序章 6節
私の腕を強く握った手が光を置き去りにするかのように引っ張る。
まさに風を切るように真っ白な空間を突き進む。
長らく進むと、急に身体が止まる。
たくさんの白い腕が身体中に回され、引っ張る。
「未来〜」
白い空間を裂いて血走った眼球と絵の具を垂らしたような口腔が拡がる。
「私と代わってくれるはずじゃなかったの?」
私は、離していた手で私を引く腕を握る。
「私の人生は、私が生きる! 他の誰でもない、私。今音未来が生きる。私の意思で!!」
目の前に広がる白い壁が破れ、月の照らす夜空が顔を出す。
白い化け物の断末魔のような叫びがこだまする夜。
私の手を引く正体は、しなびやかな白い長髪を携え、透き通る太刀捌きで白いのを斬りつけた。
「
斬りつけられた傷から黄金の光が湧き出し、白い腕と私を引き剥がす。
白い腕は液体のように地を這い、スライムのように散った液体が1つに纏まり、身体を形成する。
「キサマァァ」
「やっと離れてくれたようだな」
「あと少しで完全に私のものになったのにィィィ」
「融合率が相当高かったみたいだな。あと少し私が見つけるのに手惑えば良かったな」
女、いや瑞月は、腰に携えた剣を白い私の首元に向ける。
「近づいたのが運の尽きねェェェ」
白い私は、叫ぶ。
しかし、何も起きない。
「お前の欠損部分は、既に楔に封印されている。以前の戦闘と私のマヴとの戦闘記録を元に能力を把握していてね。残りはあの子をどう君から引き剥がすかが問題だった」
「舐めやがってェェェ!!!……ッガ……」
咆哮する白い私が止まる。
「さっきの楔の傷、楔自体は君達にとって死を意味する。かすり傷を受けるだけでも致命傷となる」
「ガ………アガ………」
私は、立ち上がって白い私に近づく。
「彼女は何なの?」
「あまり近づかない方がいい。これと言うのは、君のトラウマ、記憶がアーツと結びついて変異した物だ」
「すこし胸がヒリヒリするんだけど?」
「あぁ、君は彼女との融合率が高い上、体を一部でも許してしまった。だから、彼女に痛覚の大部分を奪われてしまったのだろう。融合が途中で止まったから君は、彼女の痛覚から少し痛みを感じている」
「返ってくるの?」
「返ってこない。当たり前だろう。君は彼女に一瞬でも自分を許してしまった。なくなったのが人として大切な物じゃなかっただけ軽傷だ」
そうだった。
私は、彼女に取って代わってほしいとそんなことを諦めと同時に感じてしまっていた。
そう考えていると、瑞月が剣を振り下ろそうとしていた。
「ちょっと待って」
私が剣を持つ手を止める。
「あなたのお陰で私、夢をもう一度追いかけようと思えたよ。私が決めた道を信じて進む。今度はあなたが羨むくらいの人生を。だから、バイバイ。私のトラウマ。ありがとう」
眩い光が白い私から放たれる。
「眩しッ」
「クッ……」
光が消えると、白い私はいなくなっていた。
「君は……、そうか。トラウマを乗り越えた。その覚悟がトラウマでさえ、君であると認めたんだな」
「瑞月さんもありがとう」
「君は、本当に……。彼の方に似ている」
「え?」
「独り言」
瑞月さんは、私の肩をポンと叩いて帰路に歩み出す。
「あの!」
「どうした?」
「この手紙。瑞月さんが宛てたものでしょ?」
右手で少しシワの付いた手紙をつまむ。
「そうだ。でも、まだその時じゃない」
「その時って?」
「君がこの世界の未来を切り拓く。その刃を手にする」
「未来を切り拓く刃?」
「そうだ。君の先祖が握り、未来を切り拓いた刃。それを君が受け継ぎ、未来を切り拓く」
瑞月さんは、1枚の紙を私に渡す。
「次会う時は、ここで会おう」
「えっ待って」
言い切る前に瑞月さんは、いなくなっていた。
胡散臭いという雰囲気もありながらどこか強い説得力が私に違和感を与えなかった。
自分の手で世界を変革させる。
そんな膨大な力を持った時、私は何をするのか。
私の先祖とは、どんな人物だったのか。
疑問も不安も。
「それでも私は、私の決めた道を進む」
月明かりが照らす丘道を歩み出した。
序章6節
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