いわくつきの骨董姫 ~花郷付喪神蒐集帳~

茶柱まちこ

一章『骨董姫と喧嘩煙管』

序章

 その日、私は自分の家から家財が運び出されている光景を目の当たりにした。

 働き蟻たちが行列をなして、落ち葉などを巣に運んでいくように――知らない大人たちが、他でもない私の家から、勝手に物を運び出しているのだ。

 あまりにも突飛な光景に、夢かと目をこすってみるけれど、残念ながら現実に起きていることらしい。


「何してるの! どうしてうちの物を持っていくの!? やめて!」


 必死に叫んで止めようとするけれど、誰も私のことを意に介さなかった。

 当時八歳の私の力では、大人たちの行動を無理やり止められるわけもない。

 私の友人にも等しい家財かれらが、目の前で次々攫われていく。


「やめて、もう持っていかないで……! 奪わないでよお……!」


 その場に泣き崩れる私の肩を、誰かがそっと叩く。


「止めてはなりませんよ、珠希たまき。お前の父母はもういないのです。いなくなった人間の物を残しておいては、邪魔で仕方ありませんからね」


 諭すような声のするほうへ振り返ると、そこには優しく微笑みかける叔母がいた。

 天女のように柔らかな笑顔を浮かべる叔母に、


「どうして……? どうして、そんな酷いことを言うの……?」


 と、嗚咽をもらしながら言う私。

 すると叔母は、珠希の小さな体を抱きすくめながら、耳元でそっと囁いた。


「この家はもうわたくしのもの。だから、この家にいたお前も、すでにわたくしの財産なのです」

 

 悪魔のような残酷な囁きに、私の体が瞬く間に凍りついていくような気がした。


「いや……! 私、叔母様のものになんかならないっ! なりたくない! 離してえぇっ!」


 じたばた暴れるけれど、その甲斐もなく――叔母は嫌がる私を無理やり引き取った。

 その後まもなくして、私は文字通り――彼らの財産へと成り下がったのだった。

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