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 術前カンファレンスの意義はこういうところにある。1人で手術するわけではないため、全体で症例について検討し、最適な手術方法と予想をしておく。念を入れ過ぎたとしても、それが無駄になることはない。予想外のことが多い人体の構造であり、予想をつけておくことや、トラブルシューティングをしておくことも大事なのだ。


 パソコン上に表示されている予定表には、明日はS状結腸癌が1例、ラパコレが2例となっている。自分はラパコレの執刀になっており、明日の9時から開始予定だ。

 産休育休が明けた赤坂先生も復帰したので、外科7人で手術を回すことができる。本当はもう1人いればもっと余裕ができるが、6人から7人になるのは地味にありがたい。研修医の先生は必ず1人以上がローテーションすることになっているので、悪性腫瘍の手術を並列で行うこともできる。緊急手術症例が来ても、なんとか対応できるメンバーがいるのがとてもありがたい。


「他、何か連絡事項や検討例ありますか?」


 金田先生が全員に確認した。中山先生が手を挙げ、「入院中の人、1人報告と相談いいですか」と切り出した。


「410号室の竹田さん開いてください」


 カルテを操作している長谷先生に声をかけ、病床マップを確認し、その人のカルテが開かれ、モニターに表示される。

「TAPP術後の人なんですけど、昨日消化管穿孔で緊急再手術したんです。TAPPの術中に癒着が酷くて、それを剥離したところだと思うんですけど」と続けた。


「小腸穿孔で、穿孔部切除と再吻合してきました。今日ICUからは出すつもりです」


「癒着があったって、何か前にオペ歴あったの?」


「40年前に胃潰瘍で広範囲胃切除してました。臍上までの正中切開だったんで、臍は大丈夫だと思ったんですが、意外と正中にベッタリと……。下腹部自体に癒着はなかったんで、そこの手術自体は何も問題なく終わってました」


 診療録を遡ると術前検討の記事の既往歴のところに胃切除後の文字と腹部創部についての記載があった。


 最近は鼠径ヘルニアについて腹腔鏡での手術が増えてきている。腹腔鏡自体は過去に開腹手術歴があると癒着の可能性が高く、2回目の手術となった際には選択されることは少ないが、傷の位置等を考慮して、臍近くが問題なければトライしてみることも多い。


 外来での記録も確認すると、リスクは高いが今回は患者希望もあり、腹腔鏡手術を選択した症例であった。

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