十二夜の物語

K-cabos

本編

1.



「特にワクワク感はない」そう思いながら靴紐を結んだ。行くしか無い、今日から高校生なのだから。中学と違って知らない人に会うとなると少しは気が楽だ。穂はため息をつきながら家を出る。この制服も煩わしい。ビシッと着て、気持ちが悪い。これが学校に何人もいるかと思うとさらに嫌になる。学校にはいい思い出は無い。勉強に部活、宿題にテスト、受験、友達。いい事なんてない。そしてあの嫌な記憶も。

いろんな感情が再び蘇る。夢なら覚めて欲しい。

そんな事を考えながら学校に向かう。今は春、出会いと桜が舞う新しく、時に悲しい出来事に過ぎない季節──────────


みんなはあの校内にある学校掲示板を見る。そこには誰がどのクラスで、誰が一緒なのか、担任は誰なのか、それが分かる。穂は何も見ず、わかっているかのように教室に入る。そこは2階1-Bだ。教室にはすでに2人いる。錦菫と、小野紫乃。2人はまだ友達ではなく、今日が初顔合わせだ。

穂は窓際が好きで、窓際に座ろうと考えていた。だが、それをやめて扉から近い1番後ろの席に決めた。これには訳がある。少しして何人か教室にやってくる。ここでイベント発生だ。それは声を掛けられると言うこと。そいつは岩倉圭冴。いつもテンションが高く、テンションの低い穂とは正反対の男だ。なぜ話しかけられたかと言うと、同じ小中学校だったからだ。これは予想外の出来事だ。この学校を選んだ理由は家から離れている事、小中から離れている事。歩いたら45分はかかる。もちろん、それまで来るまで高校は3校ほどある。丸利高校、芳野高校、一ツ杁高校。家からも近くて、10分~20分圏内だ。そもそも枇杷ノ高校を選んだのは遠いからだ。今まで付き合ってきた友達と会いたくなくて此処を選んだ。他の人は近い高校を入学した。

一応すべて考えた上で入学した訳なのだが、1人例外がある。それがあのテンションMAXの男『岩倉圭冴』。窓際に座ると100%話しかけられる。敢えて違う場所にした。なぜなら奴は窓際に座るからだ。

一通り人数が集まり、席が埋まる。総勢、31名だ。先生は男性だ。ホームルームが始まり、先生が来た。ところが、穂は驚いた。立ち上がり、驚きを隠せない。


どうしたの? ごめんなさいね、あなたのお名前は?


いや大丈夫です。樋口穂です。


そう、樋口君ね。大丈夫ならいいけど何かあったの?


いや本当に大丈夫です。


ならホームルーム始めるから座ってくれるかしら?


分かりました。すみません。


穂は座ると、よく考える。「どういう事だ? 担任は飛谷尚生、おじいちゃん先生のはすだ」。何かがおかしい。


来たのは女性で、名前は津田叶和子という新任の教師だ。穂は肘をついて堕落な姿勢で、よく分からない事に対して不思議に考えていた。

あっという間にホームルームは終わる。

すぐに話しかけて来たのは、圭冴だ。場所を変えたというのに無駄だったと言うのか。ため息つきながら話す。


やっぱ樋口だよな?


そうだよ、岩倉圭冴。


なんでフルネーム呼び? てかいて良かった! 誰も知り合いいないのかと思った!


そうだな。俺は1人が良かったけどな。


相変わらずクールキャラだね。まあいいや、これからも宜しく!


圭冴は握手を求めた。昔こんなベタなアニメキャラがいた。手からはどことなく黄色いオーラを発しているように見える。


おれは握手は苦手だ。


穂は冷たくした。圭冴はそれでもめげない。奴はそう言う人間だ。


いいじゃないか、1回ぐらい!


圭冴は手を差し伸べ、無理やり穂と勝手に握手をした。


はいはい。元気な奴だ。


これも予想外の事、場所を変えればと思ったが話しかけられる運命だろう。

1番気になるのは担任の先生だ。飛谷先生ではなく津田先生で、しかも女性だ。これには不思議でしょうがない。一つ考えられるのは『アレ』だろう。


そしてまた高校生活が始まる。



2.


国語の授業で、少しだけ学校の歴史に触れる機会がある。この高校には毎年冬に十二夜祭というものがある。


家でゴロゴロしていると、親に話しかけられる。それが分かっていて、最近部屋にこもっている。ところが親たちはやってくる。内容はいつも同じだ。「部活は何にしたの? 学校はどうか? 成績は? ご飯は? お風呂は? 将来は?」 これだけだ。兄弟はいないので、1人だ。いつもこの内容で、正直辛い。親はなんでいつもこんな感じなのだろうか、考えたところで分からない。

部活には入らない、いい事なんて一つもない。変えたい気持ちはあるが、めんどいが勝つ。


学校が始まって、1ヶ月。穂は浮かない顔をしている。津田先生について考える日が増えた。今日昼休みに聞こうかと考える。ところが、邪魔が入る。


穂! 屋上いかない? 昼休み。


何でだよ、屋上で食べたいのか? 悪いけど今日は無理だ。


圭冴は屋上に行きたいと誘ってきた。この男はあれからほぼ毎日誘ってくる。友達が居ないのかと思うほどだ。だが、実際はクラスの子達とは仲がいい。男女問わず話すし、遊ぶ。そして意外と良い奴。


なにかあるの?


いやちょっとな。調べることがある。


おっ! 探偵みたいだね! 俺も手伝うよ。


え? 手伝うって? な、なにを?


その調べ物だよ! 何を調べるんだい?


えーと、それは大丈夫だ。調べ物と言っても、人に聞くだけだから。


それなら放課後でもいいじゃん。


まあたしかに。


じゃあ昼休みは屋上ね!


まったく 分かったよ。


穂は痛いところをつかれて腑に落ちる。話を聞くのは放課後にした。たしかに放課後でも聞けない事はない。お腹も空いたので、穂と圭冴は弁当を食べることにした。


その放課後、穂は先生の元へ向かう。何かを感じたのか、津田先生は穂が話しかける前に気が付いて振り返る。


あら、どうしたの? 樋口君。


先生はなんでこの学校に?


え? 家から近いし、教師になりたかったから、母校だし。


なるほど。何か隠してることは?


少しピクっと肩を揺らす津田先生。


特にないよ、さあもう遅いから帰ろうか。あ、そうだ! あなた部活は入ってる?


いえ入ってません。


よかったらTN歴史部に入らない?


マジすか? またか。


またか? どういう意味?


何も無いです。まあどうせ暇なんでいいですよ。無理のない程度に。


無理のない程度に? さっきから何を言っているの?


意味はないです。


そう わかった。ならまた月曜日からお願いね。


分かりました。


結局、もやもやしたまま話は終わり、部活に入ることになってしまった。



3.



穂は死んだ。それは紛れも無い経験だ。死んだと言うが、事実とは異なり、臨死体験という「死」だ。穂は17歳の春に体験をしている。目を覚ました時には16歳、つまり高校1年生に戻っていた。理由はわからない、穂は冷静に考えたが答えは見つからない。そして現在、6月。入学して2ヶ月が過ぎた頃、穂は部活に入った。

もう暖かい。もうすぐ夏で、着々と十二夜祭に向かっている。

穂があの体験をする前、担任は飛谷という人間だったが、おそらく目覚めた際に変わってしまった可能性がある。にしてもなぜ女性である津田先生なのだろうか、変わりすぎにもほどがある。体験をした後、未来が少し見える様な気分だ。見えると言うよりかは覚えていると言った方がしっくりくる。16歳の記憶だ。


今日は部室に行く。頼まれた事がある。部員を集めないといけない。この部活は穂1人だけなのだ、来月までに最低2人は入れないと廃部となる。最初は断ったが、あの困った表情に「お願い!」と言われると断れない。凄く悲しい気持ちになる。

穂は知り合いに聞く。


という訳で部員を探している、圭冴どうだ? TN歴史部に入らないか?


いいよ!


あっさりだな。


だってTN歴史部って有名じゃないか、演劇部と関わりもあって楽しそうだ。


楽しがるな、俺は苦で仕方ない。TN歴史部はそんなに有名なのか?


そりゃ! もちろん! この学校は37年の歴史がある。その歴史を調べ、追求する。そして、演劇部との毎年恒例のイベント。


そうだったな、そういえば。じゃあこの紙に書いてくれ先生に渡すから。今日から君も部員だ。これであと最低1人か、気が遠くなる。


扉越しに1人誰がいた。影が見えたが、本当にいたかどうかはわからない。穂は勘違いだと思ったが、この話が広まって欲しいと考えていた。教室内で、しかも開いている扉近くで話せば、少しは耳にするだろう。掲示板だとか誰かに話しかけるとかそれは論外だ。


又してもため息をつく穂だ。


その3日後に、女性が部室を訪れた。透明感があり、落ち着いた人で優等生だろう。

なにかありそうだ。なぜなら穂はこの女性に身に覚えがないからだ。これは7月の事だ。



4.


夏が終わる9月、もうすぐ文化祭だ。未だに新しく入った女性は未知数だ。あまり自分から話をするタイプではない。穂もそうだ。だが、ここで架け橋となるのは圭冴だ。誰にでも絡むし、社交的だ。あの新メンバーの⁡巳波冬華でさえ、少しは話をする。分かっているのは、あの時1-Bの教室を通りかかった際に部活の存在を知り、入部に至ったそうだ。まさかここで圭冴を讃える日が来るとは思ってもなかった。

津田先生についても謎だ。この巳波も謎、前にこの女性はいない。

深まるばかりだ、これも未来が変わったのか。

文化祭は10月22日だ。いまから1ヶ月と2週間後になる。皆お待ちかねだ、学校生活で何が1番の楽しみかは文化祭と誰もが答えるだろう。授業がなく、服装も自由で、遊び放題だ。2日間ある。

1-Bは話し合ったところ、カフェにする。

ドリンクはカフェオレ、オレンジジュース、メロンソーダ。ただ、これだけではつまらないのでゲームを追加した。双六だ。

簡単な双六を楽しみながらドリンクを飲むカフェ、言わばコンセプトカフェみたいなものだ。当たり前だがお酒は出さない。


そんなこんなで文化祭の準備をする。圭冴は同じクラスなのでカフェを一緒に手伝う。巳波は1-Dで隣の隣のクラスだ。聞くところ、ダーツゲームとボウリングゲームの2つをするそうだ。そちらのほうが楽しそうに感じる。穂は双六に興味はないが、ダーツには興味がある。ダーツをした事はないが、1度でもいいからしてみたい、文化祭になったら1-Dを訪れる事にした。


部活に入っている人はその文化祭準備がある。TN歴史部は廃部を免れ、文化祭の出し物として枇杷ノ高校歴史パンフレットを作ることにした。これは先生にも頼まれている。普通は新聞部とやらがやる仕事だが、この高校には新聞部はない。先生たちは手がいっぱいなので、TN歴史部がパンフレットを作る。これがまためんどくさい、このパンフレットは通常のパンフレットよりも枚数が多く、学校案内含め、学校の歴史や十二夜祭の事や歴代の校長、先生の紹介、部活の紹介、出し物をしているクラスなどを書かないといけない。これは骨が折れる。3人で期日までに作れるかが心配だ。作業が得意な圭冴と比較的無口な巳波に任せる。「調べ物と校正で十分だろう」と考えていた。


時間が過ぎるとともに明るみになる謎。あれから2週間過ぎで、文化祭まで3週間後に差し掛かった。そこに不思議に思っていた津田先生について詳しく知る。

ある時の放課後だった、保健室前で保健師と話をしている。内容はあまり聞き取れなかったが、知る機会として盗み聞きをした。内容はこうだ。まず女性保健師から話をしている。


━━━━━━━━━━━━━━━


「高橋先生はお元気? 津田先生」


「まあ、なんとか。でももう…… 近いみたいで」


「そうなの? 可哀想に。 どうにかならないのかしら」


「治療はしてます。 医者からは目が覚める可能性は低いと」


「そうですか…… まさかあんな事が起きるなんて、 運が悪いと言い方良くないけど、 運が悪いとしか…… 」


「大丈夫です、そんなに気を使わないで野口さん」


「でも本当に今後目覚めて、 体が良くなると良いわね。 私も会いたい、 元気になった高橋先生に」


「私もよ、 ところであの話誰にもしてない? 」


「してないわよ、 どうせ信じる人もいない。 あなたが ×××× と」


「そうね、 このまま秘密ね」



━━━━━━━━━━━━━━━


途中の会話と最後の会話は聴こえなかった。高橋先生とは誰のことなのか、話もよく理解が出来ない。最後はなんて言っていたのか、保健室と距離があったので、最後まで聴こえなかった。やはり何か隠している。



5.



文化祭のパンフレットを作っていて、調べて分かったことがある。それはこのTN歴史部の創始者が「高橋源時」という人物ということだ。


高橋げんとき?


違うよそれは高橋げんじだよ、穂。


え、これでげんじと読むのか? 難しいな。有名な人か?


知らないのかい? 津田先生の母方の祖父だよ。


え? いまなんて?


津田先生の母方の祖父。


たしかに今、圭冴はそう言った。これには耳を疑った。


じゃあこの人が津田先生の? しかもこの部活の創始者?


そうだよ、知らなかった? 割と有名な話だと思ってたんだけどね。


圭冴、詳しく教えてくれ。


いいよ。この高橋先生はこの部活を作った人。この学校には十二夜祭があるだろう?

これは44年前、枇杷ノ高校ではなく、琵琶第二高校と呼ばれていた時代に遡る。

この時、両校長は経営難を抱えていて、合併を考えていた。子どもの数も思ったほどいない。そこから1年後、十二夜祭とよばれるイベントが出来た。その十二夜祭を考えたのが当時国語教師、26歳だった高橋源時先生。


十二夜祭は高橋先生が作ったのか? 理由は?


慌てるな、ここからが重要だ。この学校の歴史を見る限り、高橋先生は経営難を救おうと考えた。それにはまず子どもの数を増やさないといけない。それがこの十二夜祭、演劇を通して子どもに教えたんだ。「この学校を救うのはお前たちだ」とね。


それで?


高橋先生はシェイクスピアの十二夜を演じさせることで結束力を身につけさせた。十二夜のテーマは「愛のかたち」。シェイクスピアの中で最も切なく、美しく都会的物語と言われている。演劇させることで学校への愛を伝えたんじゃないかな。それが冬の12月25日クリスマスの出来事、それが広まり、十二夜祭というものが出来た。


でもこの学校は「枇杷ノ高校」だ、あれからなにかあったのか?


そう、演劇は上手くいった。ところが上の命令には抗えなかったんだ。実際十二夜祭を始めて2年、入学者は3倍になった。でも上の決定事項に、権力がない高橋先生では力がなかったんだ。その時、これを伝統に、守るためにこのTN歴史を作った。おそらくこの俺の解釈は合ってると思う。高橋先生はもう学校にはいないから、聞けなし。


そうか、ありがとう。全てが分かった。お前にしては博識だな、意外な一面だ。見直したよ。


それはどうも。


現実とは儚いものだ、いくら頑張っても力が無ければなにも出来ない。当時の高橋先生は何を想っていたのだろうか、本人しかわからない。そして、もう1つ確信した事がある、「アレ」についてだ。それは何れ、津田先生とは話さないと行けない日が来る。



6.



10月23日、文化祭。ついにこの日が来た。パンフレットは間に合い、最高の出来となった。これは無料のパンフレットだ。カフェを手伝いながら、部室を行き来する。結構苦労する。とは言え、クラス31人もいるので1人居なくても回るだろう。イスとテーブルを用意して、パンフレットが欲しい人に配る。外での仕事だ、なくなったら部室まで取りに行かないといけない。それが今回のキツイところだ。今日は午前中、⁡巳波と2人きりだ。途中で話をする。


ねえ、あなたはなんでこの部活に入ったの?


成り行きだ。別に好きで入った訳じゃない。


じゃあなんであんなに必死にパンフレットを作ったの? 随分一生懸命だったわよ。


それは言えない。


なぜ? 隠し事? 仲間に。


仲間? まさか君からそんな言葉出るとわね。意外だな。君はなんで入った? 仲間と言うなら理由を教えてくれ。そしたら俺も出来るだけ善処しよう。


善処ね。いいよ。私のお父さんは昔この部活に入って居たのよ。


父が? いつだ?


随分前よ、お父さんは高橋先生の教え子で恩人だと感じていた。最近この部活が廃部寸前と聞いた時、父は悲しくしていた。そんな顔見たくないって思ったのよ。それはあなたの話を聞くまでわね。私が入れば廃部が免れる。 だから入ったのよ。それに楽だし、この部活。


お前はこの部活について何処までしっている? 演劇の件は?


あー その事ね、それは確かに苦労するわね。でもしょうがない、やるしかないのよ。


俺はめんどいと感じる。


そうだろうね。はい、次は私よ。あなたの目的は?


はぁ、ついに話す時が来たか。俺は既に死んでいる。


は? なにいってんの?


当然の反応だ。とりあえず、この話保留にしていいか? 何れ話す。


それは圭冴とも話したいってこと?


そういう事だ。


なら仕方ないわね。


こうして時が過ぎて行った。1日目が終わり、順調だ。2日の最終日は穂は動いた。

昼休みに3人は部室に集まっていた。


少しして話を切り出す。


2人とも話をいいか?


どうしたの? 穂。


昨日⁡巳波と話をした。その時の続きをする。俺の事を話すよ。


何のことだい?


昨日、私と2人の時お互いの部活の目的を話したのよ。


なるほどね。じゃあどうぞ。


結論から言うと、俺は既に死んでいる。


は? なにいってんの? 穂。


昨日私もそう思った。理由は?


未来、17歳の10月24日俺は死んでいる。説明すると臨死体験というやつだ。理由は思い出せない、たしかバスの事故だっと思う。体験した後、目覚めたら16歳の春に戻っていた。


臨死体験か、特殊能力ってこと?


分からん、俺も未だに理解が出来てない。辛うじてそういう事かとなっているだけだ。その時の話をする。この部活に入ったとき津田先生と⁡巳波はいなかったんだ。


いなかった? どういうこと?


つまり俺が目覚めて未来と過去が変わったという解釈になるだろう。その辺は自分でも分からないんだ。担任は飛谷先生だった。ところが変わって津田先生。正直びっくりしたよ。


なるほどね。


また高校生活をやり直すのなら別の行動を取りたいと考えたが、どうやら運命らしいな。俺がお前たちと部活を共にするのは。

本当は入る気はなかったんだ。


それは良かった。


この話を聞いて2人はどう思う?


どうって言われてもな? ねえ⁡巳波ちゃん。


そうね、本当かどうかは置いておいて変わって良かったわね。だって、私達と会うことはなかったんだから、それは感謝じゃない?


どうするか、お前らが決めろ。


決めろって? 何をさ? 退部とか? 別にそんなのいいだろ。


そうね、さっきも言ったけど嬉しいことでしょ。そこはありがとうよ臨死体験してくれて。


なにも思わないのか? 嘘を言ってるかも知れないぞ? そんな非現実的な事がある訳がない、こんな自分の事しか考えないような俺だぞ。


それが穂だろ? 少し肩の力抜けよ。穂は嘘なんて言わないよ、それは⁡巳波ちゃんも気づいてる。君は当初僕に会いたくなかったと言ったね。理由はわかるよ、小中と見てきたから。今まで信用して来なかった君が僕たちを信じた。それだけの事だろ。


それを圭冴から言われて、なに弾けとぶ穂。「そうか、これで良かったのか。」そう心に納めた。


全くお前らは。


恥ずかしがる穂をみて、安心した2人は話題を変えた。この2人がメンバーで良かった。この日、もう1つ考えていた事がある。


よし、俺は津田先生の所に行ってくる。


穂が部室を出ようとした時、2人は「行ってらっしゃい」と送り出した。穂は言われなれてないのか照れながら「行ってきます」そう言う。


保健室の前で津田先生を見つけた。


「先生今いいですか?」これに足を止める津田先生。


場所を移して、裏の美術室前で話した。


先生に聞きたいことがある。あなたについて、そして高橋先生についてです。


どうしてそれを?


すみませんたまたま通りかかった時、野口先生との会話聞きました。


そう。聞かれてたのか。


誰にも話してません。それに会話はよく聞こえてなかったです。聞こえたのは高橋先生が入院しているということだけ。そこで聞きますが、あなたは未来から来た人ですか?


その言葉に驚きを隠せない津田先生。津田先生はおどおどする、キョロキョロしながら周りをみる。「ビンゴだ、やはりこの人は未来から来た人か」確信を得た穂。


み、未来から? そんな映画じゃないんだから。


そうはどうかな。 この話を知っているのはおそらく野口先生だけ。2人は高校、或いは大学時代から友達ではないですか?

仮に本当に先生が未来から来たとして、話したのは自分が隠し通すのが苦手だったから、野口先生なら話しても良いと思った。

これは当たっているだろう。次に俺の話をします。俺は未来から来ました。


え!? あなたも!?


やはりですか、と言っても1度死んだのに目覚めたという感じです。この辺曖昧で記憶はあんまりないです。次に高橋先生と津田先生について。この前、圭冴がこんな事を話した。十二夜祭の歴史です。これとTN歴史部、高橋先生が始めたそうですね。そして高橋先生は津田先生の祖父だと言うこと。あの時、野口先生と話していたのは高橋先生の余命はわずか、その前にこのTN歴史部を再建し、十二夜祭を取り戻す事、繁栄させる事だと推測。


そう、そこまで分かってるんだ。そうよ、私は未来で死んだ。それは私が大学卒業してすぐ祖父はずっと体調が優れなかった。親は事故で死んで、私には祖父しかいない。だから、元気になってもらおうと思ったけど上手く行かず、私は気づかず自分から車に撥ねられた。多分自分では気づかず、もう私には無理だと思った。そんな時、目覚めると大学すぐの私。これを機に火が着いたのよ、祖父が守った歴史部と十二夜祭を今度は私が守ると。


それが隠していた事ですね。はぁ ありがとうございます。話せて良かったです。これで蟠りはないですね。俺はずっとモヤモヤしていたんです。圭冴の話を聞かなければ一生知らなかった。まさかこんな共通があるなんて。最初津田先生は担任にはなっていない、地理の飛谷先生だったのになぜ津田先生になったのか、疑問だった。今やっと分かりました。


そうね、私ダメね。こんなんじゃ歴史部の存続も厳しい。守るなんてカッコイイこと言って守れてないのと一緒。


そんなことない。


え?


俺を見つけ、部員を増やした。たしかにこれでは存続はできないが、まだこれからじゃないですか? ここから一緒にやればいい。きっと高橋先生も応援していると思いますよ。


ありがとう穂君。



ここで15時が過ぎ、アナウンスが校内に響き渡る。「これにて文化祭は終了!」


この世界、何があるかわからない事だらけだ。



7.



冬、12月になり、もうすぐ今年が終わる。その前に十二夜祭がある。本番はクリスマス、TN歴史部は演劇部の手伝いとしてナレーション及び、何かあった時の対処をしないといけない。

これが本来のTN歴史部の活動だ。学校と十二夜祭を守るのが活動、学生たちはあまり知らないだろう。分かっている人が数人でもいればいい、そこから拡がるのだから──────────


本番当日、歴史部に入ってなにが良かったかと答えるならこの日だろう。死ぬ前、穂はこの日は風邪を引いてしまってなにも出来なかった。さらにその次の年では、十二夜祭は中止となっている。今日は成功すれば、未来は変わるだろう。

一緒懸命に演じる、主役の大鐘智とヒロインの伊藤香音。この2人は高橋先生の事情は知っている。団長とそのヒロインを務める者には知らなければならない歴史だ。

それを聞いて、どう思い、考え、学び抜き、十二夜を演じるのか。ナレーションは

冬華が務める。吊物装置のスイッチを押すのは圭冴。穂は木1だ。全身、緑と茶色だ。アフロみたいな頭、動いてはならない。やりたくはなかった。だが、またしてもお願いをされてすることになってしまった。「正直恥ずかしい」と言いたいところだが、ここからだと景色が違う。観客、演者、照明、音響、全てが見える。これは感動する位置だ。ある意味木1で良かったと感じた。もう1つはこの十二夜が出来たこと、観客の学生たちに想いは届くか、これが俺たちの歴史だ。迫力に魅了させる人々。そして、この奏でる音、香りのように音が耳に目の前に来るようだ。不思議な感覚だ。演劇を見たことがない穂でさえ、魅力に気付いた。まるで本物のようだ。最後には、全員が涙をながし、幕を閉じる。


これが高橋源時先生が守り続けた伝統であり「なんとも美しく、ロマンティック」。

まさに「十二夜」の名に相応しい。


クリスマスが終わるまでの記憶、どうかこのまま続いて欲しい。


「届いたか? 俺らの十二夜」


生きてていて良かった。









































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