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 濱渦はまうずさんを初めて見たのは、私が中学2年のとき。高校の県体を見学したタイミングだ。当時、濱渦さんは三城高校3年で、バド部のキャプテンだった。

 団体決勝の第2シングルス。1シンを取られ微妙な雰囲気が漂い始めた中、濱渦さんは重い空気を雷のように切り裂いて明報学院のエースを破り、三城を全国へ導いたのだ。

 雷というのは半分、比喩ではない——そのスマッシュは雷のように轟き、一方的に相手のコートに突き刺さっていた。それはコートに高低差があるんじゃないかと思ってしまうほどで、相手はロブばかりの防戦一方、濱渦さんは上がってきた球をひたすら飛び上がって打ち落としていくばかり。その様子はもはや作業にすら見えた。

 最後もスマッシュで決め、瞬間コートに駆け寄るチームメイトたち。その輪の中心で、濱渦さんは静かに睫毛まつげを濡らしていた。


 雷に撃たれたのは、私だったのかもしれない。

 濱渦さんのあのプレーを見て、全てスマッシュを打てば相手を完膚なきまでに叩きのめせるというビジョンが私の中にちらつくようになった。ああいう風になりたい、という目標になった。

 憧れ——。簡単に言えば、そういうものだろう。私が三城を進学先に選んだのも、同じ場所で同じ気持ちを味わいたいと思ったからだ。


 しかし、三城高校はその年を最後に優勝から遠ざかった。


  ◆


 濱渦さんの相手の大学生は、濱渦さんと同じかそれ以上に体格が良い。

 あの県体から3年。濱渦さんは今もスマッシャーで在り続けているだろうか。

「ファーストゲーム、ラブオールプレー」

 濱渦さんがショートサーブを放つ。

 相手の選手が濱渦さんのフォア側にアタック気味のロブを打つと、濱渦さんは待ち構えていたかのように瞬時に跳び付き、

「あっ」

 思わず声が出た。重厚な響きのスマッシュが放たれ、相手は文字通り手も足も出ていなかった。

 いつか見た日のスマッシュ、いやそれ以上のスマッシュを次々と放つその姿に、釘付けになった。


 大会の一日が終わり、コートが片付けられ始める。照明も半分以上落とされた。

 暗く木の匂いが漂う観客席で、一人悩む。

 スマッシュバカ。私が久原に言われた言葉だ。いや、原文ママかどうかわからないが、そういうニュアンスのことは言われたと思う。

 浮いたと見るやスマッシュを打つ濱渦さんと、私。何が違うのだろう。

 スマッシュの威力が違うのは間違いない。それが本質だとも思う。ただ、そこから導き出される結論は「もっと鍛えてスマッシュを速くしよう」になりかねない。脳筋の道に逆戻りだ。

 どうする。——聞くか?

 濱渦さんはまだアリーナにいる。でもいつ帰るかわからない。でも明日以降も大会は続くので明日も来るはず。でも明日来なかったらもう会えないかもしれない。でも自分の中でもう少し考えてそれなりの結論を出してから聞きに行くのが礼儀では? でもこうやって躊躇してるのは本当に礼儀を考えてのことなのか? その礼儀は誰を幸せにする礼儀だ?

 気持ちが定まらないうちに、アリーナへの階段を一歩一歩下る。床に反射する水銀灯の光が減っていく。

 アリーナへ降りても、話しかけるまではセーフ。話しかけたらアウト? 「誰だお前」と冷たくあしらわれるかもしれない。

 薄暗い中でも光る金のポニーテールを目印に、にじりにじり近寄る。濱渦さんはさっきまで他の大学生と少し言葉を交わしていたが、今は一人になっている。

「……」

 声を掛ける勇気が出ない。

 が。不意に濱渦さんが振り返った。

 この距離感。二人。視線が合う。ああ、これは話さないほうが失礼だ——と覚悟して、唾を飲んだ。


「あの、三城高校2年の石川といいます。その……」

「遅えな、やっと来たか」


 予想外の反応に、身も口も固まった。

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