第4章 第3話 兆し

襲撃の翌朝、カルの家は異様な静けさに包まれていた。


壊された窓や散乱した家具は、昨夜の出来事が現実だったことを痛感させる。


カルは肩の傷を手当てしながら、家族の顔を見回した。



両親は青ざめた顔で床を掃除しており、兄は不安げに何度も外を窺っている。




「昨日の奴ら、ほんまに引き上げただけなんかな…」兄が呟く。



「わからんな。でも、奴らがただの一般人じゃないことは確かやな。」


カルは肩を押さえながら答えた。



その時、玄関のチャイムが鳴り響いた。



全員が一瞬硬直する。



「カル、誰か来たで。」

兄が小声で言いながら木刀を構える。




カルは慎重に玄関に近づき、扉の向こうを覗いた。



そこにはスーツ姿の東田(ひがしだ)が冷静な表情で立っていた。


カルは息を飲んだ。


ご存じの通り東田はカルの上官であり、東京三鷹支部長も兼任する伝説の魔導士である。



「カルさん、昨夜の件は報告を受けました。怪我は大丈夫ですか?」



カルは一瞬「なんでその事を知ってるんだ?」と驚いた。




「なんとか…それより、あの連中について何か知ってるんですか?」


東田は一瞬言葉を詰まらせたが、すぐに真剣な表情で話し始めた。


「我々もまだ完全には把握していないのですが、最近大阪市部内の『額田(ぬかだ)派』と呼ばれる派閥が動き始めているみたいですねぇ。昨夜の襲撃は、彼らの仕業の可能性が高いかと。」


「『額田派』…?」カルはその名を聞いて眉をひそめた。


「危険な魔導士と言うのは何も闇の魔導士会(ブルーショシュ・ダーシュ・トゥリェーヴァシュ)だけではありません。

我々「光陣営」にも危険思想の持ち主がいるのです。」


東田はさらに言葉を続けた。


「カルさんのご自宅を狙った理由はまだ不明ですが…昨夜の指揮を執っていた男、炎の槍を操る魔導士についての情報が入りました。」


カルは息を飲む。「彼は何者なんですか?」


「彼の名は『クロウ』。かつて大阪支部に所属しており現在は岡山支部に移った魔導士なのですが、どうやら額田派として暗躍しているようです。」


カルは拳を握りしめた。

額田と言えば大阪支部長の「あの額田」しか思い浮かばない。


「額田さんって大阪支部長の…?」カルは恐る恐る問いかけた。


「まさにあの額田さんです。

私は闇の魔導士会(ブルーショシュ・ダーシュ・トゥリェーヴァシュ)の監視ももちろんですが、それに加えて額田さんの監視も兼ねて定期的に東京支部から様子を見に来ているのです。」



自分の師匠だったイェシカのみならず、大阪支部長の額田までもが危険思想の持ち主だったとは、、、



「奴らがまた来る可能性は…?」



「高いでしょうね。特にカルさんが“怨獣化”できることが、彼らにバレてしまった様ですからねぇ。」

東田は厳しい表情でカルを見据えた。



カルは「そんなバカな」と漏らした。



「彼らは純魔導士主義者。

つまり、生まれつきの魔導士でなければ生きている価値がないと言う極端な思想を掲げています。

彼らに言わせれば途中から魔導士になった者や鍛錬によって成り上がった者はニセモノとのことです。

ましてや闇陣営が使う怨獣化や人工魔法は彼らにとって禁忌。

全て地の力でなければならないそうです。」



カルはその言葉を重く受け止めた。

純魔導士主義者の思想はそのまんま白神(しらがみ)の思想である。


「わかりました。僕も…奴らと正面から向き合います。」


東田は頷き、立ち上がった。


「では、詳しい話は後日で。今日はこれで失礼いたします。闇の魔導士や怨獣だけでなく同じ『光の魔導士』ともこれからは戦わねばなりません。」


彼女が去った後、カルは自分の部屋に戻り、拳を見つめた。


「純魔導士主義者…次は負けない。」


その言葉は静かな部屋に響き、カルの胸に新たな決意を灯した。

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