【PV1000超え&♡500超え!!】嘘つきの旅〜It's an occult journey〜

ヒロキノ

第1話暗闇が明けて〜前編

 ガタン、と腹の底に響くような音が車内に跳ね返った。


「おいおい、パンクしてないよな?」


 草木しか無い道路が延々と続く。


「見渡す限り、生い茂る草木だけ」


 目の前に見えたガードレールをブレーキを踏んで速度を下げてハンドルを右に切って曲る。


 ガードレールから見えるのは霞からほんのり小さく見える木々。


「これは、落ちたら即死だな」


 位置が東京のままから動かないカーナビの時間をチラ見する。時計だけは普通に使えるあまり役に立たないナビだ。


「十四時……予定時刻の半分ってところか」


「こんなオンボロ車で旅をしてるなんて……イカれてるよ。ひろき」


 金糸のような髪を揺らす、十三ほどのワンピース姿の少女が「やれやれ」と隣で言いたそうに膝をついてる……コイツは自称神のヤタガラス。


こいつは神社で会って「俺の不幸が見たい」なんて言う理由で共に行動してる疫病神だ。


「いいじゃないか。旅はどんな形でも続けられてるんだから」


 そして、今話してる俺は木野 ひろき。24歳で仕事を辞めて日本横断を初めた男だ。


「だからといって手動式で窓を開け、カーナビも動かない車で旅なんて」


「物はどうあれ、死ななければ良いんだよ。死ななければ」


 それを聞いた、彼女はため息を吐く。


「別に、君の人生だし口出ししないよ。……ただ事故はしないようにね」


 彼女は前を指差す。


「え?」と口にして前を確認すると数十メートル先で横断歩道を赤なのに渡ろうとする老婆がいる。


「ほんとかよ!!」


 俺は慌ててブレーキを踏む。するとブレーキはガガガッ!!と嫌な音を立てながらすぐ止まる。


「ふぅ〜。危なかった」


 冷や汗をかいたことを実感しながら周りを見る。問題は叔母さんがまだいるかだ。


「もう、行ったか?」


 見回しても老婆の姿は見えない。それに、いつもなら目の端で誰か人がいるか確認するのだろうが……うん、少し道の駅で休憩を取ろう。


         ****


 車を走らせた先に有った道の駅で休憩を取った。

 有るものなんて地図と湿り気を含んだ古いトイレの臭いと、濁った緑の山並み、木で作られた手すりだけ。


「長野ってマジで山!山!山!って感じだな」


 そう思いながら木で作られた手すりに少し身体の重心を枠の外へ出す。


「おっ!川が有る」


 下を覗いた時に目に入ったのは透き通る翡翠色の水面が、静かに流れていた。


「確か、エメラルド色だと川は綺麗なんだっけ?」


「そうじゃ。川はエメラルド色だとキレイなんじゃよ」


 耳のすぐ後ろで、土の中から響くような声がした時、全身の筋肉が硬直し、股間が寒くなる。


「っ!」


 振り返ってみたが……後ろには誰もいなかった。それどころか、車一台も止まっていない。


「今の声は……」


 一体誰の声なのか……それを考えた時、鼓動が早まり、汗が出てきそうなのを肌で感じる。


(ここはヤバい!!)


 心の中で危機感を感じ、先程まで座っていた自分の尻の体温が残っている車のエンジンを掛け走らせる。


「あの声! それに……あのおばあさんも! 一体何なんだよ!!」


 もしかしたら、少し離れた所で車が止まってるなんて考え、少しバックミラーを確認してみたが、あの道の駅には車が一つも止まってなかった。


「だったら、さっきの声って!?」


「幽霊だよ」


 助手席でヤタガラスが、何かを察したかのように真剣な顔でバックミラーを確認してた。


「お前! なんで出てこなかったんだ!?」


 俺の問に対してこちらを鋭く透き通った水色の目で見つめ、ゆっくりと口を開く。


「君が、助けを求めなかったからさ」


「助けたら、来たのか?」


「助けたら? あの時キミは逃げると思ったから来なかった。それに、君が落ちでもしたら、ボクとしては万々歳だしね」


コイツ、死ねば自分の思い通りになると思ってとても意地悪い顔でニヤけやがる。


「……じゃあ、景品の変わりにお前の考察を聞こうか」


 それを聞いてもいつものらもっと嬉しそうに口角を上げるが、今回は真顔になりフロントを見つめる。


「あれは、この土地の霊だね」


「この土地の!?」


「ああ。まぁ、他人に悪さする霊ではないね」


「マジで?」


「大マジさ」


 それを聞いて筋肉が緩むのと心の緊張もほぐされるように息を吐き出す。


「良かった〜!! 悪い霊じゃ無くて」


 旅をしてるタイミングで取り憑かれたと考えると恐ろしい。取り憑かれなくて良かった事を安堵してるがヤタガラスの表情は眉一つ変わらない。


「何か、おかしなことがあったか?」


 「……キミが会った二人、呪縛霊だが、悪意を持ってる人物ではなかった」


「そういう幽霊っているんじゃないの?」


 彼女は小さく首を横に振る。


「人間は死んだら本来『あの世』に行くんだ」


「それは知ってる。『極楽浄土』……キリスト教とかの言い方的に『天国』ってやつだろ?」


「そう。でも、この世に残っているものは自分の死に気づいてないか、何か過去に憎悪を覚える何かがあったから残るんだ」


「あのおばあさんと声の主は悪意はなかったそう言いたいんだな」


 俺が出した答えを聞いて彼女は、やっと口角を上げる。


「答えを導けるようになったなんて、随分賢くなったじゃないか」

「バカにしてる?」

「褒めただけさ」

「ありがとう」

「どうしたしまして〜」


 って、何だよこれ、まじで今のやり取り我ながら意味がわからん!


「まぁ、くだらないことはさて置き、とりあえず、あの二人がどうして君の前に現れたのかは不明だし、何かを探してるようだった」


「まぁ、探し物が見つかると良いな」


「そんな呑気な話ではないよ。霊感が少し強いキミが見えるという事は相当念が強く残っている。しかも、老人はキミを死なせようとした。そんな事するの大怨霊や大呪縛霊に近い存在だ」


「大呪縛霊って人を呪い殺せるぐらいやばいってことか?」


「それ以上さ。下手したらそいつがいる土地は入ってはいけない人が禁足地になりかねない」


「つまり、俺は声の主に殺されかけた。悪意なく人を殺すとか、悪魔かよ」


 ガタン!っと車が鳴る。どうやら、裂けた地面を通ってしまったようだ。


「おいおい! パンクしたら困るって」


「まぁ、そうなったらその時さ。キミの死をボクは見届けるよ」

「縁起悪っ!」


 アイツの悪魔のようにニヤついてるのが個人的には癇に障るが……まぁ、今はそんなことよりも宿泊地まで運転することが優先だ。


「ところで、今日は何処に泊まるんだい?」


「今日はキャンプ場だ」


「宿にしなかったのかい?」


「宿よりキャンプ場が安かったからさ。オマケに100円払えばバンガロー付きだからお得だと思ったんだ」


「ちなみにいくらぐらいだい?」


「2400円。普通の相場は3500円」


「確かに、他に比べれば安い所だね」


「まぁ、車中泊もあるけど……今九月でも酷暑レベルだからな。まだバンガロー借りて暑さをしのぐほうが賢い」


 車中泊は今の時期だと夜も暑いし、窓を開けないといけないから虫も入ってきて地獄だ。


「安くて命の保証が有るに越したことはない。キミの選択ならば僕は否定しない」


「おいおい、死んだほうが良いんじゃないのか?」


 それを聞いてヤタガラスはムッとする。やれやれ、ガキかよ。


「まぁ、やばかったら助けてくれよな」


「実体のないボクに頼むのは違うんじゃないかな?」


「じゃあ、幽霊退治はお願いするぜ」


「……襲ってきたらね」


 因みに、最近こいつと旅を始めて一ヶ月ぐらいで思ったことだが……クソみたいな理由で付いてきてるが、口で言ってる割には人を助ける嘘つきだ。


      ****


  駐車場は砂利で白いラインを引いて作られたものだ。数メートル先にあった緩やかな木の階段を登りきった先にあったのは木で頑丈に作られた家……バンガローだ。


「ずいぶん立派な小屋だね」


「まぁ、宿だし。丈夫じゃないと駄目だろ」


 真っ先に目に付いたのは『受付』の看板がある小屋だ。


「いらっしゃいませ」


 扉を開けて鼻頭にカビ臭い匂いが入ってきたのと、初老、というよりかは50から60歳ほどのお婆さんが少し腰を曲げて頑張って立っている、虫の死骸が少し落ちてるボロい部屋が視覚に入ってきた。


「すみません、宿の予約をしたものです。名前は木野 ひろきです」


「木野さんですね……少々お待ち下さい」


 お婆さんは指に唾を付けてメガネを掛けて確認する。


「本日十五時からでよろしかったですか?」


「はい」


「では、すぐ案内しますね」


 鍵を取り出しヨボヨボと歩く。大変そうに歩くお婆さんの背中が何処か寂しそうに見えた。


 バンガローの説明を一通り聞く。


「以上ですが、ご質問ありますか?」


「特にありません」


「そうですか」


 お婆さんは、笑顔で答える。


「所で……ここはどういう経緯で選んだのですか?」


 おばあさんの唐突な質問に少し言葉を詰まらせる。そういう質問は先にしてくるはずなのだが、なぜこのタイミングで?


「……安かったからですよ」


 ここで探りを入れるために嘘をついてはいけない。寧ろ、素直に話したほうが好印象だ。


「それは、それは、ありがとうございます。ここは近くに川があって自然に囲まれ、良いところではあります。ですが、注意してもらいたいことがあります」


 お婆さんは、笑顔を崩してはいないが、空気が変わる。


「注意することは……なんですか? 」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る