第27話 運命の再会

父——カイゼル・アークの足跡を追い、その犠牲の真実に触れた俺たちは、新たな裂け目を目指して旅を続けていた。険しい山道を下り、視界が開けた瞬間、目の前に広がる広大な草原に足を踏み入れる。


しかし、そこには異様な雰囲気が漂っていた。


草原に広がるはずの緑の絨毯は、ところどころ焦げつき、地形が激しく崩れている。大地に深く刻まれた裂け目は、まるで巨大な力が押し寄せたかのように見えた。空気には張り詰めた緊張感があり、まるでここで戦いがあったことを物語っているようだった。


「……ここも、何かがあったのか?」


グラントが警戒しながら辺りを見回す。普段は冗談混じりに話すことの多い彼も、この異様な光景を前にしては慎重にならざるを得ないようだった。


「ただ事じゃないわね……」


アリシアが杖を握りしめ、周囲の魔力を探るように目を細める。


俺はエクリプスを手にしながら、草原の異変をじっくりと観察した。この剣は、父の記憶を伝えた後、少しずつ力を強めているようだった。しかし、それに伴い、剣に宿る呪いの力もまた増大しているのを感じる。まるで、俺の中の何かを侵食しようとしているかのように——。


「気を抜くな。この裂け目に近づくほど、魔王の眷属が現れる可能性が高い」


グラントの言葉に俺たちは無言でうなずいた。


緊張感を高めながら前進する。


草原の中央へ近づいたその時だった——


黒い霧が、突如として辺りを包み込む。


「っ……!!」


全身の感覚が総毛立つ。


視界を覆い尽くす黒い霧の中、足元すら見えなくなっていく。そして、その霧の奥から、不気味な気配が膨れ上がった。


「何か来る……!」


アリシアが警戒し、グラントもすぐさま剣を構える。


——そして。


霧の中から、それは現れた。


巨大な魔物。


黒い鎧のような外殻に覆われ、身体中に赤黒い稲妻が走る。獣のように四足で立ち、鋭い爪が地面を引き裂いていた。今まで俺たちが戦ってきた魔王の眷属とは比べ物にならないほどの威圧感を放っている。


「……これはヤバいな」


グラントが低く呟きながら剣を握りしめた。


「この魔力……今までの相手とは桁違いね」


アリシアの表情も険しくなる。


俺はエクリプスを構え、魔物の動きを注視する。——巨体の割に俊敏だ。そして、こちらが隙を見せれば、一瞬で襲い掛かってくることは間違いない。


「……俺たちだけで倒せるのか……?」


不安が胸をよぎる。


次の瞬間、魔物の巨大な爪が唸りを上げ、一行を狙って振り下ろされた。


「っ、避けろ!!」


俺の叫びとほぼ同時に、地面が激しく抉り取られる。土煙が舞い上がり、衝撃で俺の足が僅かに浮いた。


「ちっ……!」


グラントが間合いを詰め、剣を叩き込む。しかし——


カンッ!


魔物の硬い外殻が、グラントの剣を弾き返す。


「……硬すぎるだろ!!」


グラントが舌打ちする。


「なら、私が!」


アリシアがすかさず詠唱し、炎の魔法を放つ。炎の弾丸が魔物の身体を直撃するが、炎はすぐに霧散し、傷一つつけられない。


「魔法すら通じない……!?」


アリシアの声が僅かに震える。


「俺がやる!!」


俺は決意を固め、エクリプスに力を込めた。


剣の刃が黒と白の光を放ち、空間を震わせる。


「これで……終わりだ!!」


俺は渾身の力を込めて、エクリプスを振り下ろした。


光の奔流が魔物を包み込み、その巨体を貫いていく。


魔物は断末魔の咆哮を上げ、ゆっくりと崩れ落ちた。


「……やったか……?」


俺は剣を収めようとした。


——しかし、その時。


エクリプスから放たれる光がさらに強まり、俺の体に異変が起こった。


視界が歪む。頭が割れるように痛む。


「ぐっ……!?」


膝をつくと、意識が遠のいていった——。


虚無の空間、そして父の影


気がつくと、俺は見知らぬ場所に立っていた。


白い霧が漂う、空も地面もない虚無の空間。


「……ここは……?」


俺が呟いた瞬間、霧の中から、一人の人物が現れた。


——父、カイゼル・アーク。


しかし、以前と違い、その目は冷たく、険しい表情をしていた。


「父さん……?」


俺が呼びかけると、カイゼルはゆっくりと口を開く。


「ルシエル、お前はこの剣の真の力を知る覚悟があるか?」


「覚悟……?」


俺は戸惑いながらも、その問いに真剣に向き合う。


「この剣は、ただの武器ではない。お前が手にしているものは、私が背負った呪いそのものだ。そして、その力を完全に引き出すためには、お前自身が何かを捨てる必要がある」


「……捨てる?」


俺は息をのむ。


「まさか、父さんみたいに……自分を犠牲にしろってことか?」


カイゼルは深い悲しみを湛えた目で俺を見つめる。


「それが英雄という存在の宿命だ。だが、お前には別の道があるかもしれない。私が果たせなかった願いを、お前が叶えることができるかもしれない」


「別の道……?」


「守るべきものを見失うな。それがお前の力になる」


そう言うと、カイゼルの姿は霧の中へと消えていった。


目を覚ますと、仲間たちの心配そうな顔があった。


「大丈夫なの、ルシエル?」


「ああ……父さんと、また会ったんだ。剣の力について話してくれた」


俺はエクリプスを見つめる。


「行こう。次の裂け目が俺たちを待ってる」

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