端末

 列に並ぶこと10分。


「お待たせしました。守護者協会カナザワシティ支部へようこそ! 早速ですが、こちらの水晶に触れて下さい」


 案内されたカウンターでは、数をこなすことを最優先にしているのか、こちらからの質問は一切受け付けないと言わんばかりに、説明をしてきた。


 俺は言われるがままに、ボーリングの球よりも小振りなサイズの水晶球に手を乗せた。


「はい! お疲れ様でした! こちらが、アオイ様の『端末』になります。操作方法についてはこちらの冊子をお読み下さい。当協会の説明なども『端末』内に保管してありますので、ご一読お願い致します――それでは、次の方どうぞ!」


 職員は一方的に腕時計のような電子機器と冊子を俺に手渡すと、こちらの意向など確認することもなく、話を打ち切った。


「おおぅ……強引だな……」


 カウンターから弾き出された俺は人の少ない通路の端へと移動し、『端末』を確認した。


 コレって時計型のスマホだよな?


 スマホと一口にいっても、時計型の他にもカード型やイヤホン型にレンズ型、旧式の板型といった様々な型があり、時計型は最も普及している型のスマホだった。


 起動方法は従来通りでいいのか?


 時計の側面にあるボタンを長押しすると、『端末』は期待通りに起動した。


 このままでは画面が小さくて確認しずらいので、『端末』を操作し画面と同じものをホログラム化し目の前に映し出した。


 画面には3✕3の合計9つのアイコンが並んでいた。


『【ステータス】、【地図】、【アイテム】、【クエスト】、【フレンド】、【クラン】、【ヘルプ】、【設定】、【ログアウト】』


 急にゲーム感が強くなったな。


 俺は、項目を目にし苦笑する。


 さてと、待ち人トラが来るまでスマホ……もとい『端末』を触って時間を潰しますか。


 俺は上から順番にアイコンを押してみることにした。


 【ステータス】


『名前  アオイ

 ライフ ☆☆

 ランク ペーパー

 Gr 0

 クラス ノービス

 HP  100/100 

 STR 10

 MAG 3

 VIT 10

 AGI 10

 DEX 10

 MEN 10


 ATK 40

 DEF 12


 スキル 千姿万態(1)


 所持金 0G


 装備品 千姿万態

     異世界の服

     ――――――

     ――――――

     ――――――

     ――――――  』


 よく見るタイプのステータス欄がホログラムで表示された。


 また、各項目をタッチすると、内容を教えてくれた。


 ライフ『この世界のみで通じる命の数』

 ランク『守護者協会の認定したランク』

 Gr 『グレード。格。積み重ねた経験と功績』

 HP 『体力。万全の状態を100とし、0になったら絶命する』

 STR『力。物理攻撃に影響を与えます』

 MAG『魔力。魔法全般に影響を与えます』

 VIT『生命力。一部状態異常及び受けるダメージ全般に影響を与えます』

 AGI『敏捷性。反応速度。命中と回避に影響を与えます』

 DEX『器用さ。生産及び一部スキルの冷却効果に影響を与えます』

 MEN『精神。一部状態異常に対する耐性及び魔法の冷却効果に影響を与えます』

 ATK『攻撃力。与えるダメージに影響を与えます』

 DEF『防御力。受けるダメージに影響を与えます』


 なるほど。


 ステータスの意味を確認し、わかったことがいくつかある。


 まず、この世界ゲームには『魔法』は存在するが、俗に言う『MP』は存在せず、クールタイムを採用しているようだ。

 そして、クールタイムは魔法に関してはMEN、スキルに関してはDEXの影響を受けるようだ。


 クールタイムに影響を与えるステータスが存在するというのは、面白いシステムだな。


 オンラインゲームというのは、攻撃=スキルになりやすい傾向がある。


 そうなると、最強の物理アタッカーを目指した場合、STR特化とDEX特化ではどちらが強くなるのだろう?


 いい感じに悩ませてくれるシステムだ。


 んで、気になるのは……Gr。


 Gr。説明を読む限り、グレードの略称だろう。内容を確認すると、『グレード。格。積み重ねた経験と功績』。


 積み重ねた経験と功績とは、経験値のことだろうか?


 そうなると、Grとはよくあるゲームでいうところのレベルだろうか?


 変なところでこだわりをみせてくるな……。


 まぁ、いい。次にいこうか。


 次に【地図】のアイコンを選択した。すると、地名とすでに歩いた場所が地図として登録されていた。


 今いる地名が『カナザワシティ』なのか……。てっきり『カナザワステーション』なのかと思った。


 各都道府県の県庁所在地にある駅が町として登録されているデザインなのだろうか?


 スケールはどのくらいだろ? 駅の構造みる限りは1/1スケールだけど、さすがにそこまで広大じゃないよな……?


 戦国時代の日本を舞台にしたMMOならプレイしたことはあるが……荒廃した日本を舞台にしたMMOか。


 コンセプトとして悪くない。楽しそうだ。


 次に【アイテム】のアイコンを選択したが、中身は空白ブランクだった。【クエスト】と【フレンド】も同様に中身は空白で、【クラン】に関しては『現在未所属です』とだけ表示されていた。


 【ヘルプ】を選択すると、ゲームなどでよく見るFAQが並んでおり、最後に【規約に同意した上で、チュートリアルモードとの同期をオンにしますか? 】という選択が表示された。


 チュートリアルモードというのは何となく意味はわかるが……同期?? 最新版のチュートリアルに更新するとかか?


 んー、んー、とりあえず、オンにしてみるか。


 ポチッとな!


『チュートリアルモードとの同期を開始します。リラックスした状態で『端末』を装着している腕を制止した状態にしてお待ち下さいませ』


 ――?


 まさかのワープでもするのか?


 俺は端末に表示された指示に従い、リラックスした状態で待機するのであった。

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