンと一緒に俺の部屋……物置へと運び、日持ちがあまりしないものは今日と明日の朝に食べる事に。


そのためサンとメンバー達が座っていた場所に座り、そのまま頂く事にする。



「 くぅ〜!!ブチギレたヤツ本当にありがとうございました!!


いただきます! 」



「 ……い、いただきます……。 」



サンは俺の真似をして挨拶をし、そのまま目の前のお肉の塊に齧り付くと、そのまま顔を大きく歪め、「 んんん〜〜……!! 」と耐える様な声を出した。



サンが齧りついたのは、ガーリックと塩胡椒で味付けした豚型モンスターのお肉。


これがトロトロで、シンプルな味付けとよく合う!


俺も同じ様に齧り付き、「 んんん〜!! 」と耐える様な声を漏らした。



そのままガツガツと食べていると、サンは俺の方をチラチラと見てくるので「 なんだ? 」と質問しても、赤くなって首を振るだけ。


なんだか良く分からなかったが、視線の感じ的に悪いモノではなかったし、なんだか自分の中に湧き上がる不思議な気持ちに一杯になっていたので、そこまで頭が回らなかった。



なんか……いいな!



料理が美味しい。


腹いっぱい食える。



多分それが ” 良い ” のだと言い聞かせる様に心の中で言ったが、何となくそれだけがその不思議な気持ちの正体ではないのは分かっていて……。


でもそれを認めると、今まで生きてきた世界が変わってしまいそうで怖くて、卑怯な俺はその想いに蓋をする。



そうして腹一杯食べた俺は、その場でウトウトしてしまい、そのままコックリコックリとしてしまったが、その間にサンが後片付けをしてくれたらしい。


カチャカチャ……という音を子守唄代わりにしながら、その場でグースカグースカ寝てしまったので、サンがボソッと呟く声は耳の中へと入ってくる事はなかった。




「 …………あ…………とう。


……しい……。おやす……世……で一……麗………。 」



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