第3話「薔薇の追跡者」
私は、明美を追っている。
警視庁特命捜査係の刑事として、この三年間、私は光庭園事件の追跡を続けてきた。五十人以上の失踪者。そして、それぞれの現場に残された不思議な花々。
「面白い仕事をしているのね」
カフェのテラス席で、ディオールのトワルドジュイ柄のワンピースに身を包んだ女性が、紅茶を優雅に口に運んだ。プラチナのカルティエの腕時計が、午後の陽光に煌めく。
「あなたが明美さん」
彼女は微笑んだ。その美しさは、写真や防犯カメラの映像以上だった。
「なぜ、自ら接触を?」
「あなたが面白いから」
明美は紅茶を置き、私をまっすぐに見つめた。
「三年間も私を追い続けて、一度も花園に足を踏み入れなかった刑事さん」
確かに、私は現場に入ることを避けてきた。なぜなら、花園に入った捜査官は、皆、姿を消したから。残されたのは、それぞれの趣味や性格を反映したような不思議な花だけ。万年筆のような形の花、バッジの形の花、そして拳銃の形をした漆黒の花。
「あなたは、人を花に変える」
「ええ」
明美は躊躇なく認めた。
「でも、それは暴力ではないの。永遠の美への変容よ」
「被害者は苦しんでいる」
「本当にそう?」
明美は、テーブルに置かれた白い薔薇を手に取った。
「この花を見て」
見る間に、薔薇は変化していった。花びらが透明になり、中から人の表情が浮かび上がる。苦しみ、戸惑い、そして...深い安らぎ。
「これが、光庭園に来た人たちの記憶」
明美の声は優しく響いた。
「彼らは最後に、本当の美に触れたの。永遠に記憶として残る至福の瞬間を」
「しかし、それは殺人だ」
「死は醜いもの」
明美の表情が曇った。
「でも、私の庭園で花になった人たちは、永遠に美しく咲き続ける」
そこで私は、ずっと気になっていた質問をした。
「あなたは、誰の花なの?」
明美の動きが、一瞬止まった。
「鋭い質問ね」
彼女は静かに立ち上がった。
「答えは、私の新しい庭園で」
封筒が差し出される。中には、高級住宅街の一角にある洋館の写真。
「今夜、お待ちしています」
明美が去った後、私は封筒の中身をもう一度確認した。そこには、かすかに花の香りが漂っていた。見覚えのある香り。
三年前、妹が失踪した時に纏っていた香水の香り。
私は決意した。今夜、全ての謎を解き明かすために、その洋館を訪れることを。
明美の言葉が、耳に残っている。
「永遠の美への変容」
それは、誘いなのか、警告なのか。
(続く)
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