第23話 光庭園異聞IV 第二話「開廊の夜」



明美の個展、開廊の夜。


美術館のメインギャラリーには、各界の著名人たちが集まっていた。評論家、コレクター、芸術家。彼らは皆、壁一面に飾られた肖像画に見入っている。


「素晴らしい出来栄えね」


バレンシアガのドレスに身を包んだ中年の女性評論家が、感嘆の声を上げる。


私は収蔵庫での出来事が幻だったのか、現実だったのか、もう判断がつかなくなっていた。


そして、その時が来た。


「お待たせいたしました」


シャネルの黒のドレスに身を包んだ明美が、優雅に会場に現れる。

男性たちの視線が、一斉に彼女に集中した。


「作品の説明を、させていただきます」


明美がゆっくりと肖像画の前を歩き始める。

その瞬間、私は気づいた。


会場の照明が、わずかに赤みを帯び始めている。


「この作品は...」

明美が最初の肖像画の前で立ち止まる。

「魂の記録なのです」


突然、肖像画の表面が蠢き始めた。

描かれた女性の顔が、苦悶の表情に歪む。

そして、絵の具で描かれた肌が、生々しい人肉となって脈打ち始める。


「まあ!」

女性評論家が悲鳴を上げる。


しかし、それは始まりに過ぎなかった。


全ての肖像画が、一斉に変貌を始めた。

額縁から血が滴り、床に染みを作る。

描かれた人々の顔が、全て明美の顔に変わっていく。


「皆様にも、私の芸術を体験していただきましょう」


明美の顔が、突然、恐ろしい形相に変わる。

その肌が裂け、生々しい肉が露出する。

そこから無数の手が伸び、近くにいた男性たちを掴み始めた。


悲鳴が響き渡る。

逃げようとする来場者たち。

しかし、美術館の扉は既に閉ざされていた。


「芸術とは、魂の昇華なのです」


明美の声が反響する中、肖像画から人々が這い出してくる。

全て明美の顔を持つ、生きた肉の塊。

それらが来場者たちに襲いかかり、新たな肖像画の材料とし始める。


血塗られた床に、新しい絵が描かれていく。

そこには今夜の犠牲者たちの苦悶の表情が、永遠に刻み込まれていく。


私は震える足で、非常口を目指した。

しかし、そこには既に明美が立っていた。


「キュレーターさん」

彼女が艶然と微笑む。

「まだ、特別な作品を用意しているのよ」


明美の顔が、また新たな変貌を見せ始めた。


(続く)

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