一年に一日だけ
おてんば松尾
第1話
1プロローグ
それ全く偶然の出来事だった。
私は雨に濡れた手紙を手に取り、そっとため息をついた。
使用人の不手際で、夫が誰かに宛てた手紙が台無しになってしまったのだ。
手紙の宛名は読めなくなっていたが、封筒の中身はまだ無事かもしれないと考えた私は、どうしようかと悩んだ末、慎重に封を開けた。
手紙を読み進め、内容が明らかになるにつれ、私の顔色はどんどん青ざめてきた。
信じられない思いが込み上げ、全身に冷たい風が吹きつけたように、体が震えた。
****************
愛する人へ
君と過ごした時間は、私の心に深く刻まれ、今もその余韻に浸っている。私たちの間に流れる特別な絆を再確認することができた。
マウリエ山であの夕暮れ時に見た景色は、私たちの愛を象徴するかのように美しかった。
君の笑顔、優しい言葉、そして滑らかな肌、君の体温が、私の心を満たしてくれた。一緒に過ごした場所や、共有した会話どれもが、まるで宝石のように輝いている。
君と過ごす12月24日は、私にとって何よりも大切なものだ。君の存在が、私の人生にどれほどの喜びと幸せをもたらしてくれたか、言葉では言い尽くせない。
年に一度しか会えなくなってしまったが、それでも私の気持ちは永遠に変わらないだろう。
自由に会うことが叶わない苦しみを感じながら、この手紙を書いている。
また一年後の12月24日、君に会える日を楽しみにしている。
それまでの間、君のことを想いながら、毎日を過ごしていくよ。
どうか、私の愛が君に届きますように。
君と過した時間は、まるで夢のような大切な時間だった。
愛を込めてアルフレッド
*********************
手紙の中には、夫の手による詩的な文章が綴られていた。
アルフレッドの言葉は、愛情と感謝の気持ちに満ちていたが、それは妻の私に向けられたものではなかった。
夫が愛人に宛てた手紙だ。
彼がこんなにも情熱的な言葉を別の誰かに向けて書いたのだ。
私の心は凍りついた。
私は手紙を握りしめ、涙が頬を伝った。彼と過ごしたこの半年間が意味を失い、未来が見えなくなる。心の奥底で叫び声を上げても、誰にも届かないような孤独感に襲われた。
夫が自分を裏切っていたことを知り、彼女はどうすればいいのか分からなかった。手紙を握りしめたまま、深く息を吸い込み、心を落ち着かせようとした。
私はゆりかごの中で静かに眠っている息子のお腹を優しく撫でて、ブランケットをゆっくりとかけ直した。
言葉にならない苦しみが、静かに心を締め付ける。
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