第16話 二人のそれぞれの道
入社丸3年が経った頃、由香は、要コーポレーションを退社する。
そして、町の一角にあるパン屋さんに、パートとして、勤めることにした。
事務仕事と違って、パン生地を捏ね、窯で焼き、調理して作る。一つ一つ丁寧に商品にして、売る仕事である。由香は、やりがいを覚える。由香は、熱心に働いた。
耕造は、以前よりも増して、より、仕事に精を出す。課長から、
「沢松君、最近、目の色が変わったね。」
と言われるほどになった。
要コーポレーションでは、社員の全員が、耕造と、辞めていった由香のを知っていた。
「近いうちに、二人は、結婚するかもね。」
そんな、噂の流れる時代だった。
しかし、実際は、耕造と由香は、半年間、逢っていなかった。二人は、それぞれに、仕事に没頭していた。
ある冬の夜遅く、耕造は、自分のアパートに帰ってきた。ヘルメットを脱ぎ、ポケットから、財布を取り出すと、机の上に置く。フーと、ため息をつくと、携帯に目をやる。しばらく見つめていたが、手を伸ばすと、コールする。
「耕造さん、由香です。」
彼女が電話に出る。耕造は、話す。
「仕事の方を、頑張っているかい?」
「ええ、今、私、充実しているわ。」
「今度、ひさしぶりに逢わないか。中央公園で、3時に。」
「いいわ。おやすみなさい。」
これだけの会話で充分だった。二人の世界は、誰も知らなかった。
耕造は、携帯電話を切ると、立ち上がって箪笥を開けて、小さな箱を取り出す。
開けてみて、可愛らしい、小さなプラチナの指輪が、小さく光輝いているのを見つめた。
時代は、平成。プロ野球では、イチローが、大リーグのニューヨークヤンキースで、活躍している。
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