総力戦4


 爆音が鳴り響き、戦場とかした古の公邸。


「投げて、投げて投、げてください! どんどんいっちゃって! 登らせないで! 壁に近づけさせないでくださいよ!」


 古の戦場には無かった新しい兵器によって飛び散る礫。


「はっはー! おー破壊力ぅぅっ! こりゃ今日で地図が変わっちまうぜぇ!」


 閃光と衝撃にも恐れを抱かず漫然と進み来る亡者の群れ。


「肉は腐り掛けが一番うまいけど――これは煮ても焼いても無理だよな」


 もう二度と立ち上がれない、決定的なまでに弾け飛ぶ腐肉。


「見事な威力! これがイライザ様の新たなる兵器の威力か。投げろ! 休まず放り込めっ! この爆弾でイライザ様を勝利に導くのだ!」


 戦闘が始まってから既に半刻。

 未だ眼前には地を埋めつくすアンデッドたち。

 ただの一匹も城壁に取り付くこともなく。ただただ爆音と閃光へと向けて散るためだけに前進してくる。

 戦果は上々、残弾も大量であれば希望も沸く。

 気分は高揚、それは貴公子たちだけでなく、使用人たちも同じだった。


「次!」

「はい」

「右手、あそこです。突出してます!」


 最初は脇に箱を置いて投げていたのが、今は弾を渡す係と投げる係で分けて。

 更には狙うべき場所を見る係まで置いている。


「箱回収します。少なくなったら申告お願いします」


 箱のマネジメントも想像を越えている。集積所を設けて、箱を配給する。空き箱も投げ捨てることを想定していたが、しっかりと回収している。

 この後のことを考えた行動。

 ここまで組織だって動くことが出来るとは思ってもみなかった。

 使用人たちの間にある連帯と信頼を見誤っていたようだ。あまりここの使用人たちには長などを決めずに任せていたというのに。


「やあ、こっちもいい調子だね。皆も良くやってるよ」


 それは学者ジェルジのお陰も大きい。

 テントを設営し野戦病院を用意。その後も使用人たちと相談を続けていたようだ。けが人を癒すだけでなく、けが人が出ないよう――それが仕事だと言わんばかりに。


「――持ち場を離れるな」

「といっても、けが人が居なくて手持ち無沙汰なんだよね――うわっ凄い音だ。近いと耳が痛いや。まあ大丈夫そうならいいんだ。戻るよ」


 私は学者ジェルジに対応をしなかった。目線もくれずに――まさに無視した。

 なぜならば私の目は虚空を睨みつけてたから。空一面に広がる雲を。山に掛かれば大雪になりそうな厚さと黒さ。それでありながら晴れる寸前の空を。

 眼下に起こる爆発と閃光をよそに。

 アンデッドたちが迫りくることも忘れたように。


「来たわ」


 先に見つけたのは私だった。


「――何が」

「上よ」


 雲が割れた。

 隙間からそれが、流れる星のようなそれが現れた。

 覗いた青空から、遥か天上より来たる赤い――炎。


――予想通りだ。


 アンデッドで押しきれないならば撃って来ると思っていた。

 そのためにこれみよがしにもっとも目立つ場所に立っているのだから。


「なんだあれ」

「おい、こっちに――」

「落ちて――来るぞぉっ」

「あれもアンデッドの攻撃?!」

「イライザ様っ!!」


 使用人も気付き始めた。

 上に注意が向き爆音に翳り――故に吠えた。


「うろたえるなっ!! たかがあの程度の炎――この私の二つ名を忘れたかっ!」


 それは確かに向かってくる。

 それも私にだ。

 この”氷の”と渾名された私に――炎など。


 ぎりぎりまで引き付ける。城門の上、身体三つ分ほどまで、熱を感じる距離までも引き寄せてから両手で冷気を撃ちだす。

 迫る火炎弾は人一人よりも大きな弾。対して冷気弾は小さく出した。拳二つ分ほどの小さなもの。

 ぶつかる炎と冷気。

 小さな冷気を包み込み、消し去ろうという炎。

 勢いを増したように大きく膨れ――爆発。

 飛散する温い水滴、煙る熱い蒸気が静まれば――そこにはただ青空だけ。


「おおっ」

「――まだだっ!」


 第二陣は計三発。

 それも同じ要領で良かった。

 相手の大きな火炎弾に対して、こちらは小さく冷気弾を撃って相殺し爆発させる。


「――また来る」

「ひぃっ! こ、今度はあんなに――!」


 第三陣――十発ほどの火炎弾を見て不意に頬が綻んだ。


――やはりそう来る


 残念ながら私の魔力はあの狂信者に負けている。認めざるを得ない圧倒的と。

 だから物量で押してくるはずと――


 けれども相手は”火”だ。

 火が燃え続けるためには、燃えてくれる物が必要だ。

 燃えるものを中心にして火炎弾を作っていないのは一発目で分かった。

 ならば、火を燃やし続けるためには魔力を消費し続けていることになる。挙句空中で方向を変えるという操作までやってのけるのだから、消費量は甚大なもの。

 並みの魔法使いなら一発だって撃てはしない。

 火炎魔法とはそれだけ燃費が悪いのだ。


 だから限界まで引き寄せて落とせば、消費魔力の差は歴然。

 幾ら差があろうとも、幾ら圧倒的な相手であろうとも、必ず逆転する。


 そして魔力が減る。魔力を節約しようとすれば取れる行動はただ一つ。


絵師イストバン! 必ず奴は顔を出す。近づいて魔法を撃とうとする。見つけて頂戴。魔法の出所を――アンデッドてない敵を――術士を探すのよ!」

「――ああ」


 そこを撃つ。

 これだけの数のアンデッドを操り、このレベルの炎の魔法を操る。挙句にあの神聖魔法の精度と効果。

 だからこそ神の尖兵は王を撃ち、軍を破ってこれたのだろう。


 ならば身体能力はどうだ?

 近接戦闘は得意か?

 魔法でなく物理ならどうだ?


 そこに勝機はある――と思っていた。


「――まだだ、来るぞ」

「なんだ――あれ」

「世界が――終わるのか」

「おお、主よ」


 空が一面見渡す限り赤く、一層強く輝く。

 夕焼けよりも真っ赤で、夏の太陽よりも眩しい。

 雲を突き破り、次々と降り注ぐ炎はどこか神秘的ですらある。

 それはまさに神話に読まれる終焉の空のそれ。


 祈りたくなる気持ちは分からないでもない。


「愚か者ども! 聞け! 祈るならこのイライザに祈るがいいっ!」


 けれども私は笑った。

 完全の思惑通り。これだけの魔法を行使して無理をしていないはずもない。

 後は受け切ればいい。

 これをすべて受け切ればいい。

 受け切れるのであれば――それで――


「ならば――この魂削ろうともぉぉっ!」


 自らの持てるすべての力を、自らの持つ魂からまでも――

 全身全霊。文字通りのすべてを燃やし魔力へと。

 欠片一つも逃さず、すべてを込めて冷気弾を撃ち続けた。


「おおおおおおおおおっ」


 不細工に叫び声を上げようとも。

 口の端からよだれをまき散らそうとも。

 股の間から尿を垂れ流そうとも。

 魔力を使い過ぎて指先の皮膚が剥がれ落ちようとも。


――撃ち続けた。


 いつしか火炎弾は尽き。耳を澄ませど爆音はない。

 吐いた血反吐も乾き、張り付くような目蓋に涙があふれ。

 取り戻した視界で辺りを見渡せば、呆然と立つ貴公子プリンスたちと使用人。誰の目もある一点を見ていた。肩で息をして、手を止め、汗を拭うのも忘れて立ち尽くしていた。


「あれは――?」


 破れた雲から覗いた陽の光がカーテンのようになって壁の外だけを輝かせる。

 露わになった地獄絵図、死屍累々のアンデッドの向こう。

 少女のアンデッドたちを従え、光を集めるように輝く鎧の者。


「ようやく辿り着いた」


 古錆びた鎖を編んだ鎧を着て。

 血で薄汚れた十字のシュールコーを纏い。

 天輪を頂く兜を付けた。


――神の尖兵



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