パンツって貸すものだっけ?
ひよっと丸
第1話 冬は始まっているよ
「あちゃあ、降ってきてる」
昼休み、厚生棟にむかう連絡通路で外を見れば、ちらちらと白いものが舞っていた。やけに冷えるとは思っていたけれど、工場の中は巨大な機械が稼働しているから案外暖かなものなのだ。窓何て付いていないから、外の様子はこうして外に出るまで全く分からないのが常だ。
「積もるのかなコレ」
ドカジャンの前を必死に合わせながらそんなことを言ってきたのは同期の前橋だ。そんなに寒いのならファスナーをちゃんと閉めればいいだけなのに、たいていの人はそんなことをしない。寒い寒いと言いながら連絡通路を通り抜け、温かな厚生棟に向かうのだ。食堂の定番のカレーから、素うどん、日替わり定食と安さが自慢の社員食堂は、今日もなかなかの込み具合だ。
「寒いからうどんにカレーにしよ」
「いくねぇ、俺モツ煮と白飯」
がやがやと賑やかな社員食堂は、年齢も性別も入り乱れているから人気のメニューなんてあってないようなものだ。寒けりゃ温かな汁ものが出るし、月末は安くてボリュームのあるカレーが出る。サラダにかけるドレッシングは業務用が置いてあるからかけ放題だ。水もお茶もセルフだから、トレイの上はいっぱいになる。
「七味かけまくり」
「福神漬け祭り」
いい年してそんなことを言いながら気軽に食べられる。栄養バランスを考えたかったら定食を食べればいいだけだが、食べ盛りは安くて量のあるものを選びがちなのだ。
「なかなか降ってるよな」
社員食堂なのに無駄に大きな窓から見えるのは、敷地内の駐車場だ。色とりどりの車がびっしりと並んでいるのが見える。そこに白い小さな粒が舞い降りてきているが、アスファルトの落ちては消えていく。
「積もらねえんじゃね?」
「ま、この辺で雪が積もるの年イチもねえもんな」
雪が降って喜ぶ年齢なんて、誰もいないから、口から出るのは「積もらないよね」「スタッドレス履いてない」「冷えるよねぇ」なんてことぐらいだ。
「積もらなくてもアイスバーンにはなるかもな」
「それやばいじゃん。東北道の陸橋越えられねーよ」
「え?お前スタッドレス履いてねーの?やべーじゃん」
「今度の休みに履かせる予定だった」
「12月に履いてないとかないわ」
そんな会話をしながら昼飯を終え、二階の簡易コンビニでコーヒーを買って飲む。無駄に広いラウンジの窓から見えるのもやはり駐車場で、角度が違うだけで代わり映えのしない景色だ。
「てか、うっすら積もり始めてんじゃん」
二階の窓から見れば、車の屋根に雪が積もり始めているのが分かる。
「マジかよ。俺帰れないかも」
「宿泊所空いてるといいな」
厚生棟に宿泊施設はあるが、鍵付きのロッカーと二段ベッド、個室のシャワーがあるだけだ。
「布団、ペラ一枚なんだぜ」
「帰れなかったらそれでもましだろ」
そんな会話をしながら仕事場に戻った。
「積もってるぅ」
定時で上がって外に出てみれば、見事に雪が積もっていた。しかもフォークリフトに板を付けて除雪までしている。
「駐車場からは出られるね」
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パンツって貸すものだっけ? ひよっと丸 @hiyottomaru
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