第8話 雑談配信

「はぁ、何か緊張してきた………手が震える」


 配信の準備を終えてパソコンの前に座ったみなとは何度も深呼吸を繰り返す。


「なんか昨日よりも登録者数が伸びてんだよなぁ」


 俺が就寝してる間き登録者は増え続け、その数は既に75万を突破していた。


「もうこんなにも待機してくれてる」


 配信枠を見ると既に3.7万人もの待機者がいた。


 遂に時間がやって来たので、覚悟を決めてlive配信開始をクリックした。


 画面に湊の姿が映る。


「み、皆さんこんばんは。ミナトの雑談配信へようこそ」


 脳内でイメージしていたセリフをなんとか言い切る。


 ”キチャアアアア!!”

 ”やっとかァ!!”

 ”はじめまして!”

 ”記事から来ました”

 ”改めておめでとう”

 ”こいつがウワサの奴か”

 ”こんちはー”

 ”待ってた!”


「Oh my gosh………」


 こんな爆走で流れるコメ欄は初めてだった。接続数がどんどん増えて行く。開始する前の時点で過去の俺を圧倒的に超えていた。


 ”急な英語で草”

 ”どしたどしたw”

 ”母国語か?”


 怒涛どとうのごとく流れていくコメントは数が多すぎて追い切れないほどだった。


 ”10万おめ”


「えっ?」


 ”ホントや”

 ”早いな”

 ”おめでとう!”


 ………10万? 何の数字だ……?

 貯金はもっと多いし。そしてふと同接数を見ると………


「は!? 同接10万!?」


 配信開始直後にもかかわらず表示されたその数字にぎょっと目を見開く。


 ”今気付いたんかw”

 ”時差凄いな”

 ”草”


「えっと、自己紹介します」


 ”急だなw”

 ”自己紹介待ってた”

 ”中々切り出せんかったんやな”


「普段、ダンジョン探索配信をメインにしてる柊木 湊です」


 俺は配信前、かなえから言われた通り素の感じで話していく。


 ”柊木 湊クンねφ(.. ) メモメモ”

 ”ありゃ、本名でいくんや”

 ”前までミナトじゃなかった?”


「う~ん、まぁ今更だから」


 あれっ、意外と普通に話せてる……。


 ”草”


「えっと、何を話せばいいか……」


 同接とかの事で驚き、頭が真っ白になっていた。


 ”獅子音リオン:この前は助かった”


「ん?」


 ”リオン来たァァァァァァァァ!!”

 ”まさか本人!?”

 ”本物だ! ”

 ”神回確定”

 ”マジか”

 ”獅子音リオン:助けてくれたお礼させて欲しい”


「あぁいやいや、気にしなくても良いですよ……」


 ”獅子音リオン:でも、それじゃ俺の気が済まないんだ”


「えぇ……」


 俺は困惑していた。まさか本人からこんなコメントがくるなんて……


「じゃあ……今度ダンジョン配信でコラボしましょう」


 ”獅子音リオン:それだけで良いなら……了解した”

 ”リオンとのダンジョンコラボ楽しみ!!”

 ”神回確定”

 ”これは期待できるぞ……”

 ”絶対見に行くわ”



「というわけで、諸々終わったんで、こっからは俺のことをもっと知ってもらえるように色々と質問に答えていこうと思う」


 獅子音リオンとのコラボがぬるっと決まり、湊は気を取り直して次の予定へと移行していた。


 ”獅子音リオン:質問会!”

 ”色々気になってた”

 ”リオンも見続けるんやな”

 ”ミナトって何者?”


「どこから話した方が良いかなぁ……まぁ最初からでいっか。」


 俺は頭をかき、記憶をさかのぼる。


「まずさっきも言ったけど、名前は柊木 湊、17歳。高校2年生。配信始めたのは2年前からだけど、ダンジョンに潜り始めたのは………いつだったかな……?」


 ”17歳ま?”

 ”高2でサイクロプスボコせんのかよ”

 ”獅子音リオン:まさかの同い年”



「たしか小2くらいの時に、友人とダンジョン潜ってたのがきっかけだったと思うけどなぁ……」


 ”………………”

 ”………………”

 ”………………”


 コメントが一瞬で静まり返る。


 あれ、壊れたかな。目の前のPCを揺らすも、反応はない。


「あれ? なんで反応ないんだ……?wifi切れた?それともマジで壊れた……?」


 うーん、と腕を組んで首を傾げる。叶に相談案件か………?するとピロン、と一つのコメントが入る。


 ”いつって言った……?”


「ん?小2」


 再びコメントが流れ始めた。

 但し爆速で。


 ”ふぁ!?”

 ”!?!?!?”

 ”小2!?”

 ”どういうこと? え?”

 ”つまり……何歳だ???”


 そんな驚かれる事言ったか……?もちろん、当時もダンジョンに潜るための許可書をちゃんと貰って行ってたし。かなえと毎日行ってたんだよなぁ。懐かしい。

 


 ”ここまで異次元だったとは”

 ”その友人もどうかしてんな”

 ”当時は何区域位まで行ってたん?”


「えっとね、当時は第4区域まで行ってたなぁ………かなっ、友人が強すぎてね、ホント頼りになる大きな背中だったなぁ」


 ”【速報】湊より友人の方が化け物”

 ”「かなっ」←???”

 ”小2で第4区域はマジの化け物”

 ”そんなにスキルが強かったんか……?”


「友人の光系統?のスキルはホントに強かったなぁ……気付いたら敵が斬れてて」


 ”そ~なんや”

 ”友人のも良いけど、湊のスキル解説キボンヌ”

 ”光系スキルはカッコいいな”

 ”小2で第4区域の敵瞬殺はエグいて……”


「あぁ、俺のスキル解説ね」


 ふと目にとまった質問を湊は拾い上げた。


 ”1番の質問だな……”

 ”それが知りたくて配信見てんだった”

 ”一旦、友人の話は終了な”

 ”マジで何のスキルなん?”

 ”スキル複数持ち?”

 ”『召喚』とか?”


 コメント欄もそこが1番気になっていたようで、コメント欄が再び爆速で流れていく。 


「召喚系スキルじゃないよ あとスキルも複数持ちじゃないし」


 ”複数じゃない ま?”

 ”じゃあ明らかに系統が違ったゴブリンのやつは何!?”

 ”召喚系じゃない……だと?!”


「俺のスキルは『ウザい広告に出てくるゲーム』っていう固有スキルで、複数あるように見えたのは、このスキルの中に色んなゲームが入ってるからだね」


 ”ちょっと待って、情報量多い”

 ”スキルが広告ゲー?どゆこと?”

 ”あぁ、あれはマゾサバとゴブ民って訳か……”


「おっ!コメ欄に有識者いるじゃんか!そそ、前使ってたのは『マゾサバイバー』と『ゴブリン民話』」


 ”あ~広告詐欺とか言われてるやつね”

 ”マゾサバは神ゲー定期”

 ”ゴブ民はマジで放置ゲーよな”

 ”有識者大量発生で草”


「そうなんだよ、マゾサバはマジで神ゲーなんよ。もうプレイし始めて600日突破したし」


 ”ガチ勢すぎる”

 ”あれって広告詐欺じゃねえの?”


「あぁ、あれはねちょっと詐欺ってるね。実際のプレイ映像流しゃあ、もっとDL数増えると思うんだけどなぁ」


 ”ちょっ、誰も触れてねぇけどスキルが広告ゲーってどゆこと?”


「あぁ、すっかり忘れてた」


 コメ欄に同士が居てついつい。


「俺の固有スキル『ウザい広告に出てくるゲーム』は、このスキルの中にあるゲームを選んで、そのゲームをプレイするっていう能力なんだよ」


 ”なるほど……”

 ”で、そのゲームがさっき言ってたやつか”


「そそ、でゲームによって性能が違ってくる。俺がよく使うのは『マゾサバイバー』だな。やっぱり安定の強さだし、何より実際にハマってるゲームだし」


 ”普通のマゾサバなら色んなキャラが居るけど、スキルだとどうなるん?”


「おっ、良い質問。」


 やっぱり同士が居ると話がスムーズで良いね。


「キャラもね色々居るんだよね。【コモン】以外のキャラはゲーム内特有のジェムを使って解放できるんだよ」


 ”ゲーム内通貨もあるんや”

 ”原作と同じやな”

 ”そのジェムはどうやって貰えるん?”


「ジェムは敵を倒すごとに貰えて、敵が強ければ強いほど貰える量が増えるんよ」


 ”へぇ~”


「あと、ミッション報酬とかでも貰える」


 ”ミッションもあるんや”

 ”充実してんな”


 配信開始から30分も経たず、同接数は10万人を突破。この配信を続ければその同接数はさらに増えるのではと思われたが、


『いきなり多くの人を前に配信したら絶対疲れるから。早めに切り上げたほうが良いと思うよ』


 というかなえからのアドバイスがあったので俺はそろそろ締めに入る。


「じゃあ少し早いけど次の質問が最後で」


 特に荒れることなく質問が一気に流れる。


 ”他は何のゲームが入ってるんですか?”

 ”どこかに所属してる?”

 ”ダンジョン探索の予定はありますか?”

 ”ギルドに入る予定は?”


 その中から締めにふさわしい質問を選び取った。


「ダンジョン探索は明日の10時くらいから配信する予定だね。俺のスキルは口で説明するよりも、見てもらった方が早い気がするし」


 ”早速の配信マジ感謝!”

 ”スキル解説込み配信wkwk”

 ”通知オンにしとこ!”

 ”明日は週末だし結構な人が見そうだな”

 ”絶対見に行くからな!”


 コメント欄も最後に大盛り上がりだ。 


「それじゃあ、今日はこのあたりで。見逃さないよう、よろしければチャンネル登録と通知ボタンを押してください。今日は見に来てくれてありがとう」


 ”締めの挨拶ある?”


「締めの挨拶って、Vとかがやるやつ?特に決めてないなぁ………じゃあ………おつらぎ~とか?」


 ”おつらぎ!”

 ”おつらぎ~”

 ”明日楽しみ!”

 ”おつらぎ!!”


 冗談で言ったつもりだったが意外と好評のようだ。


「………ふぅ」


 配信を終えた湊は一息ついた。


「なんとかやりきれたな……叶も言ってたけど、マジで疲れた。けど、」


 コメント欄に映る「おつらぎ」を眺めて自然と頬を緩めながら、


「楽しいな、配信コレ


 そして湊は風呂に入り、疲れを残さないよう、すぐベッドに潜るのだった。

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