あの山にダンジョンを築城しよう! ~命の実を守るために俺だけの城に引き篭もってやる~
敷知遠江守
第一章 計画
第1話 命の実をたくします
「これが丸亀城の石垣か! すげえ高さだな!」
これが算木積み。まるでレンガのように規則正しく積まれていて、独特の美しさを感じる。そしてこの異常な高石垣の高さ。そうかと思えば別のところでは野面積みという自然の石の形を活かした石垣もある。
休みを利用して丸亀まで足を伸ばして良かった。うどんは旨いし、鶏料理は旨いし。そしてこうして立派な石垣も見れたし。これでもう少し交通の便が良ければ最高なのに。
そんな事を思いながら三の丸を通り二の丸へ。所々に『虎口』と呼ばれる迎撃拠点があり、ここがかなり実戦を意識した城である事を実感する。今となっては石垣の上には塀が無いのだが、恐らくは当時は一面が塀で覆われ、無数の狭間が開いていたことだろう。
それにしても、どこも石垣が高い。石垣の近くに立つと遠くに瀬戸内海と丸亀市が一望できる。何と美しい光景なんだろう。
いよいよ本丸へ。
何だこの眺め! 最高じゃないか! 昔の丸亀藩の偉い人たちはこんな風に城下の民たちを見ていたんだろうな。下を見ると、その高さに思わず足がすくんでしまう。
「こんな城を設計して作らせるとか、生駒親正って人もさぞかし楽しかっただろうな」
ここに虎口を作って、ここで石垣を段にして。するとここで敵兵が足止めを受けて。そんな事を考えながらニヤニヤしながら絵図面を引いていたのだろう。なんとも羨ましい話だ。
ふと石垣から下を見ていると、この高さを写真に撮れないかという欲が湧いてきた。手すりに身を乗り出し、必死に手を伸ばして写真に撮ろうとするのだが、なかなか良い写真が撮れない。さらに一段上の手すりに乗って写真を撮ろうと手を伸した。
後方から観光客の団体の声がする。早く写真を撮って、場所を空けてあげないと。
もう少し、もう少しで良い画画の写真が撮れそう!
えっ?
何?
誰かが俺の尻を押した。
手すりに乗っていたはず靴から感触が失われる。視線が丸亀市街から急に遥か下の地面に変わる。
ゆっくり、ゆっくり――
地面が近づいて来る――
◇◇◇
誰だろう?
誰かが横になった俺の頭上に立っている。見上げても眩しくてその姿は良く見えない。
絹の服だろうか?
白銀に輝く衣装を身にまとい、足首だけ紐で縛っている。まるで神話に出てくる神のよう。
”先ほど言っていた、城を造りたいという気持ちに変わりはありませんか?”
なんて美しく透き通った声なのだろう。ほのかな香りが漂っている。何か酸味の強い果実の香り。どこかで嗅いだことのある香り。
”自分の城を思いのままに建ててみたいと望みますか?”
思い出した。これはザクロの香りだ。
何故だろう?
この女神の問いに本当に答えてしまって良いのか、もの凄く不安にかられる。
”そなたの死は、我ですら予期せぬもの。ゆえに我は、神としてそなたに慈悲を与えようと思う。その慈悲を受ける気はありますか?”
何という魅力的な誘いなのだろうか。子供の頃からの憧れだった城。それをこの女神はかなえてくれるという。
確かに極めて怪しい。だけど、どうにもこの誘いに抗えない自分がいる。
「はい。ありがたくお受けしたいと思います」
一面の光の先で女神が微笑んだ気がした。
徐々に光に目が慣れてきたのだろうか?
女神の背後に黄金に輝くザクロの木が見える。女神はその木から一つザクロをもいだ。
”これは『命の実』。これをそなたに授けましょう。この玉が輝いた時、そなたの城は終わります。この玉が輝かぬように、元の
ザクロは女神の手を離れ、ゆっくりと俺の胸の上に落ちてきた。その色は赤黒く、まさにザクロの実そのもの。
「どうやったらその色を保てるのですか? それを教えてくれない事には」
女神は目を細めて俺をじっと見つめている。眩しくてしっかりとは見えないが、その顔は微笑んでいるようにも見える。
”目が覚めたら、その玉を持って山道を上りなさい。そこでそなたが会う人物、その者が多くを知っていましょう”
え? どういう?
光が徐々に暗くなっていく。女神の気配がどんどん遠ざかっていく。
何故だろうか。記憶が……薄れていく……
◇◇◇
目が覚めると、そこは大きな木の根元であった。爽やかな風が頬を撫でる。
風が草を撫で、さわさわと軽快な戦慄を奏でる。それに木々の騒めきが重なり立派な曲として完成した。
頭上を見ると、ざくろがたわわに実っている。
俺はいったい、何でこんなところで寝ていたのだろうか?
なぜか妙にこのザクロに懐かしいものを感じる。
なぜだろう?
妙に喉が渇いている。
ザクロを取ろうとして、身を起こすと、胸の上からざくろが一つ転がり落ちた。ザクロにしては妙に黒い。さらに表面は何かで磨かれたようにつるつるとしている。
”元の
玉を掲げてみる。一見すると硝子玉にも見える。だがよく見ると、内部に煙のようなものが充満していて赤みを帯びた黒色に見えるのだという事がわかる。
周囲を見渡すが、どうやら荷物はこの玉一つだけ。
とりあえず、喉の渇きを癒すため、立ち上がって木からザクロを一つもいだ。口の中に強い酸味が駆け巡る。そして後味に爽やかな香りが充満する。
「んっ、酸っぱい!」
少し歩き、何故自分はこんな山の中にいるのだろうと困惑。これからどうしたものかと、呆然として周囲を見渡す。
”山道を上りなさい”
そうだな。とりあえずは山の上を目指してみよう。もしかしたらどこかで開けた場所が見つかり、そこから町が見えるかも。
だが周囲は高い木に囲まれている。闇雲に歩いていても、どちらが山頂方面かもわからない。このままでは遭難するか、何かしらに襲われてあっという間に死んでしまう。早く安全そうな場所を見つけなければ。
少し歩いていると小さなせせらぎを見つけた。ここにせせらぎがあるという事は、この流れの元が山の頂上方向という事になると思う。しかも喉が渇いたらこの水を飲めば良い。
これは幸先が良いぞ。
”そこでそなたが会う人物、その者が多くを知っていましょう”
せせらぎを辿っていくと、ぽっかりと木々が開いた一画があり、そこに一件の小屋を見つけたのだった。小屋の隣には菜園もあり、薪が積まれていて、明らかに生活の形跡を感じる。
もしかしたら山賊のアジトかもしれない。そう思いながら、慎重に小屋へと近づいていったのだった。
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あの山にダンジョンを築城しよう! ~命の実を守るために俺だけの城に引き篭もってやる~ 敷知遠江守 @Fuchi_Ensyu
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