第15話 実習2 調理

 手を洗い。冷蔵庫からキュウリを取り出し、料理用バットに載せる。

「キュウリはイボイボがありますね。触るとチクチクしているのは新鮮な証です。でも、食べるときは塩ずりをして、トゲを取りましょう」


「手でするんですか? 痛くないですか」

「それなら、板ずりにしましょう。その前に、湯を沸かします」


 お鍋に水を汲もうとして、先生に止められる。

「キュウリを切る前に熱湯で茹でるので、フライパンに入れましょう」

「‥‥‥あ、はい」


 切る前に茹でる? 初めて聞いたので、少し戸惑う。

 フライパンにキュウリが浸かる程度の水を張り、火にかける。


「塩もみしたきゅうりを茹でると、食感が良くなるんです。色も映えますし、雑菌も取り除けます」


「キュウリを茹でるなんてしたことなかったです」

「食感が良くなりますよ」

「そうなんですね。楽しみにしておきます」


 お湯が沸く頃に、キュウリを洗って塩を振り、まな板の上でころころと数回転がした。

 沸いたお湯に入れ、1分ほど茹でて取り出す。


「野菜の繊維は、根から始まり、茎、葉に向かって走っています。繊維に沿って切るのと、断ち切るのでは、食感や味の入り方が変わってきます。キュウリの繊維は縦ですね」


 キュウリの切断面を思い出して頷く。


「しゃきしゃきした食感が欲しい場合は縦に千切りに、サラダなど柔らかめの触感が欲しい時は斜め切りがいいでしょう。今日は和え物なので、繊維を断ち切って、輪切りにします」


 まな板に置いて、端を切り落とす。

 厚みを揃えて均一に切ることを意識してくださいと、注意を受けながら、慣れない押さえ型で包丁を持って、ゆっくりと切っていく。


 途中で切ったキュウリが刃について、邪魔に思えてきた。しかも転がって、まな板から落ちていく。

 いったん切るのを止めて、キュウリを落とす。


 手間だなと思っていると、

「包丁を少しだけ右に倒して切ってみてください」

 

 先生からもらったアドバイス通りに切ってみると、キュウリが刃から自然に落ちていくし、転がりにくくなった。

 プロの技ってすごい、と心の中で拍手する。


 切り終えて、ボウルに入れる。

「キュウリの水分を抜くために、塩水に15分ほどつけておきます」


「塩水につけるんですか」


「たて塩と言います。貝の砂抜きをする時に使いますね。今回は、500mlの水に大さじ1の塩を入れてください」


 言われるがまま、水を量ってボウルに入れ、塩を加えてから、キュウリを入れる。キッチンタイマーを15分にセットした。


「キュウリに塩をかけて、出てきた水分を流して、という方法もあるのですが、たて塩の方が、均一に塩がまわります」


「水分を抜くのは、なぜですか」

「キュウリは95%が水分です。あとから水分が出て、調味料が薄くなるので、美味しくなくなってしまいます」


「それは大事ですね」

 せっかく丁度いい味付けができても、つけている間に薄くなってしまっては、かなり残念。


「少しの手間で美味しく仕上がりますよ。次は生わかめを洗いましょう」

 冷蔵庫からパックされた生わかめを取り出して、ボウルにあける。


「茎と葉を切り分けてください。今日は葉のみを使いますね。茎は煮付けや味噌汁などに使えます」


 切り分けている間に、先生がお湯を沸かしてくれていた。

「ここにも塩を入れてくださいね」


 沸騰すると、火力を中火にし、わかめを入れた。

「もういいですよ」


 5秒ほどさっとゆがくと、茶色だったわかめが、緑色に変わった。

 お水で洗うと、緑色がもっと鮮やかになった。


 一口サイズにカットする。

 キッチンタイマーが鳴って、キュウリの水分抜きが終わったことを告げた。

 キュウリを手で絞る。


「調味料を合わせていきます。三杯酢はわかりますか」

「ええっと、酢としょう油と砂糖?」


「みりんですね。でもお砂糖でもかまいませんよ。砂糖の場合はしっかり溶かしましょう。今日はみりんで作ります。酢・しょう油・みりんを同量合わせてください」


「大さじ1ずつで足りますか?」


「作ってみて、味が物足り、量が少ないと感じたら足せばいいんです」

 私はそれが苦手なのに、と思ったけれど、何も言わずに調味料を量って合わせる。


「味見をしてみてください。器を使うか、手の甲に落としてください」

 スプーンで少しすくって、手の甲に落とし、ぺろっと舐める。


「どうですか」

「よく、わかりません」


「まずは、基本を覚えておきましょう。同じ物でも使うメーカーによって、味が違います。食材も生で食べられる物は食べてみると、甘味や水分の違いがわかるようになります。どの素材と調味料を合わせると、美味しくできるのかわかってきますよ」


「味覚って、鍛えられるんですか」

「鍛えられます。特に君たちは若いですから。良い物、高い物だけではいけませんし、ジャンクフードだけでもいけません。五味や風味を意識しながら、五感を活用して食事をしましょう」


 教科書に書いてあった。五味とは甘い・辛い・酸っぱい・苦い・うま味。

 五感は視覚・嗅覚・味覚・触覚・聴覚。


「先生、食事に聴覚は関係ありますか」

「ありますよ。音でも味わえるでしょう? ぽりぽり、ぱりぱり、ぷちぷち」


「そっか、そうですね。包丁がまな板に当たる音や、焼く音で、食事の時間を楽しみに、姉妹で待っていました」

「良い思い出ですね。音は、作る時にも重要です。これから学んでいきますからね」


 三杯酢ときゅうりとわかめを合わせて、混ぜる。


「出来上がりです。食べてみましょう」

 少量を小鉢に取って、食べてみる。

 ぽりぽりと小気味良い食感。控え目な味。


「薄く感じます」


「普段食べている物が濃い目だと、基本は薄く感じるでしょう。それに、これから味が染みますから、また違う味わいになってきます。今日はタッパに入れて、持ち帰っていいですよ。ご両親さんと味わってください」


「はい。楽しみです」

「では、後は片付けと、包丁の手入れの仕方を伝えます」


 まな板の消毒の仕方、包丁の研ぎ方などを教わり、器具の荒い物を終えて、この日の実習は終了した。

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