ライブオンライン〜約束された神ゲーは終末世界のチュートリアルでした〜

ガチャ空

ライブオンライン

 2055年1月19日、正午。


 昼休み、自分の席で友人と昼飯を食べいるとき――その声は突然、天より舞い降りた。


『――というわけで、チュートリアルは終了となります。


 えーと、コホンッ……


 愛しき子らよ。


 運命の日まで残り7日となりました。


 この世界を護りし守護者たる英雄たちよ。愛すべき家族を、友人を、恋人を――この世界を異世界の脅威から護って下さい。


 愛しき子らよ。


 変遷するこの世界でlive――生き抜いて下さい。


 険しき道を歩む愛しき子らに祝福あれ……』



蒼空そら、今の声って……」


 一緒に昼食を食べていた親友は驚愕の表情を浮かべ、

 

「蒼空くん……今の声は……」

「集団幻覚じゃないよね……?」

「ん。聞こえた」


 クラスメイトでもある3人の女子が、俺の席に駆け寄ってくる。

 

「ここって現実リアルだよな?」


 俺は級友たちからの言葉に間の抜けた質問を返す。


「だと思うが……」

「技術革新による大規模なアップデート。もしくは国家ぐるみの大規模なサプライズ……とかだと嬉しいが、ちょっと無理があるか」


 俺は妄言を口に出し、苦笑する。


 現実世界リアル仮想世界ゲームの境界が重なり合ったこの日、世界は未曾有の事態に巻き込まれたのであった。




  ◇




 2053年 11月26日


 とある広告があらゆる媒体に掲載された。


 妙に心を刺激する音楽、雄大な世界を舞台に冒険するリアリティ溢れる動画、そして最後に表示されるテキスト――


『【ライブオンライン】は日本を舞台に、次世代の技術を駆使した新しい形のMMORPGです。


 正式サービスへ向け、機能検証のため2054年1月26日よりプロトタイプテストを開始します。


 つきましては、100万人のテスターを募集します。


 下記の要領をご確認うえ、奮ってご参加下さいませ。


 ☆開催期間

 2054年1月26日〜2055年1月18日


 ☆応募期間

 2053年11月26日〜2054年1月20日


 ☆応募資格

 ① 日本国内にお住まいの方

 ② 10歳以上の方

 ③ すべての規約に同意いただける方


 ☆応募方法

 本サイトにアクセスし、すべての規約をご確認の上、応募フォームよりご応募ください。


 ☆★☆当選者には【ライブオンライン】にアクセスできる端末を無料で貸与致します☆★☆』



 ある者は、何度も掲載されることを鬱陶しく思い、


 ある者は、約束された神ゲーだと騒ぎ立て、


 ある者は、掲載された内容に不信感を抱いた。



「なぁ、蒼空そら! どうする?」


 肌寒い、この季節。昼休みの時間、天井の空調設備から流れる温風を感じてウトウトしていると、肩を激しく揺すられた。


「……虎太郎こたろうか。どうするって何を?」


 顔を上げると、幼馴染にして悪友の――真島まじま虎太郎こたろうの無駄に整った顔が視界に映った。


「ライオンだよ! 蒼空も当然応募するだろ?」

「ライオンって百獣の王かよ……ってか、ってことは……?」

「おうよ! なんてたって約束された神ゲーだからな! 俺はすでに応募済みだぜ!」


 ライオンとは恐らく昨日からネット界隈を騒がしている広告ライブオンラインの略称のことだろう。


「約束された神ゲーって……情報全然出てないだろ」

「いやいや、なんか凄いらしいんだって! 次世代どころか数世代先の技術を駆使したゲームらしいぞ」

「興味は惹かれるが……ライオンの広告ちゃんと見たか? 気になる箇所がてんこ盛りだろ」


 俺は自他ともに認めるゲーマーだ。次世代の技術というのも気になるし、何より広告をクリックすると流れるPVからは神ゲーの匂いがぷんぷんとしたのだが……妙に引っかかる箇所が幾つか見受けられた。


「気になる箇所? 無料のβテストだろ? つまんなかったら辞めれば良くね?」

「簡単に言うなよ。虎太郎は……一応プロだろ?」

「一応ってなんだよ! こちとら正真正銘のプロだっちゅーの! んー、なんていうか……チームの了承ももらってる」

「へぇ。そうなのか」


 虎太郎は高校生にして、プロチームに所属するゲーマーだ。

 

 俺が驚いたのは、虎太郎が真面目にチームに報告したこと。そして、チームがそれを了承したことだった。


「で? 気になる箇所ってどこよ?」

「まず第一に開催期間」

「ふむ」

「開催期間は1年間。プロトタイプテスト――要はβテストだが、1年は長すぎる」


 βテストの期間は、通常であれば1〜2週間。何回もテストを重ねて、合計で1年間を超えることは稀にあるが、1回のテスト期間が1年間というのは長すぎる。


「言われてみれば、そうかもな」

「次に年齢。10歳から応募可能というのも珍しい」

「18歳以上ってのが多いわな。まぁ、お陰で17歳の俺らでも応募できる御の字じゃね」

「ポジティブに捉えるとそうなるが、10歳――子供向けのゲームの可能性もあるな」

「PVを見る限り、子供向けには見えなかったけどなぁ」

「まぁ、他にも募集人数が多すぎるとか……製作メーカーが不明とかツッコミどころが盛り沢山だが……」

「蒼空……そんなに細かいことばかり気にしていたら、ハゲるぞ?」

「細かくねーよ!」


 俺は同情的な視線を向ける虎太郎に、声を荒げた。


「落ち着けって。ライオンはテレビCMも流れてるんだぜ? それに俺だって馬鹿じゃない。他にも下調べはしてあるぜ!」

「下調べ?」

「うむ。色々と声を拾ってみると、蒼空みたいに疑り深い輩は本当に多くてな……」

「疑り深いんじゃなくて、普通だから」

「まぁ、聞けって。調べたところによると、国とか市町村のホームページにもライオンの広告が掲載されてるのよ」

「は? 公共のホームページに広告は掲載されないだろ」

「そう思うだろ? でも、これ見てみ」


 虎太郎がそうやって差し出したスマホには地元金沢市のホームページが表示されており、たしかにライブオンラインの広告が掲載されていた。


「いいのか?」

「そう思うだろ? 問い合わせた人が言うには問題ないらしい」

「知り合いなのか?」

「ソースは例の如く匿名掲示板だな。返信メールのスクショ画像もあったから、信憑性は高いと思うぞ」

「ソースは匿名掲示板かよ」

「他にも運営は日本政府なんじゃね? って噂もあったな」

「なんでもありだな」

「ハッハッ、違いない。で、どうよ……蒼空の気になる箇所は全部解消されたか?」


 悪友こたろうはニカッと笑いドヤ顔を決める。


「虎太郎は規約読んだか?」

「いや、あんなの読むやついねーだろ」

「いやいや、同意にチェックする前には目を通すだろ?」

「えー!? で、規約に何かヤバいこと書いてあったのか?」

「ヤバいというか……あり得ないことが書いてあったな」

「ほぉ?」

「今回のβ版のデータは引き継ぎされるんだって」

「え? マジ?」

「マジ、一部らしいけどな。コンシュマーの体験版なら引き継ぎはよくあるが、オンラインのβテストで引き継ぎはあり得ねーだろ」

「だな……。でも、引き継ぎされるなら……余計にβテストに参加しないと不味くね?」

「まぁ、そうなるな。しっかし、製品版の時点でスタートから差が生じるって……大丈夫なのか……この運営?」

「んー、で、結局どうすんの?」


 若干疲れた口調の虎太郎の問いかけに、


「応募しようかな」


 応募することを告げたのであった。


――――――――――――――――――――

(あとがき)


お読みいただきありがとうございます。


2025/1/31までは下記の日程で更新を予定しております。


12月26日から28日まで2時間毎に投稿。

12月29日から1月4日まで毎日0時、12時、18時に投稿。

1月5日から1月31日まで毎日12時に投稿。


面白いな! 続き気になるな! など、お気に入りいただけましたなら、ブックマークと下の★をポチッとな! と応援いただけましたら幸いです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る