第34話 お土産を買った

 帰れば必ず怒られるとわかっていると気が重く、尖った長い耳がシオシオに垂れ、本当に里帰りを辞めようかと本気にし始めたとき、旅商人が露店を構える一角で売られているナッツが目に入った。ピンときて、ついでに耳もピンと立った。

 ――これをお土産にしてやろう。

 ちょっとした悪だくみである。

 それは、この領地産ではない。ここから離れた、国内でも乾燥した土地で育つジュッツという名の木が付ける種。カボチャ程の大きな木の実で、皮が固く実がなくて振るとカラカラ乾いた音がする。音の正体は、中に入った沢山の種だ。その種がこのジュッツナッツ。乾燥させそのまま食べるのだが、1つ食べれば止まらなくなり気がつけば無くなっているという恐ろしいナッツである。

 高級品である白い砂糖がまぶされたものと、こちらも高級品の白い塩がまぶされたもの、それより安いブラウンシュガー、砕いた岩塩をまぶしたものがある。

 『白もの』と呼ばれる砂糖や塩は高価だ。海水から作る塩も、作物の絞り汁から作る砂糖も、多くの薪を使い、焦げないよう手間暇を掛けてできる。今は魔法道具があって大量の薪を使うこともなくなったが、手間も暇も掛かるのは同じ。海水から作られた塩も、砂糖も、貴族や豪商等の金持ちしか食べられないものだった。そこに国は目を付けた。金持ちしか食べられないなら、金持ちから税金を取ってやろうと。

 白い塩、白い砂糖に税金を掛け、ブラウンシュガーがピンク色の岩塩なんかは平民でも買えるように税金は掛けない棲み分けをした。

 平民との棲み分けが逆に貴族や豪商の虚栄心を擽り、白い砂糖、白い塩、イコール、高級品、色が付いた塩や砂糖は庶民のものというイメージが付いた。

 お土産にするなら、白い砂糖か白い塩がまぶされたものなのだろうけれど。

 どうせ捨てられるだけなので、なにも味付けされていない素のものを買う。お土産とは別に、自分用にはちゃっかり海水から作られた白い塩がまぶされたものを買った。砕いた岩塩よりも結晶が小さく、ナッツとの馴染みがいい、という高価かどうかではなく味で選んだものである。何しろ、金はそこそこあるので、これくらいの贅沢は気にしなくていい。


 大人しく待っていてくれている愛馬の為に彼女の好きな岩塩と林檎、白いものとブラウンシュガーの二種類の角砂糖をいくつか買う。リープソーは素直だし、お土産を喜んでいたくれるので頭の硬い同族よりも、よっぽど可愛い存在だ。

 買い物を済ませ、目についた飯屋に入って昼食をとる。しばらくは人間が作る食事は食べられなくなる、じっくり時間を掛けて煮込まれた赤身部分はスプーンで解けるほどホロホロで筋肉はとろっとねっとりなイノシシ肉のブラウンシチューに、こんがり焼けて外側カリカリ中がホクホクのベイクドポテト、バター香るサクサククロワッサンに、潰したゆで卵とパリパリ食感がたまらないキュウリが入ったマカロニサラダ、欲望のままに注文した。

 中々の量が見る見るうちに、見目麗しいエルフの口に吸い込まれて消えていく。見た目に似合わない豪快な食いっぷりに人間たちは静かに視線を贈り、幻を見たことにして自分の食事に戻っていった。


 周りの反応など気にもとめないノーカは、デザートに注文したニンジンのシフォンケーキを生クリームに絡めて食べ、消化を助ける効果のあるハーブティーを飲む。腹いっぱいの幸福感に満たされ堪能してききと、ふと、手紙の存在を思いだした。腹も心も落ち着いたところで、ポケットからおもむろに取り出しす。

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