追放ものまね師

之雪

第1話 追放


「ショウ、話がある」

「なんだよ、改まって」

「お前は……クビだああああああああああああああ!」

「なんでだよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」


 パーティーのリーダーであるサイラスから突然のクビ宣告を受け、俺はびっくり仰天した。

 さてはサイラスお得意のちっとも笑えないギャグかと思ったが、ヤツの顔はマジだった。

 本気で言ってるのか。できればギャグであってほしかった。


「……理由を聞かせてくれ」

「分かった、言う! 言うから両手で首を絞めるな! ぐええええ!」


 おっと、無意識のうちにヤツの首を全力で絞めていたぜ。失敗失敗。

 俺が渋々と手を放すと、サイラスは喉を押さえながら「殺す気か」とか呟いていた。よく分かったな。


「理由は単純明解、お前が不必要な人間だからだ!」

「なんでだよ! 俺って超便利で使えるヤツだろうが!」

「ぐええええ! だから首を絞めるなあ! ひいいいい!」


 サイラスの顔が紫色になったので手を放してやる。

 ヤツは怯えた目を俺に向けながら、説明をした。


「お、落ち着いて聞け。確かにお前はレアな職業だし、便利なスキルも持っている。これまでは割と役に立っていた」

「それ見ろ。だったらクビにするより報酬を上げろよコノヤロウ」

「これまでは、だ」

「えっ?」


 首をかしげた俺に、サイラスは真面目な顔で告げた。


「パーティーメンバーがみんな低レベルのうちは重宝した。だが、全員のレベルがかなり上がってしまった今となっては、はっきり言って、お荷物でしかないんだよ。『ものまね師』なんかいてもな」

「そ、そんな……!」


 そう、俺の職業は『ものまね師』。超絶レアなジョブだ。

 特殊スキルである『ものまね』を使用する事により、パーティーメンバーの誰かと同じ能力を使えるようになる。

 たとえば、直接攻撃が有効なモンスターと戦う際には戦士系の仲間の能力を、魔法攻撃が有効な相手の場合は魔道士系の仲間の能力を使えるようにすれば、戦力が二倍になるというわけだ。

 俺のおかげでここまでやってこられたというのに、レベルが上がったからってお荷物扱いだと?

 なんて言いぐさだ。それでも血の通った人間かコイツ。


「それにほら、通常は四人パーティーが基本なのに、俺達は五人もいるだろ? 人数的なバランスがよくないんだよな。食堂なんかでも五人掛けのテーブルって滅多にないから席を確保するのが大変だし」

「そんな理由で!?」


 俺は頭に来たが、どうやらもう、俺がクビになるのは確定事項らしい。

 その証拠に、他のパーティーメンバーは誰一人として反対しない。

 みんな、サイラスの意見に賛成なのか……。


「悪いな、ショウ。そういう事なんだ」

「……退職金はもらえるのか?」

「あ、ああ。今まで戦ってくれた分の感謝を込めて、それなりの額を用意しよう」


 俺がもっとごねると思っていたのか、金の話をした途端、サイラスはホッとした様子だった。

 まあ、正直言うと納得なんか全然していないんだが……下手に揉めてもロクな事にはならないだろう。

 ここは俺の方が折れてやらないとな。


「……今まで世話になったな」

「お、おう。お疲れさん」


 俺が右手を差し出すと、サイラスはその手を取り、握手を交わした。

 パーティーメンバーに一人ずつ声を掛け、俺は全員と握手を交わしておいた。


「元気でな、マッスル」

「ああ。筋肉を鍛えろよ」


「じゃあな、スカーレット」

「ふ、ふん、せいせいするわ! ……元気でね」


「またな、セレナ」

「ううっ、どうか、お元気で……」


 泣いてくれるのは僧侶のセレナだけか。さすがに慈悲深いな。

 俺がちょっぴり感動していると、サイラスが身を寄せ、小声で囁いてきた。


「騙されるなよ。お前をクビにしようって言い出したのはセレナなんだぜ」

「なっ……う、嘘だろ?」

「マジだ。五人だと分け前が減るから一人減らそうとか言い出して……みんなは反対しきれなかったんだ」


 セレナをチラッと見てみると、目尻に浮かんだ涙を拭い、ニッコリ微笑んでいた。

 そういや、妙に金銭面でシビアなところがあったな……事実を確かめるのが怖くて訊けないぜ。



 こうして、パーティーを追放された俺は、晴れてソロの冒険者となった。

 仲間達と別れ、一人きりになった俺は、天を仰ぎ、そして――。


「ふふっ、ふふふ……あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!」


 込み上げてくる笑いをこらえきれずに、爆笑してしまった。


 ふふふ、馬鹿どもが! パーティーをクビになった俺が、ショックで意気消沈するとでも思ったか?

 むしろ計算通り! クビにしてくれて助かったぜ!


 『ものまね師』というのは仮の姿。俺の本当の能力は『ものまね』なんかじゃない。

 そう、本当の能力は……『スキルコピー』なのだ。

 というか、レベルを上げていくうちに、能力が『ものまね』から『スキルコピー』にレベルアップしたんだ。

 なに、『ものまね』とどこが違うのかって? 

 これが全然違うんだよな。


 『ものまね』はあくまでも一時的なもの。その場にいる人間の能力しか使えない。

 だが『スキルコピー』は違う。他人の能力をコピーし、ストックしておく事ができる。

 つまりオリジナルがそばにいなくても使えるし、コピーすればするほど使えるスキルが増えていくのだ。

 コピーする条件はたった一つ。スキルの持ち主に直接、手で触れるだけでいい。


 触れた時点での能力をコピーするので、なるべく最新の状態で対象者に触れておく必要がある。

 別れる前にパーティーメンバーと握手を交わしておいたのはそのためだ。

 あいつらの能力は全てコピー済みだが、以前にコピーした時よりも使えるスキルが増えているかもしれないからな。


 そんなわけで、今の俺は、パーティーメンバー全員分の能力を使えるようになっている。

 最強のSランクパーティーの……いずれ魔王を倒してこの世に平和をもたらすだろうと言われている、勇者パーティーのスキルをまとめてコピーさせてもらったのだ。

 俺一人で、勇者パーティー四人分の能力! もはやこの世に敵なんていないんじゃないか?

 退職金ももらえたし、しばらくは遊んで暮らせそうだな。

 もうモンスターや、魔王軍やらと命懸けの戦いなんてしなくてもいいんだ! 


 さて、それじゃ、どこかのよさげな土地に家でも建てて、のんびり暮らすかな。

 世界の平和は、俺が抜けた勇者パーティーがどうにかしてくれるだろう。

 俺は戦いなんかとは無縁の場所で、スローライフってやつを満喫させてもらおう。

 ふふふ、あははは! いやあ、愉快愉快!



 ――勇者パーティーが全滅し、世界中の国々が魔王軍によって占領されてしまったというニュースが流れたのは、それからしばらくしてからだった――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る