第9話 英雄ジークフルドの剣
第九話 英雄ジークフルドの剣
ベットで寝た記憶はないが宿屋で一泊したらしいので再び1日が始まった。
倒した魔物の肉を売り儲けたが、商売上手な親子にそっくり持っていかれた。
ポーション等の回復アイテムを買うためにアルマの知り合いの店に向かう。
その途中、鍛冶屋があったので興味本意で少し立ち寄ってみる事にした。
先日も利用した武具屋と連結してお店の裏側に建っていて、外からでも仕事の様子が確認出来る。
火を扱う職種なので熱気を逃す為なのか、外部に面して併設されてるようだ。
カンカン、シャシャ、ゴォォ、カンカンカン、ガキィン
その工房では炉と金床で、火と鉄が交じり打ち合い火花を散らしていた。
そこにはガタイのよい筋肉質で暑苦しい風貌の職人が何人か作業している。
「……なにやら忙しそうに作業してるなぁ」
「冒険者も多いですから扱う武器や防具の需要もそれだけありますからね」
アルマに聞いてみると職人区にはいくつか工房があり、鉄鉱石などを使った武器や防具を鍛造してそれぞれ連携しているお店に卸して販売するらしい。
他にも道具屋などで扱うポーション類を入れるガラスの容器や、家具とかで使う釘や金具なども鍛冶屋で取り扱ってるようだ。
まあそれは冒険者にはあまり必要ないのかもしれないが、先ほど買った軽鉄製のフライパンとかもここで作っているみたいだ。
「なんかガラス製品とかも扱ってるみたいだな」
「ガラスの容器や食器、窓とかも生活の必需品ですし、住居や建物を建設するのにも鍛冶屋の仕事は需要が色々ありますから、大工や家具職人とも連携して国の発展に努めているようです」
「ふむふむ」
「鍛冶師のメインの仕事は武具の製造ですけど、ガラス職人とかも居ますし、陶器なんかも扱っているらしく専門分野に別れて役割分担してるとも聞きますね」
「なるほど、色々やる事が多いんだな、忙しい訳だ」
「他にも武器の強化や修復で利用する冒険者も多いですね」
どうやら冒険者が装備してる武器を研いでメンテナンスしたり、強い魔物の素材や貴重な鉱石などを持ち込めば、値段に応じてオーダーメイドで装備を作ってくれるらしい。
更に特殊なアイテムがあれば交渉次第だが、武具に属性の付与もしてくれるようで、武器防具の店とはまた違う用途で利用する冒険者も多いようだ。
「いつか魔王を倒す為にも鍛冶屋は今後も利用するだろうし、良い関係を築きたいところだな」
「そうですね、鍛冶屋に限らずギルドと連携してるお店とは友好関係を築いておけばクエストとかダンジョンにも挑みやすいですからね」
ダンジョンの宝箱からもそういった特殊な性能が付与された武器が極稀に発見されるらしいのだが、冒険を続ければ手に入れる機会もあるかもしれない。
「ダンジョンか、興味はあるけどこの辺りにもあるのか?」
「近場にも幾つかありますよ、王国で管理して魔物が溢れないようにして利用しているダンジョンも一応ありますね」
「ふむ、そんなのもあるんだ」
「でもダンジョンは魔物と同じで魔王が作り出し本来は管理してるとも聞くので、罠などの不確定要素も多々ありますから注意は必要です」
「ふむふむ、まあいつかダンジョンに挑む事があれば、その前にちゃんと必要な準備を済ませて、万全の状態にしてからが良さそうだな、準備不足で後悔はしたくないし」
「ですね、それが良いと思います」
なるべく邪魔にならないよう少し離れた場所で眺めながらアルマと話していたのだが、こちらに気が付いたのかその中の1人がこっちに向かって来た。
「おう、いらっしゃい、何のご用で?」
「あ、いや、ちょっと興味があったので立ち寄ったんだが、もし邪魔したなら直ぐに立ち去るぞ」
「ガハハ、見学だけでも問題ないぞ、ただ炉の近くは危ないから近寄らないようにな!」
「ああ、分かった、気を付けるよ」
そう注意されたので従う。どうやらこの老年の男が工房の親方らしい。
低身長なのだが腕や身体はムキムキで、髭もじゃなのだが禿げ頭だ。
目には火花を防ぐ目的なのか、黒いゴーグルのようなものを付けてた。
名前を聞いたら“ガラム”と言うらしく、どうやら【ドワーフ】と呼ばれる種族のようだ。
「あんた噂の勇者だろ? 魔王討伐を目指しているなら武器や防具には妥協するんじゃないぞ?」
「ああ、それなら大丈夫、直ぐそこの武器防具の店で鋼のショートソードを買ったばかりだ」
そう言って装備してた武器を取り出して鞘ごとガラム親方に見せる。
「ああ、それならこの工房で打って卸したやつだな、どれどれ……」
「同じ名称の武器でも違いがあったりするものなのか?」
「店に卸してるのはちゃんとした職人が作ったものだから、性能面は保証するが、作り手によって同じカテゴリーでも微妙な違いや癖とかはあるな、特に剣は長さや重さによって重心のバランスも変わってくるからな」
ガラムは受け取った剣を真剣に鑑定しているのだが、そんな真っ黒いゴーグルをしながら正確に見定められるものなのか? と少し思った。
「ふーむ、その武器ならまあこの辺の魔物なら問題なく戦えるから大丈夫だが……しかし小まめにメンテナンスしないといざという時に壊れる可能性もあるからな、余裕があるなら“予備の武器”を用意する事を推進するぞい」
「予備の武器?」
どうやら戦闘で使う武器は【メインウェポン】と【サブウェポン】で使い分けて装備するらしく、予備の武器を普段は収納してメイン武器を使いながら状況によって、武器を切り替えたりも出来るようだ。
戦闘中にもし片方の武器が破壊されたりした場合でも、もう片方の武器に切り替えて対処する事が出来るし、狩人とかは弓で遠距離攻撃とナイフでの近接攻撃を使い分けて活用する事も可能なのだとか、そして武器の変換は即座に行えるようで戦闘中でも行動ターンには入らないらしい。
「うーん、ちゃんと用意したいが所持金も限られてるからなぁ」
「まあ命には変えられんからな、予備の武器もだが、防具も含めてなるべく早めに装備は充実させた方がいいぞい」
「ああ、そうするよ……」
そう進言してくれたのだが回復ポーション等も買う予定なので今はそこまでお金に余裕はない、薬草採取の納品クエストの収入と魔物素材の換金で多少はあるけど肉屋では思わぬ出費もした。
「あ、そう言えば最初から持ってた武器は売らずにまだ所持してたな」
あんな錆びた剣じゃあまり役に立ちそうもないが、暫くは予備の武器として使うとするか。
そんな事を考えていたら、自分の意思とは関係なくピヨヒコは錆びた剣を亜空間から取り出して、ガラム親方に見せた。
どうやら背後の画面の少女が操作したようだ。
「お、おいあんた、その剣は、ちょっとよく見せてはくれないか?」
「ああ、別に構わないが」
そう言われたので錆びた剣を親方に差し出す。ガラムは何やら真剣な様子でその錆びた剣を鑑定し始めた。手入れが行き届いてなく錆び付いているので少し恥ずかしいな。
「この剣は、今は力を失っているようだが、もしかして【英雄ジークフルド】が使っていた竜殺しの魔剣じゃないか!?」
「英雄ジークフルド? ……誰だそれ?」
「!!?」
その言葉で周囲がざわめき固まる。
工房で作業していた職人達の鎚の音とかで煩いはずにも関わらず一瞬の静寂が訪れた。
そしてガラムとアルマを見ると何故か気まずそうな感じでこちらを見ていた。
「……え、なにこの空気?」
するとアルマが後ろから近付いて小声で耳打ちして教えてくれた。
「ジークフルド様はこの国の英雄で……その、貴方のお父様のお名前です……」
「あー」
気まずい沈黙の理由をピヨヒコも理解して、周りと同じく気まずい気分になり頭を片手で抱える。自分の記憶や名前どころか、父親の記憶すらなかったのでその名もまた知らなかったのだ。
「ゴ、ゴホンッ」
気まずい空気に堪えかねたのかガラムが咳払いをして話を続ける。
「と、とにかくこの魔剣はスゴいものだぞ、たださっきも言ったが力を酷使し過ぎて本来の性能を失っている状態だな、錆びとかなら研ぐ事は出来るが力を取り戻すには相応の強い魔石が必要だな」
「魔石? ……なにそれ?」
「!!?」
再び周囲がざわめく、どうやら【魔石】も一般常識のようだ。
いや、だってそんな記憶なんて俺には無いんだから仕方ないじゃないか。
助けを求めるような視線を感じ取ったのか、アルマが再び耳打ちして教えてくれた。
普通に話せばいいのに耳元でヒソヒソと囁かれたので少し、ドキッとした。
何やら良い匂いもするのだが、女性だけあって身だしなみには気を使っているようだ。
ちょっと違和感も感じたが、説明をちゃんと聞くことにした。
「魔石とは、ゴニョゴニョ……」
「ふむふむ」
魔石とは魔王から魔力を与えられた魔物がその内に宿す“力の結晶”のようなもので、この辺の弱い魔物にもその魔力の源は宿っているのだが、倒しても魔石にならずに霧散するらしい。
魔素の濃いダンジョンに蔓延る魔物を倒したり、それこそドラゴンなどの強大な魔物を倒せば、魔石をドロップして入手出来るそうだ。
魔石はその魔物の種類や特性によって、大きさや属性に違いがあり【魔道具】と呼ばれる便利な生活用品などの素材としても利用されるようで、他にも様々な用途で用いられ、この工房でも武器や防具の強化や属性付与、特殊な装備の生成素材としても必要になるとの事だ。
「英雄ジークフルドはかつてこの国が魔王の侵攻を受けたときに活躍した凄腕の一級冒険者でな、竜殺しのジークフルドなどとも呼ばれてたぞ、ワシも少し面識はあるが意思の強い男だったぞい」
「……そ、そうか」
そんな国の英雄が自分の父親らしいのだが、記憶がないので実感が湧かない。かつて王国に出現したドラゴンを仲間と共に立ち向かい討伐したとか、その素材で手に入れた魔剣を使い、その後も魔王軍の侵攻を阻止してきたらしいのだが、息子として血縁関係の筈なのにその記憶が全くない。
そもそも今の自分の置かれてる状況からすると、その英雄が本当に自分の父親なのかも疑わしい。
実はどこか別の次元からやって来た自分が、このピヨヒコという人族の身体に乗り移って、その記憶もなく勇者として行動してる可能性すらあると考えてたりはする。
いわゆる転生や憑依と言った感じだろうか、もちろん俺自身がピヨヒコ本人で、単にその記憶を忘れている可能性の方が高いとは思うけど。
荒唐無稽な話ではあるが、でもそれくらい今の自分の存在が分からないのだ。
そんな事を考えて佇んで居たら、アルマが心配そうにこちらを見ていた。
俺はそんなに不安にさせるような顔をしていたのだろうか……
「錆びてはいるがジークフルドの形見なら大事にするといいぞい、もしドラゴンの魔石を手に入れる機会があれば、ワシが責任をもって鍛え直すからな、まあ覚えておいてくれ」
「ああ、わかった、そうするよ」
ガラムにそう言われたので応える。淀んだ思考を打ち消して、現状を受け入れる事にした。
あまり深く悩み過ぎると、きっと自分はいつか闇に取り込まれて心が壊れてしまうだろう。
そうならない為に習得した“スルースキル”だ、上手く活用していこう。
それにしても竜殺しの英雄ジークフルドか、そんなカッコいい名前の息子が何でピヨヒコなんて弱そうな名前なんだろうか? 何かやっぱり納得がいかないんだけど。
「それともし予備の武器が不足してるならこれを使うといいぞい」
そう言って親方は【鋼のダガー】と【研ぎ石セット】をタダでくれた。
「え、いいのか?」
「なぁに、遠慮する事はないぞ、ワシらもお前さんには頑張ってもらいたいし、それに英雄様にはこの国の皆が助けられたから、その礼も兼ねてだ、好きに使ってくれ」
「ありがとう、大事に使わせてもらうよ」
「ガハハ、良いってことよ、それにその武器なら使い分けも出来るからな」
要り組んだダンジョンの通路や狭い場所だと、扱いずらい長剣のソードよりも短剣のダガーの方が立ち回りやすいらしい。勇者としての立場に気遣ってくれたり、英雄の息子に対してのサービス精神なんだろうけど、その厚意を素直に受ける事にした。
鋼のショートソードを表の店で購入した時も、それに合ったレザー素材の鞘が付いてきたのだが、この鋼のダガーも専用のホルダーケースをおまけで付けてくれた。
これならサブウェポンとして腰に常備出来るし、戦闘中でも任意のタイミングで武器の切り替えは可能そうだ。有り難く使わせて貰おう。
「それと魔物の素材はそのままギルドで売却してもいいが、強い魔物の魔石や素材は武具や装飾品にも使えるから、所持金に余裕があるなら売らずにウチの工房でオーダーメイドするといいぞい」
「分かった、何か良い素材や魔石を手に入れたら持ってくるよ」
他にも強化や属性の付与、武器のメンテナンスなど、鍛冶屋の機能をざっくりと教えてくれた。アルマにも先に説明されたけど改めて覚えておく事にした。
興味本意で立ち寄っただけだが、ガラム親方は親切に対応してくれた。職人気質だと頑固で偏屈なイメージもあったけど、気さくで話しやすい印象で良かった。
「また何か必要になったら来るといいぞ」
「ああ、そうするよ、色々とありがとな」
他のドワーフの職人達にも挨拶をして鍛冶屋を後にする。
向かってる先は本来の目的だったアルマにおすすめされた薬師の店だ。
「じとー……」
後ろを付いて歩いているアルマを然りげ無く見てみると無言なのだが、何か言いたげな重い表情でピヨヒコの事をじっとりと見ていた。
気まずい、背後からのその視線は何かすごく気まずい空気になるぞ。
先程の父親の名前のやり取りもあったので俺に対して疑念や不信感を懐いてるのかもしれない。まあ自分の父親に対して、誰だそれ? なんて質問したら、不信に思われても仕方ないのだが。
アルマの事はもう仲間として信用してるし、記憶を無くて背後の画面の少女に操られている自分の置かれている状況を説明しようかとも思ったのだが、どうしようか。ずっと一人で抱え込むのも正直しんどいし、アルマなら相談にも乗ってくれそうだから、何処かタイミングがあれば打ち明けたいところだけど……
無言でそんな事を考えていたら、気まずい空気に耐え兼ねたのかアルマの方から話し掛けて来て話題を変えたので、少し雑談を交えつつ目的地に向かった。
「あ、着きましたよ、このお店です、勇者様」
「ああ、オススメの商品とか教えてくれてありがとな」
取り敢えず重たい空気ではなくなったので、そのままその店に入る事にした。
アルマもこちらに気を遣っていたのか、父親の名前の詮索とかはしてこなかった。
カランカラン♪ と店内に入ると耳触りが心地よい鈴の音が聞こえた。
「あい、いらっしゃーい、あ、アルマじゃないか、今日は何か必要かい?」
「今日は勇者様の同行で、必要な回復ポーションを買いに来ましたよー」
「お、そうなのかい?」
こちらに気が付いてその少年……少女? が話し掛けてきた。
軽く会釈をすると相手も返してくれた。
「こんにちは勇者様、ぼくは“ククリコ”と言います、ポーション類はあちらの棚にありますので、ゆっくり見ていってくださいね」
「ああ、色々と見せてもらうとするよ、親切にありがとう」
見た感じ幼くは見えるけど中性的な印象で、衣装や髪型は男の子っぽい感じなのだが性別がよく分からない。でも肌も白くて清らかと言うか、透明感のあるめっちゃ美人さんだ。
それと何か耳が尖っているんだけど、もしかして先程のドワーフの職人達のように、人族以外の種族なのかもしれない。
それにどうやらこちらの事を知っている素振りなのだが、自己紹介もされたし知り合いとかではないよな? 取り敢えずは促されたので店内を眺めつつ商品を探す事にした。
綺麗な店内では調合に使うのか、観葉植物なども飾ってあって、自然と調和したような空間で、光合成させる為なのか天窓から光が差し込むように配置していて店内は明るく清潔感があり、落ち着いた雰囲気だ。雑貨なども含めて扱っている商品は多いけどそこまで雑多な印象はない。
店には備えてある買い物カゴもあって、そこに必要なアイテムを入れるようだ。
アルマはククリコと何やら楽しそうに談話してるようなので、ピヨヒコは1人で商品を確認する事にした。友人同士の会話に割り込むのも何か気まずいので遠慮しよう。
前に出会った行商人のサンソンにも聞いたけど、採取した薬草をそのまま使うよりもポーションに錬成してから使用する方がその効果が上がるらしいのだが、どうやら基本的な回復ポーションは三種類あるようだ。店に向かう途中でアルマが色々と教えてくれた。
【ヒールポーション】 受けたダメージを回復する。
【マジックポーション】 魔法を発動するのに必要な魔力
【スタミナポーション】 武器の技スキルを駆使するのに必要な気力
またこれらの、体力、魔力、気力、は自然治癒力で徐々に回復するので戦闘中に気絶しても時間経過で自力で意識を取り戻せるようだ。でも戦闘中に突然気絶なんてしたら、それこそ絶体絶命な状況に陥るので、管理はしっかりしないといけないのだが。
それと上位互換にハイポーションなどもあるらしい。
端の方に調合台みたいな台座も置いてあるので、そこでアイテムを錬成してるのかもしれない。
操られるがままに、ちょっとだけ触れてみたけど、何も反応しなかった。
台座には見たこともない文字の羅列が綴ってあるけど、全く読めないな。
回復ポーション以外にも、状態異常を治す各種ハーブに気付け薬、他にも魔物を惹きつけるお香みたいなのや、その逆で魔物を寄せ付けない聖水みたいなものまで売っている。
何やら説明を聞かないと効果がよく分からない用途不明なアイテムも色々とあるようだ。
解毒のハーブなら町を探索した時に手に入れて何個か所持していたけど、こんなに色々な種類があるんだな。それに戦闘とは関係ない、日常生活で使う石鹸類や美容薬の類いも売っているようだ。この王国で暮らす人達からすれば、戦闘用アイテムよりも日用品の方が需要があるのかもしれない。
取り敢えずヒールポーションを多めに、マジックポーションも幾つか購入する。
武器の技スキルはまだ覚えてないので、スタミナポーションは今回は保留した。
それに状態異常の治療ハーブ類も今回は買わないようだ。
何かあってからじゃ遅いから、用心の為にも出来たら1つずつでも良いから、購入しておきたいところではあるけど、所持金にも限りがあるから見極めは大切だ。
それに先程の鍛冶屋で作られたものなのか、多目的で使えるガラスの容器や、食事に使う木材の食器に、箸やスプーン、鉄製のフォークなども売っていた。
木材の食器には取っ手が付いていて冒険者が外で食事する際に移動しても落としたりしないよう工夫されてるようだ。肉屋では売ってなかったので、こちらは幾つか購入する事になった。
これで外でも料理を作れば自分で腹を満たせるな。
まあ料理なんて作った記憶はないんだけど、何事も挑戦だ。アルマも居るし何とかなるだろう。
それとアルマの話だと、所持してる薬草を直接この店に持ち込んで納品する事も出来るようで、その金額を購入する代金から引いてくれるらしい。
手持ちの薬草と所持金と値段を見比べて、お財布と相談しながら必要なアイテムを購入する。
その買い物のやり取りもあの少女が選択してはいるのだが、背後の画面を観てみるとやはり何処か楽しそうにこちらを見ている。
鍛冶屋では少し気を張って闇落ちしそうにもなったが、この愉しげな様子を見てると、こちらも何か気が緩む……いや、あまり緊張感がないのも困るのだが。
画面の中から自分だけ安全にこちらに指示を出して操ってくる背後の少女に対して、不満や憤りも感じなくはないが、まだ幼い例の少年やこの少女にそんな事を言っても仕方ないので、これでも配慮して、その辺はあまり考えないようにはしていた。
そもそも話し掛けても反応しなかったので、対話も出来ないみたいだし。向こうが何か喋ったとしても別にこちらに話し掛けて来たりはして来ない。それに普段から“スルースキル”を発動して背後の画面を意識しないようにしてるから、何か独り言を話していても聞き逃す事も多いしな。
でももしも自分を操っているのが自分よりも歳上の中年のオッサンとかだったら、きっと感じるストレスはこんな程度じゃないだろう。
何がなんでもボイコットする所存だ。魔王も勇者も使命も、そんなもの全て知ったこっちゃない、画面の中のオッサンが自分で勝手に戦え。と、そう強く念じて訴える事だろう。
ピヨヒコは自分を操っているのがこの少女で本当に良かったと思った。
いや、良くはないが!? 操られて勝手に動いてるこの状況が良い訳がない!!
ある程度買うものは決まったが、そんな事を考えながらも他の商品を見て廻る。
するとガラス細工で出来た可愛らしい置物が幾つか陳列されて置いてあった。部屋に飾る小物だろうか、作ったのは鍛冶屋のガラス職人だとは思うけど、こんな可愛らしいのも売ってるんだな。
そして黒い猫のガラス細工の置物が目に入り、手に取ると、そのまま買い物カゴに入れた……
て、これ買うの!?
背後を観るとこれまた可愛らしい笑みを浮かべて楽しそうにしてる、いつもの少女の姿があった。いや、今これを買うくらいならスタミナポーションとか、治療ハーブの方を優先しようよ!?
そうも思ったのだが、少女の決定には逆らえないので、結局この猫の置物も購入する事になった。
「ぐぬぬ……」
もしかして可愛いものが好きなメルヘン思考なのか、この少女は?
そのままカウンターで買い物を済ませる。
勝手に身体が動くから思考を廻らせるにはある意味では便利なのだが、やっぱり理不尽だ。
「お買い上げありがとうございます、それともし時間が大丈夫なら少し休んでいきます? 雑談とかも良ければしたいですし」
「え、営業中みたいだけど、いいのか?」
「勇者様の事はアルマから聞いてちょっと興味があったので、ぼくも良ければお近づきになりたいですし、それに午前のこの時間帯なら他のお客もまだそこまで込み合わないし、テーブル席は直ぐそこなので対応も出来ますから、問題ないですよ」
「そうか、それならお言葉に甘えて、ゆっくりしていこうかな」
その提案を受けてアルマも含めて少し店主と話すことにした。
店にあった置き時計を見ると、時刻はまだ午前の9時半頃で、他に客は居ないようだ。
ククリコは店で薬草類も自生してるらしくお手製ハーブでお茶をいれてくれた。
店内には木製の丸いテーブル席があったので、そこに三人で座る。淹れてくれたハーブティーを飲んでみたら、ほんのり甘くて少し独特な香りがするが口当たりが良く飲みやすかった。
「うん、美味しいな」
「気に入って貰えたらなら良かったです」
気分が落ちつく味だ。初めて飲んだけど甘味もあるし割りと好きな味だった。
アルマも美味しそうに飲んでいるが、女性らしい振る舞いで何処か気品がある。
視線を向けていたらこちらに気が付いたのか、穏やかな笑顔を返してくれた。
そして話を聞くと、どうやらククリコは【エルフ】と呼ばれる種族のようで、見た目は若くても人族と比べるとかなり長寿らしい。見た目的には十三歳くらいにも見えるんだけど、アルマよりも年齢は上だそうだ。と言う事は、必然的に俺よりも年上になるのかな。
まあ自分自身の年齢すらよく分からないのだが、アルマとそんなに変わらないとは思う。
ちなみにアルマも見た目的には、まだ二十歳にはなってないようには感じる。
それとさっきから気になっていたのだが、エルフの特徴なのかククリコの耳がツンと尖っていて、たまに、ピクッと動くのだが……それが何故だか、スゴく気になる。
ウズウズ……
何だろうこの気持ち、何か抗えない、すごく興味を牽かれる。
ピヨヒコはまるで猫じゃらしを狙う猫のような目付きになった。
「普段エルフはあまり里を離れず、他種族と交流する事なく過ごすんだけど、ぼくと姉は縁あって今はこの国で生活しています、以前は姉と2人でこの大陸を旅をしたのですが、その頃にあなたのお父様とも出会って、お世話になりました、少しの間ですが一緒に旅に同行した事もありますよ」
「え? そうなのか……」
話を聞きつつピクッと動くククリコの耳に目がいく。
「ククリコのお姉さんは私と同じく国に専属する魔術師なんですが、私よりもずっと魔法の理解や見識に長けてとても聡明な方で、私にとっては師匠のような存在でして、現在は魔導修道院の方で生徒に教鞭を執っている先生でもあるんですよ」
「アルマの先生か、ククリコのお姉さんはスゴい人なんだな、いつか俺も会ってみたいな……」
話を聞きつつピクッと動くククリコと耳に目がいく。
「魔法を習得するのにも行く必要はあるので、勇者様も御用の際には是非立ち寄ってみて下さいね、私が動向すれば案内も出来ますので、必要に応じて地図にチェックマーキングもしますね」
「分かった、機会があるようならその時は頼むとするよ」
どうやらアルマの魔法の師匠でもあるらしく、いつもよりテンションが高いので憧れている感じなのかも。王国管理区にある【
名前は“ククリュカ”と言うようだ。
俺も魔法に興味はあるし、いつか会う機会もありそうなので覚えておこう。
そう言えば冒険者ギルドでも魔法を扱う専門の施設があるとか言ってたけど、どうやらこの魔導修道院の事を言っていたようだ。町を探索してた時にその施設の名前は既に聞き及んではいたけど、受付のお姉さんは名称とか、場所も含めて特に教えてくれなかったよな。
知っていたなら施設の名称くらい教えてくれても良かったのに、やっぱりあの眼鏡のお姉さんは少しおっちょこちょいな性格のようだ。
ピヨヒコは勝手に生やした失礼な設定を再認識した。
と色々と考えつつも視線はククリコの耳に釘付けなのだが……
「じぃー……」
「? さっきからこっちを見てるけどエルフがそんなに珍しくて気になるかな?」
流石に好奇の視線を向けられて不快に感じたのかバレたようだ。
「あ、いや、エルフがと言うか、その……」
「え、勇者様?」
そう言うとピヨヒコは無意識に体をククリコの側に寄せて、その右手を右隣に座ってたククリコの顔に伸ばして……その左耳を然りげ無く摘まむ。むにっ
「はにゃ!? ひゃっ……んっ」
「ななな、何してるんですか勇者様!?」
ふにふにふに、ぷにゅ
「あっ……やっ……はひっ……ひゃん」
「いや、何かその長く尖った動く耳を見てたらスゴく気になって、つい」
ククリコの耳を弄った感触はぷにぷに、と柔らかくお餅のような感触で心地良い手触りだ。
わぁ、すごい、なんだろう、何か癒される。
さわさわ、ふにふに……コリコリ
「はひっ、み、耳はその……んっ、敏感なので、は、離してください……っ」
「ハッ!? あ、いや、ゴメン!!」
その言葉を聞いてピヨヒコも、ハッと我に返り手を離す。
あれ? 何で俺はこんな失礼な事をしたのだろうか、もしかしてこれも背後に浮かぶ画面の中の少女の意思なのだろうか!? とか責任転嫁も考えたが、真相は定かではない。
つい条件反射の如く自然と手を伸ばして、耳を触ってしまったけど、もしククリコが女の子なら、普通に犯罪紛いのセクハラだ。いや、同性だとしてもかなり不躾な行為だけど。
何だかスゴく気まずい空気になったので、ククリコには悪いけどお茶を濁して話題を変えよう。
「……ゴホン、そ、そう言えばククリコはエルフだし、さっき会った鍛冶屋の親方はドワーフって種族らしいけど、この大陸には他にも色々な種族が居たりするのかな?」
「えー!? ぼくにあんな事をしておいて、まるで何も無かったかのように話題を変えるの!?」
「あ、いや、別にそう言う訳ではないんだが……チラッ」
「!!」
そんな質問を投げ掛けたら反発されたのだが、ククリコは耳が赤くなっていて、それを見られるのが恥ずかしいのか、手で両耳を隠しながら、なんとも言えない表情と視線をピヨヒコに向けて、ぷぅと頬を膨らませていた。なにその仕草、すごい可愛い。
と思ったがまた怒られそうなので口には出さない、表情に出そうになるのを堪える。
さっきのは自分が完全に悪いので、狼狽えていたら更に気まずい空気になった。
「……コホン、そうですね、ククリコのように長い耳と長寿が特徴のエルフに、火の民ドワーフ、あとはハーフビットと呼ばれる小人の様な種族も居ます」
「ハーフビット?」
それを見兼ねたアルマが咳払いをしてから答えてくれた。のだが、ピヨヒコに向ける視線は侮蔑を含んでいて非常に冷たい。なにその視線、めっちゃ怖い。
と思ったが機嫌を損ねそうなので口には出さない、表情に出そうになるのを堪える。
そのままアルマの話を大人しく聞くことにした。気まずい空気も少し霧散した。
「彼らは元々遊牧の民だったのですが手先が器用で銀細工や装飾、それに裁縫など、繊細な作業が得意なようで、この国では服飾と装飾品のお店などを営んでいますよ」
「なるほど、予備の着替えとかは欲しいし、そのお店もそのうち行くかもしれないな」
「他にもハーピアと呼ばれる、空を自由に飛び回る有翼人の種族に、武器や防具のの扱いに長けたリザードマンと呼ばれる種族も居ますよ、どうやら好戦的な種族なようで一族の掟や誇りを大切にしてる戦士の部族らしいです」
「へぇ、何か本当に色々な種族が居るんだな」
そう言われると確かにギルド酒場で楽しそうに仲間と話している小人のような種族や、強そうな武器を携えた蜥蜴のような風貌の冒険者、翼の生えた女の子とかも観たような気もするな……
そう思い返していたのだがアルマは更に話を続ける。
「それに海域を生活の基盤にしてるネプト族と呼ばれる種族も居ますね、彼等とは殆ど交流がないので詳しくは知りませんが、船での航海の際はマーメイドと呼ばれる半人半魚の種族の目撃情報や、交流したとかの噂も聞くのですが、彼等は魚人族とも呼ばれていて、ネプト族の系譜らしいです」
「
「それに蛙のような風貌のフロッグマンと呼ばれる種族も居て、彼等も一般的にはネプト族に分類されるのですが、この王国で商人をしているその種族の方は私も1人知ってますよ」
「フロッグマンか、何か容姿とか容易に想像が付くけどそんな種族も居るんだな」
「あと、それと……」
「それと?」
何か含みがあったので聞き返す。
「魔族が居ます、魔族は魔王が配下として生み出す魔物とはまた違い、内包する魔力量が他の種族と比べても高く、様々な魔術に精通していて、それこそ魔王軍の幹部クラスに位置する上位魔族は、その脅威度から他種族からは畏怖の対象として恐れられています、そしてそんな魔族を従わせて、統べる者こそが魔王、魔王は魔族の王なのです」
「魔王か……」
「そう、魔王、ぼくたち住んでいたエルフの王国もその昔に魔王軍の侵略の被害にあってね、そのせいで一族がバラバラになったんだけど、再び集まって長い時間を掛けて里として復興したんだよ」
「ふむふむ」
神妙な空気になったのでククリコも会話に入ってきた。魔王や魔族に対して憤りを感じてるみたいだが、先程の自分の失敬での微妙な空気も、どうやら払拭されたみたいだ。
「でもその際にはぐれエルフも多く輩出してしまい、今でも魔王軍の脅威に怯えながら、森とかで生活してる隠れ里が幾つかあるんだよね、それにせっかく復興したのに最近になってまた魔王軍の侵攻の被害にもあうし、臆病なエルフにとっては、とても生きずらい世界だよ」
「そうか、やっぱり色々な種族が被害にあってるみたいだし魔王の脅威は深刻なんだな、アルマも色々と教えてくれて助かったよ、ありがとう」
「いえ、お役に立てたなら良かったです」
「ぼくの方もちょっと愚痴を溢す感じになっちゃったね、でも種族間の問題は魔族に限らず、掘り下げると根深いからね、この王国には多様な種族が居るからトラブルもそれだけ多いみたいだし」
「なるほど、出来たら種族なんて関係なく仲良くして欲しいところだよな」
「それこそ魔王を倒す事が出来たら奪われた領土も戻るし、平和を望む声が増えれば、また以前のようなお互いを尊重する為の協定を結ぶ事も出来るかもだけどね」
「! そうか、それじゃ俺は自身の成すべき事を頑張るとするよ」
「ぼくも協力はするよ、なので御用の際にはまたポーションなど必要なものを買って下さいね」
「ああ、分かった、回復アイテムは今後も必須にはなるし、また利用させて貰うとするよ」
確かに、薬師のククリコや鍛冶屋のガラム親方も、魔王討伐の為に必要な回復アイテムや武具を作るにしても、研鑽に励み技量を培って貢献してるんだから、共に闘っているようなものだよな。
ちょっと話を誤魔化したつもりだったけど、思ったより深刻な話になって、魔王討伐の必然性と勇者としての責務をピヨヒコは改めて感じたので、決意を新たにする。
気まずい空気になったククリコとも、少しだけど打ち解けたようなので良かった。
エルフ耳を弄った破廉恥な行為もどうやら許されたようだ。今後は自重して、見るならバレないようにしないとだな。いや、何を考えてるんだ俺は、反省したんじゃないのか!?
どうやら耳を見るのを止めると言う選択肢が自分の中には無いようだ。しかしククリコを不快な気分にさせるのも申し訳ない、ならばせめてコソコソとバレないように見て、愛でようではないかと言う結論に達したようだ……あれ、もしかして俺って変態なのだろうか?
そう考えながらもククリコを見ると、たまに耳がピクッ、と反応するので、なんだか魅了されると言うか、やはりスゴく気になる。何だろうこの胸がときめく様な気持ちは……チラッ
「……っ!」
そんな視線にククリコも気が付いたのか、また少し身構えて警戒度を高めて両手で耳を隠した。
アルマもその様子を見て、再び軽蔑の視線をピヨヒコに向ける。
長居しずらい空気になったので、改めて謝罪してから店を後にした。
カランカラン♪ とそれでも来た時と変わらぬ音色を立てる店のドア。
しかしピヨヒコはこの短い間に自分の
あんな事するつもりは無かったのだが怒らせてしまった事を反省する。
次からはもっと巧くやらないと、いや、違う、ちゃんと反省しないとダメだ。
回復ポーション類は冒険の必需品だし、気まずい関係になるのは今後の冒険にも影響するのだが自業自得だ。しかしあの耳が、ピクリと動くあの魅力的な尖った耳がいけないんだ。
俺だからは悪くない! いや、流石にさっきのは俺が悪い!!
画面の少女に責任転嫁にしようともしたが、あれは明らかに自分の意志で取った行動なのだ。
ピヨヒコは自身の欲求と理性の狭間で自問自答して、支離滅裂になりながらも葛藤していた。
「勇者様、いくらなんでもいきなりあんなことしたらダメですよ!」
「うん、そうだよな、ゴメンなさい」
アルマにも注意され、しおらしく素直に謝るピヨヒコ。
「あの、えっと、ちゃんと反省してくださいね、ククリコは私の友人でもありますし、勇者様とは今後も仲良くしたいとは言っていたので、その気持ちを踏みにじらないでくださいね」
「そうだよな、アルマの友人に俺は何て事を……」
「いえ、ちゃんと反省してるなら良いんですけど」
「……ごめん」
少し言い過ぎたかもとアルマは考えた。だがそれは甘い考えだった。
ピヨヒコはアルマにも謝りながらも、あの柔らかい耳の感触を思い出した。
すると無意識に右手をワキワキと動かし表情が自然とにやけてしまった。
ククリコの動く耳は、それほどまでに自分の心を鷲掴みにして離さない不思議な魅力を持った、魔性の耳なのだ。そう、抗えないのだよ、ふふ、ふふふ。
そんな様子をアルマに見られた。その表情は呆れ返っている様相だ。
「勇者様、ドン引きです……」
まるで虫でも見るような目でそう
何かアルマにそんな冷たい目で見られると少しゾクゾクするんだが?
おっといかん、これ以上拗らせたらダメだ、本当に反省しないと。
それでも、いつかまたあの動く耳を触ってみたい。そうも考えていた。
ちなみに中性的な容姿で性別がよく分からなかったが、後日アルマに聞いた話だと、ククリコは“男の子”らしい。スゴい美少年だったなー……
◇
「これ絶対に後でドラゴンと戦う流れになるやつだよね?」
プレイヤーの桜子はそんな事を呟きながら、テレビの画面を眺めてた。
ゲームの登場人物やシステムの説明も、予想以上に多くて覚えきれなくなりそうだ。
それでも、あって良かったファストトラベル♪ これで移動はかなり楽になる。
それにしても思ったより個性的な主人公だ。記憶喪失って設定だから情緒不安定なのか?
と言うかゲームのキャラの個性付けに、性癖とかフェチ要素なんて必要?
それと弟も言ってたけど思った以上に設定が細かい。
武器の強化や属性の付与だけでもやり過ぎなのに、装備の耐久値に切れ味とかまで設定されてるとは思わなかった。あとは何だっけ、何か他にも管理が面倒な設定があるとか言ってたような。
えっと、そうだ、確か時間の概念まであるとか言ってたっけ?
確かに途中でお店の時計を確認して、時間帯を気にする描写もあったような。右端の上側に時刻を示す時計のアイコンもあるから、少なくとも午前と午後と夜に区分けされてる感じかな。
それとさっきの買い物で何か【家具】にカテゴリーされるガラスの置物とかも売っていたから、何となく一個だけ買ってみたけど、これ拠点になる専用のホームとか、後で手に入る感じなのかも。
拠点の改築やマイルールの模様替えとかもあるなら、出来る事はかなり多そうだね。
「うーん、取り敢えずストーリーが中々進まない理由は理解したわ、私はノベルズゲームも好きだから普通に楽しめてるけど、この仕様だと確かにとしをにはキツいかもだな、投げるのも頷ける」
データを引き継いでのプレイではあるけど、モチベーションはまだまだ高い。
この後は一度ギルドに戻ってから何か討伐メインのクエストでも受注しよう。
戦闘もしてみたいし敵をバシバシ倒して、レベルもどんどん上げたいところだ。
と、クエストに挑むのを楽しみにしているプレイヤーの桜子だが、このあとに待ち受ける数々の苦難の展開を、彼女はまだ知らない。
◇
▼α
プレイヤーの変更を確認。
名前は佐藤桜子、13歳 女性
特に問題ないのでそのまま経過を観測するものとする。
全体の進行度は3%未満、進行速度は遅れ気味と判断。
今後もこのペースなら多少の訂正が必要かと思われる。
報告は以上。
▲γ
了解(^ ^)ゞ
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