粉雪の結婚式

暗黒星雲

第1話 憧れの姫との結婚式

 真っ白だった視界が晴れた。

 風は殆どない。

 

 空はどんよりと曇っているし、細かい雪が舞っている。

 でも、私は嬉しくて仕方がない。


 だって、今からあのウルファ姫と結婚式を挙げるのだから。


 私は真っ白なウェディングドレスを着ているのだ。肩と腕は素肌なんだけど、何故か寒くない。

 そして、私の右隣にいるウルファ姫は真っ白な軍服を着ている。姫はミリア公爵家のご令嬢なんだけど、同時に皇国軍少年少女隊の隊長でもある。将来は皇国親衛隊を任される逸材なんだから、正装は白い軍服なんだね。


 姫が私の手を引いて祭壇へと向かう。

 そこには年老いた神職の人が笑顔で待っていた。


「大いなる竜神の御前において、ウルファ・ラール・ミリアとティーナ・シルヴェンの婚姻を宣言します」


 いよいよだ。

 誓いのキス……ああ……興奮して鼻血がでそう。


「それでは、大竜神へ永遠の愛を誓ってください。今回は皇国において非常に珍しい同性婚となります」


 そうだ。女の子同士の結婚なんて、我がラグナリア皇国では珍しい……っていうか、最初の最初なんじゃないの?


「ティナ……大好きだ」

「私もだよ」


 向かい合った私と姫。

 私は遠慮なく姫を抱きしめた。


 私の豊かな胸元に姫の頭を押し付ける。

 姫、私の胸は気持ちいいかな?

 私は姫の息と鼓動を感じてめちゃ幸せだよ。


「では誓いのキスを」


 神職がキスを促す。

 私は姫を胸から解放して彼女を見つめる。そしてそのまま姫と超接近した。距離は10センチくらい。


 さあ、後は可憐な姫の唇を奪うだけ。

 私は姫の頬に両手を添えて唇を重ねようとしたのだが、姫の人差し指が私の唇に触れた。


 え?

 ここは素直に唇を重ねる流れじゃないの?


「落ち着くんだ、ティナ。これは幻覚だ」

「幻覚?」

「そう。そもそも、皇国において同性婚は認められていない」

「そうだっけ?」

「それに、私達の年齢で結婚する事は出来ない。まだ14歳なんだぞ」


 あ……皇国で結婚できるのは17歳以上だった。

 それに、女の子同士の結婚なんてありえない。同性婚はお隣のグラスダース王国で最近やっと認められたばかりなのを思い出した。


「うん。よく考えてみるとおかしい事だらけだね。結婚式なのに屋外だし、参列者は誰もいないし。公爵家の姫が結婚するのに貴族が誰もいないなんて変だし、私のお父さんとお母さんもいないってのも有り得ない」

「つまり、私達は騙されているんだ」

「うん。でもどうしたらいいの? 私は姫との結婚式が現実にしか見えないよ」

「こうするんだよ」


 姫が短剣……いや、鉈を抜いて傍にいた神職に切りかかった。ご老体のはずの神職は素早く姫の攻撃をかわし、数メートル後方へと瞬間的に移動していた。


「ティナ、魔法だ。大きいのをブチかませ!」

「わかったよ。何だかムカツクしね」


 本当に腹立たしい。幻覚を見せる魔法を使うのはまあ仕方がないとしても、私の恋心を読み取って私の願望をそのまま幻覚で見せつけるなんてどうなの? これって乙女心を踏みにじる暴挙じゃないの?


「我がしもべ、地下に潜む火竜よ来たれ。汝の熱き息吹をかの者へと与えよ」

 

 周囲の地面から幾つもの火柱が上がった。そしてそれらはグルグルと重なり合い一つ火竜となる。


 私は老人の姿をした神職を指さした。


「かの者に制裁を」


 更に数メートルの距離を瞬間的に移動した神職へと向かって火竜が炎を吐いた。奴は十数メートル四方を焼き尽くす大きな炎の塊に飲み込まれ、悲鳴を上げながらのたうち回っていた。


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